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インタビュー

DSでフル動作するアナログシンセを作り出した人たち「KORG DS-10」開発者インタビュー(1/3 ページ)

往年のコルグのアナログシンセサイザー「MS-10」を現代に甦らせたニンテンドーDS用ソフト「KORG DS-10」がAQインタラクティブから2008年7月に発売される。その開発にかかわった方々に話をうかがうことができた。

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 「KORG DS-10」(以下、DS-10)の発売元であるAQインタラクティブの岡宮道生氏、岡宮氏とともに本プロジェクトのプロデューサーを担当するキャビアの佐野信義氏、元になったシンセサイザー「MS-10」のメーカーであるコルグの佐藤隆弘氏と井上和士氏、DS上のサウンドドライバを担当したプロキオン光田康典氏と主要開発スタッフが勢ぞろいしたインタビューは、インタビュワーがMS-10発売当初からのユーザーということもあり、非常に「濃い」内容となった。なお、+D Games編集部では、事前にDS-10の開発途中版をお借りして試用したうえで質問している。

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「MS-10」を囲んで

発想の源は、「DSの開いた形」

――MS-10からその上位機種であるMS-20、MS-20をソフトウェアシンセサイザーにしてUSB接続のミニコントローラをつけたレガシーコレクションと、個人的にずっとMS-10/20を追ってきて、DS-10で3世代目のユーザーになるので、ぜひお話を聞かせていただきたいのですが……。まず、なぜ30年前の、しかもモノフォニックシンセを選んで、それをニンテンドーDSに載せようと思ったのか、その発想はいったいどのあたりからやってきたのかを知りたいです。

岡宮道生氏(以下、敬称略) もともと佐野さんとわたしとでゲームの新しい企画を考えていて、「何をやったらいいか」と話していたら、佐野さんが、KORG MS-10というのがあって、DSを開いた形が似ているじゃないですか、という話になって。

佐野信義氏(以下、敬称略) 遠目に見ると似ているんですね。もとは飲み屋のバカ話なんですよ(笑)。その場はワッハッハで終わってしまったんですけど、岡宮さんは年上だし、何かアクションを起こさないと怒られてしまうと次の日に思ったんです。そういえば、コルグさんと名刺交換させていただいたのを思い出して、何年ぶりかで連絡して、ニンテンドーDSにシンセサイザーを載せるアイデアを話したんです。最初は「できるはずがないじゃないか」と一蹴されて終わりかと思ったんですけど、ことのほか反応がよろしくて。

佐藤隆弘氏(以下、敬称略) わたしたちはレガシーコレクションを作っているチームなんですけど……お買い上げありがとうございます(笑)。ちょうど、DSで音楽ツールを作れないかというリサーチを、新しいプロジェクトと並行して進めていたんです。そのときに偶然、佐野さんからこういうオファーをいただいたので、話がトントン拍子で進んで、開発協力をさせていただくことになったんです。

画像 AQインタラクティブ 岡宮道生氏
画像 キャビア 開発部サウンドチーム サウンドマネージャー 佐野信義氏
画像 コルグ 開発部PD6マネージャー 佐藤隆弘氏

佐野 それが1年以上前ですね。それと同時に、DSの中にいれる技術というのがわたしどもにはなくて、プロキオンさんがDSのサウンド周りの技術に長けているという話を聞いていたもので、前から光田さんと知り合っていたので、興味ありますかとメールで尋ねてみたんです。そしたら返事が速かった。付き合いはじめのカップルみたいに(笑)。

光田康典氏(以下、敬称略) やります? やりましょう。いいっす。いいっすよ、みたいな。

佐野 こんな軽くていいの、みたいな。

画像 プロキオン・スタジオ 光田康典氏

――プロキオンさんも、MS-10、レガシーコレクションというのはご存知で、ソフト音源化されているということは分かった上で判断したと。

光田 ぼくも持っていて、よく使ってますんで。うちの会社は基本的にゲームプラットフォームでサウンドドライバ周りのミドルウェアを作っているんですけど、そのオファーをいただいて、「DSなら任せてくださいよ」ということで。じゃあ、やりましょう、とトントン拍子に。

佐野 最初は「調子に乗ってんじゃない」と怒られるかと思っていたら、両社から「行けるんじゃないか」という反応があったんで、「これは!」という流れですね。

――技術的に可能だ、というのはどの辺で判断されていたんですか? モノフォニック(単音)だからOKだとか。

光田 うちで作っているドライバというのは、基本的に16チャンネルのシーケンサーが低レベルのCPUで動くんです。DS-10の場合にはゲームの画面描画がないので、余ったCPUパワーを全部シンセサイザーに持っていけばかなり動くのではないかという単純計算で。それで、「やりましょうか」と。

佐野 世界的に見ても、これはドリームチームなんですよね。コルグさんとプロキオンさんのように技術を持っているところはほかにないはずなんで。ぼくはその天才たちの中で、「のび太」の役なんです。

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――1年2年かけて、そういうことになったんですね。それはすんなりいったんですか?

佐野 こういうジャンルでこういうゲームのといったら伝わるんですけど、楽器だというのはなかなか伝えにくいですね。

岡宮 新しい切り口なんで、弊社内でもそれを認めさせるために時間が必要でした。ぼくらはいけると思ってるんですけど、ゲームというくくりではないですし、楽器ということだと楽器流通も分からないし、苦労したんです。

――シンセを学びましょうといったチュートリアルとか、ミニゲームみたいのは入れようと思わなかったんですか?

岡宮 ツールとしての機能が失われるのだったらやりたくないという考えでした。

佐野 まずは音ありき、で。

――MS-10の再現ならできる、ということでやろうと思ったわけですか?

佐野 それができるということが、コルグさん、プロキオンさんの読みだったわけです。

なぜMS-20ではなく、MS-10なのか

――個人的には、これはMS-10ではなくて、上位機種であるMS-20がモデルであるとうたってもよかったんじゃないかと思うんですが。

佐野 フランクフルトのミュージックメッセに出展してきたんですが、みなさんそう言うんですよね。これはVCOが2つだから、MS-20じゃないか、みたいな(MS-10はVCOが1つ)。

――VCOが2つだけならいいですけど(笑)。フィルターが、MS-10のローパスフィルターだけじゃなくてハイパスフィルターも、バンドパスフィルターもあるんですよね。MS-20みたいに。

佐野 はいはいはい(笑)。

佐藤 MS-10をベースに考えて、弊社内でシンセサイザーとして必要なパラメータを揉んだんですよ。その結果を今回採用したというわけです。MS-20ではないんですよね。

――どのへんがMS-20でないんでしょう?

佐藤 パッチ部もそうだし、MS-20とはいえないよね、という話で。

画像 コルグ 開発部 井上和士氏(左)

井上和士氏(以下、敬称略) 独立したローパスフィルター、ハイパスフィルターがあるわけではないですし。フィルターはMS-20の特徴ですから、その意味においてMS-20とは言えないかな、と。

佐野 ぼくのほうの答えとしては、DS-10(ディーエステン)は音の響きがいいじゃん、ということで(笑)。DS-20(ディーエスニジュー)だとねえ。トゥエンティーという人もいないですしね。

岡宮 もともとこれを始めたときのイメージコンセプトはMS-10だったんですよね。ぼくも佐野さんも、MS-10に思い入れがあったんです。

――その思い入れはどこから?

佐野 それは最初に買ったシンセがMS-10だったから。

岡宮 ぼくも最初に触ったシンセはMS-10で。

佐野 もちろんぼくもMS-20がほしかったんですけど、お金がなくて、お年玉が足りなくて、中古を2万円で買いました。

岡宮 最初に触ってもらえるシンセを目指したかったんですよ。結果的にパラメータががーんと入ってMS-20に近い感じにはなったんですけど、ぼくらの気持ちはMS-10ですね。

――MS-10が出たときにはすごく衝撃的で、それまでのシンセが10万円以上、自由に音色をいじれるものはさらに高くて、という状況でした。MS-10のおかげでシンセマニアが生まれたのだと思っています。そのムーブメントをこれで、起こしてやる、という意気込みが感じられます。

岡宮 まさにそうです。ありがとうございます。

佐野 ぼくはリアルタイムではないですけど、衝撃的でしたね。

――これがあれば何でもできる、と思ってました。今の売れ行きを考えると、DS-10も相当いけるのではないでしょうか。

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