デモクラタイズなゲーム業界へ!――2008年のGDCを総括:くねくねハニィの「最近どうよ?」(その21)(6/8 ページ)
北米サンフランシスコで開催されたGame Developer Conferenceから1カ月。ようやくハニィが帰って参りました〜。とりあえず総括してみましたのでよろしこ〜。というか、なんで翻訳されているの?
マイクロソフトのキーノートスピーチ
スピーチをしたこのジョン・シャパート氏。いわゆるキャリア組(ビジネス的インテリで他業界から移ってきた人)ではなく、プログラマから始めてゲーム業界をのし上がった経歴の持ち主である。話はそれほど上手ではなかったものの、自らのゲーム業界人生を交えながらのスピーチを聞くに及び、余計なお世話ながら昨年夏にエレクトロニック・アーツからマイクロソフトに転職したばかりだからかと心配するに至るも、Xbox LIVEの責任者として堂々と発表しておりました。
ここで押さえておいて欲しい情報としては、Games CommunityとZuneにつきます。
Games Community
中堅以下のゲーム開発会社や個人にとって、スペック的にも開発費的にも工数的にもハードルが高いと思われがちの次世代機(もうこの呼び方も避けた方がいいかもしれない)ですが、これでは新しい風やイノベーティブなものの発想が限られたり、下克上は起こらない。マイクロソフトがそう結論づけたからかどうかは判断しかねますが、Xbox LIV!マーケットプレイスを、アマチュアデベロッパーを含めたすべてのゲーム開発者に「開放」するとのこと。
ゲームを開発するには、開発ツールXNA Game Studio 2.0を使うという施策。これを獲得するには、XNA Creators Clubのメンバーになればいいという手軽さで、従来限定されたサードパーティ(学校とか、特定の開発者とか)だけが提供されていたものをオープンにすることによって、世界各国いろんな人たちがゲームを開発することができるようになったわけです。実際に試験的にXNAの開発環境を開放した(400個の学校を選定して配ってみたらしい)ところ、4カ月で200作品のXNAゲームの提出があって、いくつかのタイトルがすでに発表されるまで盛り上がっています。
基調講演では、この中のひとつ「The Dishwasher(皿洗い):Dead Samurai」の開発者、ジェームズ・シルヴァ君のサクセスストーリーがコメディタッチのビデオクリップで紹介されました。実際に彼はレストランの皿洗いを職業としていたらしく、クリップの中でジェームズ君はプランナーであり、プログラマーであり、グラフィッカーであり、サウンドデザイナーであったことが明らかにされています。この成熟したゲーム業界の中で、ゲームを作りたいと願った男の子が、1人で立ち上げたものが世の中に評価される土壌があることに、ハニィはとても感銘を受けました。最後に本人が実際に壇上に上がって「XNAのおかげで、これからはスウェットで1日中過せるようになった」と発言。「皿洗いをしているときは、皿洗い人が全員を殺すゲームを作りたいと思ってました!」との問題発言を、XNA責任者のクリス・ミッチェル氏が「おいおい、勘弁してくれ」と返し、会場を笑いの渦に巻き込む場面も。
Zune
Xbox 360向けのゲームをPCでも展開するというマイクロソフトの戦略は、前々からアナウンスされていましたが、今回はそこに、Zuneが加わるとのこと。iPodが爆発的に出回ってる昨今、あまり芳しくないイメージのあるZuneですが、いよいよマイクロソフトも本腰入れるというのでしょうか? エコシステムという言葉が一時もてはやされたが、どうやらそんな大掛かりなものとも違うらしい。ハニィとしては、マイクロソフト枠のマルチプラットフォームとでも呼ぼうかと考えています。
ただ、いろいろなソフトを“マルチプラットフォーム化”するのは難しいことで、結局は相当のカスタマイズの工数がかかり大変という声も聞くことを考えると、実際はこのマイクロソフト枠マルチプラットフォームは本当の意味での「ワンソースマルチユース」を実現する最短の道なのかもしれません。XNAで制作されるコンテンツが、PC、Xbox 360、Zuneへ提供できるわけですし。さらにWindows Mobileが載ったケータイ端末なら、ケータイさえこの対象にもなるのも魅力的ではないでしょうか。
Zuneのゲームデモも披露されてて、自分がリッピングして取り込んだ好きな曲を聴きながらゲームを遊ぶことができると講演では語っていましたが、商用化まではまだ時間がかかる見通し。機能もそうですが、Zuneはデザイン性やUIなども、もうちょっと目立たせないといけないのではないかと、辛口なことを考えておりました。
マイクロソフトのキーノートまとめ
マイクロソフトはキーノートの中で「デモクラタイズ(democratize)」、日本語直訳では「民主化」という言葉を頻繁に使っていましたが、これに関してはあえて民主化と訳さないことにしてみました。記者の考える民主化とは「完全に一般ピープルに委ねられている」という認識だからです。Games Communityに関しては、アップロードされたコンテンツは、最終的にXNA Creators Clubのメンバー同士による評価プロセスを経て、表現の妥当性や適性に対する評価が行われるところまではいいですが、それ以降は結局プラットフォーマーであるマイクロソフトにすべてが託されてるわけで、最終的には完全な民主化ではないと判断しました。そのため、ここでは「開放」とあえて使ってみることにします。
誤解しないでほしいのは、ハニィはこの試みを否定しているわけではないということ。ただ、言葉に難癖をつけているようなものだとご了承ください(笑)。アメリカンドリームそのものともいえるこの取り組みには、賞賛の拍手を送りたいと思っています。
日本市場ではあまり奮っていないXbox 360だが、アメリカでは稼働率が高い――、つまり、ハードを持ってる人のソフト購入率が非常に高いっていうハード冥利につきる状況になっています。もうすぐ北米だけで1千万台を販売することになるXbox 360は、そんなコアユーザーとネットゲームで支えられているわけです。「Home」の追加情報もあまりないSCEに対する「勝利宣言」と言い切る方々もいましたが、さてどうでしょうか……。
だからと言って、任天堂ほど一般ユーザーの裾野を広げているかというと、“ハードコア”向けのゲーム機というイメージのレッテルを貼られている感のXbox 360。期せずしてそうなったかというと、マイクロソフトの製品を見るにつけ、一般ユーザーを取り込んで大きくなっている。そこから推測するに、PCでも家庭用ゲーム機でも、ポータブルプレーヤーでも、本来であれば任天堂寄りの方向に向かうべき会社ではなかったでしょうか?
ハニィが思うに、これら「コミュニティゲーム」などの「デモクライタイズ作戦」は、一見、開発者向けまたは常に新しい刺激を求めるコアユーザー向けとも取れる印象ですが、間違いなくカジュアルゲーマーへのアプローチの一環ではないでしょうか? これまでも、「ビデオマーケットプレース」でのドラマ映像ダウンロードなど、ライトユーザーへのトライアルを繰り返してきたことと何も流れを反するものでもないのです、スピーチの初めにシャパート氏が述べた「ハードコアユーサーとカジュアルゲーマーやソーシャルゲーマーの垣根をなくす」ということに尽きます。今後もマイクロソフトの「カジュアル」&「ライト」へのアプローチは続く……と理解したのですが、いかがですか?
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