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インタビュー

10円が大切だった時代の優しい物語はこうして生まれた「放課後少年」インタビュー(2/5 ページ)

昭和50年代の「昭和町」を舞台としたニンテンドーDSソフト「放課後少年」。どこか懐かしいこのゲームは、柔らかなタッチのイラストともに、人を優しい気分にさせてくれる。今回はこのゲームを作った、プロデューサーの猿田雅之氏と、ディレクターの鴻上謙史氏に、このゲームが生まれた背景について聞いてみた。

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子供のころの10円って、ほんとに価値があるんですよ

――「昭和町」のイメージ、原体験というのはあるんでしょうか。

鴻上 完全にぼくの脳内ですね。地元は、ゲームの世界と似たような雰囲気を持つ田舎なんです。田んぼや裏山あり、小さな小学校がありという。イメージに近い写真素材を集めてきたりして、それを元に構成しています。

猿田 わたしは、“山も海も行きたい”ということにこだわりました。子どもにとって、遠出をして冒険をするというのは、かなりの成長要素なんですね。ちょっと冒険したくなる場所として、山と海は押さえたいなと。海はイベントで登場するので自由には行けないのですが、こういう想定をしてほしいというオーダーは出しました。

鴻上 そうですね。“冒険”という点では、山でのエピソードを入れいています。川が流れているのは、“ここから海につながっているよ”というイメージを持ってもらうためです。

猿田 高台から昭和風な町を見る、という光景はどうしても入れたかったんです。その中で遠くに海が見えて、“あそこに行ってみるか”というような。そこも含めてステージなんです。架空ではありますが、子どもたちが遊ぶ場所としてのイメージを集約しています。

 あまり都会にはしたくなかったし、すごく田舎になってもどうかなと思っていましたので、自分たちが行ってみたくなるような、遊びたくなるような場所を抽出して凝縮したのが「放課後少年」の舞台ですね。

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――話は変わりますが「放課後少年」をプレイしていると、10円の重みを感じますね(笑)

猿田 なかなか10円が手に入らないですよね(笑)。牛乳ビンを見つけて小遣いを稼ぐのも大変です。その辺は“昔ながら”というところですが、あれだけ10円というのは価値があったんだなあと思ってもらえれば。1ゲーム10円だったりするんで、「これが牛乳ビン2本分ですか?」みたいな(笑)。

――駄菓子屋のゲームもハマりますね。お母さんからもらったお小遣い30円を、全部突っ込んでしまったこともありました。

猿田 (笑)。そういう意味でも1ゲーム1ゲーム気合いが入りますよね。「宇宙旅行ゲーム」は怖いですよ。飲み込まれ方が半端でないので(笑)。

鴻上 開発の人間でもクリアするのはけっこう難しいんですよ。

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猿田 昔のゲームは、あれくらいシビアだったかな、と思うんですよね。今のゲームってすごく簡単にできていて、誰でもクリアできるじゃないですか。昔はどちらかというと“お金を巻き上げよう”という感じで(笑)。子どもも知恵を働かせて攻略を考えていたという感じだと思うんですが。なのでそれくらいシビアじゃないとつまらないかなと思ったんです。このためかなり辛口になっています。ただし、それに見合った見返りはあるんですよ。ゲームの中の日数で28日間くらいは遊べるので、その中で何とかお金を作って、チャレンジしてもらえればと思います。

 子供のころはこういう、シビアなゲームが多かったですよね(笑)。その当時の厳しさみたいなものも体験してもらえればと思います。単に昔の雰囲気を懐かしむだけじゃなくて、「この当時は大変だったなあ」とか、「お金も大事だったなあ」といったことを思い出してもらえるとうれしいですね。そういう時代だったなと思いますし。

 昔のことを考えると、今って何でも楽になってるなあと思ったんです。懐かしさを楽しむのもいいんですが、そういう厳しい時代があったんだ、ということとか、その当時の価値観も大事かなと。そういう視点を入れて、このゲームは作られていますので。

鴻上 お金じゃないですからね。そこは譲れないところですね。

駄菓子屋はいろいろなことを教えてくれた場所だった

――あのころの駄菓子屋にはいろいろなものが売っていました。

猿田 子どもたちのコミュニティの最たる場所ですから。あそこに行けば友達はいるし、いろいろなものが売っていたので。情報交換だけでなく、そこで遊びも始まるし。すごい場所だなと思います。

――しかも10円、20円で十分に楽しめるという(笑)

猿田 そうでしょう?(笑)。1円から5円くらいのお菓子もあったりして。20円握りしめて遊びに行って十分に楽しめました。そういうことを毎日やっていたなと。とってもおもしろくて、あの場所ってよかったなとすごく思うんですよね。今はそういう場所がなくなってしまったじゃないですか。ほっとする、みんなが来る場所が駄菓子屋だったのかなと思います。

――でもなんで駄菓子屋には“おばちゃん”がいるんでしょうね(笑)

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猿田 必ずおばちゃんですよね。お姉さんとか絶対にいない(爆笑)。いつも怒られたりしながら。その分、勉強にもなりましたけど。

鴻上 ゲームの中にも駄菓子屋のおばあちゃんと会話をする、という項目が入れてあります(笑)。

猿田 ちょっと話がしたくなるんですよ。子供のころは毎日、なんていうことはないですけど、おばちゃんと会話をしていましたから。おばちゃんも子どもの顔を覚えていて、「どこどこの何ちゃんはどうしてる」というのを全部知っていますから。

鴻上 エピソードとして、駄菓子屋のおばあちゃんが、遊びに来る子どもの親のことも知っている、というのも入れてあります。

猿田 昭和町はもともと古い町なので、ずっとそのおばあちゃんはいて、みんな子供のころから見ているよ、と。お父さんなど、上の世代もずっと見続けているんですね。“歴史の生き証人”という設定なんです(笑)。お子さんが、ご年配の方と話すことは今はあまりないかもしれませんが、昔は割と自然に話ができた場所でしたね。駄菓子屋は。作りながらこういったことを思い出してきて、懐かしくなりました。不思議ですね。

鴻上 おばあちゃんのキャラクターデザインは苦労しました。どんなデザインがいいのかアンケートを採ったんですが、駄菓子屋のおばちゃんは、怖い人と優しい人と2極化していまして。最終的にはやさしい方に持って行ったんですが……。

猿田 どちらもいますね……。わたしも子供のころは駄菓子屋が2件あって、両方いました。厳しい人の方が多かったかもしれないですけど。子ども相手なので、割と厳しく接してくれていたのかもしれませんね。「しっかりしなさいよ」と。子どもって悪さするじゃないですか(笑)。目を盗んでなんとかしようという方が多いという。あえて厳しくしていたのかもしれませんけどね。

鴻上 駄菓子屋は化かし合いでしたから(笑)。

猿田 そうそう。いかに目を盗むか、みたいな。子どもは作戦を立てますから。

 先ほども鴻上が言いましたけど、本作を作るに当たってはアンケートを採ったんです。子供のころの思い出やエピソードなどをリサーチしました。アンケートから出てきたものを集約している形になっているので、駄菓子屋のおばあちゃんの設定も、そこから来ています。

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鴻上 友達の設定もそうですね。どんな子が友達にいたのか、という。

猿田 いくらドラマ仕立てで決められたストーリーとなっているとはいえ、いろいろな方に遊んでいただいたときに、その当時の出来事を思い出してほしいんです。このため、アンケートでもらった意見を、各キャラクターに投影しているんです。ですので、少ない登場人物ですが、友達の中にいたようなタイプを盛り込みました。

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