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進化しようという姿勢を持って“てっぺん”を目指せ――セガ 鈴木裕氏(後編)ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その1)(1/3 ページ)

新連載「ヒライタケシの『投げる前から変化球』」第2回目は、前回に引き続きセガの鈴木裕氏にご登場いただく。日本のゲームクリエイターの質は変わってきているのか? それとも自らが変革を求めなくなったのか?

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 新連載「ヒライタケシの『投げる前から変化球』」第2回目は、前回に引き続き、セガ R&Dクリエイティブオフィサーであり、AMプラス研究開発部 部長の鈴木裕氏と、キューエンタテインメント最高技術責任者(CTO) 平井武史氏との対談をお届けしよう。

(前編はこちらへ)


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キューエンタテインメント最高技術責任者 平井武史氏(左)、セガ R&Dクリエイティブオフィサー AMプラス研究開発部 部長 鈴木裕氏(右)

ユーザーはイノベーションを求めなくなった?

平井武史氏(以下、敬称略) 昔のエンジニア、昔っていう表現もおかしいんですけど、かつてプログラミングの第一線で活躍されていた方から見て、今のエンジニアの考え方や移り変わりってどう思われますか。何となく、ゲームという分野では、日本が時代を席巻していたはずなのに、後追い技術に変わっているように見えます。特に日本のエンジニアはそういう風に思うんですが。裕さんはなぜだと思いますか?

鈴木裕氏(以下、敬称略) チャレンジャブルじゃなくなってきてますよね。

平井 先ほども話していたように、やっぱり、日本の教育文化も含めてですかね。

鈴木 日本の教育文化もありますよね。国民性もあるし、いろいろあると思いますよ。

平井 今は日本のゲーム市場も、世界の市場規模のシェアで言うと、かつての1/3から1/5程度に変わってきてますけど、どっちかというと海外のゲームの方が注目されているように思えます。

鈴木 日本人は磨くのがうまい国民性だと言いますよね。「0」から「1」じゃなくて、「1」からなにかを生み出すという。だから最初にコンピュータを発明したのは日本じゃないですよね。ゲームというのはコンピュータの上で動きますから、僕はコンピュータ文化の1つだと思っているんです。日本では、コンピュータを使って、新しいゲームなり何なりを作りましょうという話になっていて。「電子遊戯」というように、トランプや花札から、コンピュータを使った遊びになってきたっていう。それが8ビットマシンであれ、小さなメモリであれ、そういったパーツやら、いろいろなものが日本に入り、それをゲーム用に利用するというところが、日本人は優れていたんでしょうね。まずは。

 そこで進化してきたわけですが、もちろん最初のゲームはアメリカ発ですよね。例えばテキストアドベンチャーができて、RPGができてという中で、「タイムマシン」や「ウィザードリー」、もっと古くは「ステディーハウス」などいろいろなものが出てきた。そのシンメトリータイプとして“脳トレ”みたいなものも登場した。その中で結局、ゲーム機、コンピューターが最も不得意だったのがグラフィックスだったんですよ。しかもインタラクティブというのが最も不得意だったんです。“7セグ”っていう、数字を1、2、3って出すのがやっとだったんですよ、最初は。

 最終的にはゲームっていうのはビジュアルが重要じゃないですか。ビジュアルが進化すればするほど、新しいゲームが売れたんですよ。だから要は、その「1」を「10」にするっていう部分の“ビジュアル”というものがなかったんですよ。すごい素材があって、それをどんどん磨いていく作業、例えばどんどんイチゴを美味しくしていくような仕事というか。日本よりおいしいイチゴは恐らくないでしょうし(笑)、メロンもないし、ブドウもないし、という話もありますよね。

 こうした“イノベーション”が言われている中で、ICの集積技術を向上させたように、新しいものは発明しないけど、安く、大容量のメモリで、速いものを作るのは得意ですよね。そのイノベーションに乗って、グラフィックスが進化したと。そこまではよかったんですね。そこで13年前に世界のゲームシェアを80%も席巻したという話があって。

 そこでは(ゲームを作るのに)日本人が向くのか、アメリカ人が向くのか、ヨーロッパが向くのか……。どこの国が向くとか、向かないとかいう話ではないわけです。新しいんですね、全てが。過去に文化がないものをどんどん投入してきたから、日本から新しいものが上がってくれば世界中に流れる。だから8割席巻したんですね。そしてある程度、ビジュアルが向上して、音もCDをそのまま再生できるようなPCMサウンドというクオリティにまでなって。簡単に言うと、DVDの音が再生できる程度までくると、インタラクティブでもノーインタラクティブでも、ユーザーにとって映画みたいに見れちゃえば、満足できる域に達してしまったんですよね。

 そこらの差は何かっていうと、ゲーム性でしかないですよね。ある種もう、満足しちゃったんですよ、ユーザーが。満足しちゃって、ここから先は今度はマーケットの手法ですよね。映画からコンテンツを全部ゲームに持ってきたりとか。だから日本は技術のイノベーションに挑めなくなったんですよ。技術的に進歩させても、ユーザーが別に欲しがってないですね。「プレイステーション 2ぐらいでいいや」っていう人がたくさんいて、ニンテンドーDSでみんな満足してますよね。だから、今海外にどんどんやられてきたってのは、イノベーション、つまり「1」から「10」という部分でチャレンジしても、その結果をユーザーが欲しがってないという領域に入っちゃった、というところがまず1つですね。

平井 なるほど。

“売れていない”のをシステムのせいにしてはいけない

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鈴木 あとは、海外で売れてるのは……、例えば何かものを買った時にPOSで“ピッ”とスキャンしてお金を入れると、お釣りまで出てくるような“システマチックなモノ作り”というか……。

平井 そうですね。ここ10年くらい、海外ではその、システムというものに目を向けてきて、技術者の全体的な能力が底上げされている感じがしますね。日本の技術者に比べて。

鈴木 ええ。Direct Xを使っているという話も似たような理解でいいと思うんですけど、誰でもが使える……。車でたとえれば、セナ(編集注:往年の名F1ドライバー)しか乗れないようなF1用のターボ車は、普通のドライバーじゃ手に負えないわけですけど、乗る人が乗ったらぶっちぎりだったわけです。そういう時代から、誰が乗っても速い「GTR」が技術者に渡されだしてると。そこに対しては日本の技術者は、認めたくなかったりするんですよね。

平井 その上で乗れないこともありますし。OSとかの考え方もそうなのかもしれない。

鈴木 間違いなくOSの考え方ですよね。いわゆるツール提携だから。

平井 今で言う“エンジン”って言われているものも、全部そうなってきてるのかもしれないですね。

鈴木 ツールの進んだものがエンジンという呼び方で、それの割と広範囲な感じなものがOSというか。特化されているか、いないかで、同じ考え方ですね。

平井 あと海外はプレゼンテーションうまいんですよ。技術者が話をして、ビジネスサイドもそれを受け入れてという。こうした流れを使うのが当たり前になっているんです。日本ではその文化がまだないですよね。

鈴木 だから海外が、ある程度のレベルの人なら誰でも使えるようなシステムを作り上げられた。雇用の条件とかいろいろシステムが違うので、ある種日本より有効に技術者を使える状態を作ってきましたよね。

 今度は日本から彼らを見たときにどう思うのかというと、日本の人たちは、かつてはオリジナリティを持ってたと思うけど、海外のようにやらないから今度は日本は負けるんだと言う人もいて。でもそう言うのは、マネージャーとか経営者とか、割と上の方の、上層部がその意識を持った存在であればいいんですけど、末端がそういう視点に立つと、ちょっとそれは違うかなと思いますね。「このシステムでやるべきだよ」って上が言ってるのはいいですけど、末端が「システムが違うから我々は負けてるんだ」って言い出すと、違うと思います。末端のメンバーはオリジナリティを貪欲に求めているし。「どうしてもこれを作りたいんだ」とか、なんかそういう風に感じていると思いますけどね……。

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