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インタビュー

DSでフル動作するアナログシンセを作り出した人たち「KORG DS-10」開発者インタビュー(3/3 ページ)

往年のコルグのアナログシンセサイザー「MS-10」を現代に甦らせたニンテンドーDS用ソフト「KORG DS-10」がAQインタラクティブから2008年7月に発売される。その開発にかかわった方々に話をうかがうことができた。

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ドラム音源部分はどうなっている?

――やろうと思えば、パッドの4つのドラムのところに音程を変えたVCOをそれぞれアサインして、鳴らすというのもできますよね。

佐野 できますできます。それは裏技なんです。ゲームっぽいじゃないですか。例えばYouTubeとかで鳴ってて、「こいつなんでこんなにポリフォニックな音場が作れるんだろう」と、よく考えてみたらドラムのところに何度か差でやってた、みたいな。その要素は残してあるんですよ。いまはダメです(笑)。

――ぼくも発見したんで(笑)。

佐野 ぼくのほうが先でしたよ(笑)。そういうところは残しておきたいんですよ。ドラムって言い切っているじゃないですか。ドラムだったらピッチを変える必要もないし、パンもボリュームも細かくエディットできなくていいという話もあったんですが、あえてそこをできるようにしたことで、ドラムといっておきながらドラムじゃない遊び方が、作り方ができるのがいいな、と思ってて。

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――そのためにはパッドがリアルタイムで演奏できるといいなと思うんですが。

佐野 実装は予定してますが、同期・非同期というか、クォンタイズはできるようになります。

――必ずジャストなタイミングでたたけるよ、と。

佐野 リアルタイムでたたけはするけど、それはレコーディングでは再現されない、ということですね。

――レコーディングはパターン単位でしかできないんですか?

佐野 そうですね。ソングで流しながらレコーディングというのはできません。

――ソングで流しながら、1チャンネルだけはリアルタイムで弾けるというふうな。カラオケ的なことができると思うんですが。

佐野 それは考えてなかったですね(編集部注:製品版では再生のみとなった)。

――ソングのやり取りというのはできるんですか?

佐野 セッションのやりとりは可能ですね。

――セッションをほかのDS-10プレーヤーにコピーして、同時に演奏するというのはできると。

佐野 できますね。

――その場合、同期はどういうふうなかんじなんでしょうか? 片方ではソングを再生して、もう片方ではリアルタイムで演奏する、というのができるといいんですが。

佐野 それはまさに今、開発中なところで、ドキドキしてます(編集部注:製品版では、スタートの部分とBPMを合わせて演奏することが可能で、音色やシーケンスパターンは、どちらでも変更できる)。

――プリセット音色は入れないんですか?

佐野 入れますけど、いわゆるそれだけでたくさんの曲が書ける、というものじゃなくて、必要最低限なものを入れて、そこから自分でエディットしていく楽しみたいという、そういうものにしようかと。

――ドラムもキック、スネア、ハイハットくらいは入ると。

佐野 そうですね。なにか、物足りないくらいにしておきたいんですよ。そうすると、自分でなんとかしようというふうになるじゃないですか。

――あえて入れないというのもアリかなと思ったんですが。

岡宮 佐野さんはそう言ってたんですよ。

佐野 最初、ぼくはシンセだけでいいじゃん、といってたんですが、さすがにそれは乱暴で。大人の意見でいまの仕様になりました。

岡宮 狙いとしては自分で作ってほしいんで、プリセットは最低限で、というのはありますね。

ユーザーをどう広げていくか

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――オリジナルのMS-10や20には音色のチャートがありましたが、それに近いものは入れるんですか?

岡宮 取説には入りきらないので、Webサイトとかでブランクのチャートを用意して、どこかで手に入れられるようにするとか。

佐野 有名な誰だれが作ったチャートが載っているだけ、とか。普通はダウンロードしてくださいとかいうところを、「見ながらやれ」と。ちょっとずれたら全然違うとか、そういうジレンマを感じてほしい、みたいな(笑)。

――書籍とかの予定は。

岡宮 出したいですね。

――佐野さんは特別講座を準備中とか。

佐野 書籍にするよりも、ものすごい初心者向けに出したいんですよ。なるだけ専門用語は排除して。自分で考えているだけですけど。「きょうはVCOを勉強します。DS-10には4つオシレーターがあります(矩形波、三角波、鋸波、ノイズ)。宿題で、あなたの好きなオシレーターを考えてきてください。ではまた来週」みたいな(笑)。

 ぜんぜんシンセを知らないけど予約したって人がけっこういるんで、そういう人たちのために何とかして今までの経験を生かして、なるべく簡単な言葉で。

――プロのミュージシャン側の反応はどうですか?

佐野 なかなか言えませんけど、国内外の著名シンセサイザー奏者から、「え、あなたシンセ使ってましたっけ」という人まで反応があります。メッセでは「いまそこにあるそれをくれ」でしたけど。

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――DS-10だけでライブとか面白そうですね。

佐野 アンプラグドみたいに。やるときには静かにしてください、みたいな。内蔵スピーカーだけで(笑)。普通のアンプにつなげると、すごい音でますけど。

――オシレーターは自己発振もしますし(音色変化の共鳴を極端にすることで、鍵盤を押さなくても音が鳴る)。

佐野 そうですよ。コルグさんすごいですよ。ネットじゃ、コルグさんじゃないとこれは出なかったみたいな声もありますよね。

――ニコニコ動画やYouTubeでの影響は開発者から見てどうですか?

佐藤 KAOSSILATORとか、すごい演奏をする人がいるな、と。

佐野 そこにゲーム性がありますよね。すごい演奏があって、それを自分ではできない。どうやってやるんだろう、と。そこで、攻略してやろうという気が起きるんですよね。

――その点、DS-10はシーケンサーを使えるので、敷居はある意味、低くなるかもしれないですね。

佐野 特にDS-10はいままでDTMをやってきた人だったら、いままでのTipsを入れやすいので、アドバンテージがあって、いい気分になれるかなと。

――おっさんホイホイですね。

佐野 フランクフルトはおっさん大集合でしたからね(笑)。予想していたよりも上でしたけどね。年齢的には60歳くらいの人がいましたよ。パッチのところはささり方がすごいですよ。いい意味で、なんてことをしてくれたんだ、と。

――パッチは最大どのくらいささるものなんですか?

井上 1つのジャックには1本しか挿せません。ですので、最大5本になりますね。

――MIDIについては、「ない」というのを宣言したほうがいいかと思うのですが。

佐野 ない、です。

――ぼくらの世代から言わせると、もともとMIDIじゃないし、と。

佐野 はははは。そのコメントがいいですね。

――それよりはCV/GateとかHz/Voltageとか、アナログのインタフェース規格の時代ですよね。

佐野 MIDIを入れた瞬間に、クローズドな世界じゃなくなってしまうんですよね。DSの小さい世界でやっているからこそ、脳と直結する部分があるじゃないですか。外とつなげた段階で、世界観が変わってしまうんですよね。それは別なものになる。これは、閉じられたDSの広い空間でやりたいんですよ。

――どうしてもMIDIでやりたいのなら、レガシーコレクションで。

佐野 もちろんそうでございますから(笑)。しかも、DS-10である程度できるようになれば、そちらにはスムーズにいけると思うんですよ。

スケール、ネットワーク

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――使ってみて思うのは、すごく気持ちよく演奏できるということですよね。

佐野 そうですよね。すごく気持ちいいですよ。

――実は、すごく気に入ったのは、鍵盤による演奏モードなんです。スタイラスを使って。KAOSS PADよりもあっちのほうが。けっこう弾けるんですよね。空いている部分にキーをいれていくと上手になっていく。

佐野 じゃあ、KAOSS PADじゃなくて、キーボード派ですね。いろいろな派閥があって(笑)。

――KAOSS PADモードにはスケールがあるんですか?

佐野 あるんですよ。31種類。全部いく(クロマチック)のも合わせて。

――キーボードでもスケールを選べるといいんですか。

佐野 それはできないんですが、ハイブリッドでいくのも楽しいですよ。最初はKAOSS PADであたりをつけておいて、キーボードで間を埋めてって、最後のチクチクというところをステップシーケンサーでというのがオツなやり方です。

――上の画面にメニューがあって、それをカーソルキーで上下左右させて下の操作画面を切り替えられるのがいいですね。ネットワークはアドホックしかできないんですよね。サーバ上にデータを置くのは難しいんですよね。

佐野 技術的な問題だけでなく、いろいろあるんですよね。

――どうしても保存したい場合には4800円出すと、倍のセッションをセーブできますよと(笑)。

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岡宮 そこまで言うと怒られてしまうので……。あとはぜひ、アナログで録音してとっておいてほしいですね(編集注:製品版では18セッションまで記録できるので、実用上は十分と言える)。

――音質はどうなでしょう?

佐野 音色については、出音は遜色ないですね。フランクフルトではいいモニターで出してたんですが、「本当にここから出ているのか」と言われました。

――ノイズを気にする人もいるかもしれませんけど、もともとノイズを出すものですし。それよりは、ノイズがホワイトノイズだけなので、ピンクノイズがほしいところですね。

佐野 ピンクノイズ案件ですね(笑)。ぼくもピンクノイズ好きなんですよ。名前も。ピンクノイズ使います?

――雷の音とか……。

佐野 モジュレーションとかに使いませんか?

――確かにそうですね。

佐野 モジュレーションとかに使いませんでした? うすくモジュレーションをかけて……。こんな話がはずみますよ。DSを前にして(笑)。いままで話せなかったじゃないですか。飲み屋で盛り上がりますよ、おじさんたちに。

――夜のファミレスとかで。

佐野 外からは見たいけど、中には入りたくないなあ(笑)。

――DS-10に入ったKAOSS PADで、スケールというのはすごい発想ですよね。

佐野 最初はスケールってバカにしていたんですよ。それが、ELECTRIBEですっかりはまっちゃって。DS-10に入れるのはストイックじゃないなと思ってたんですが、一番いま、真っ先にやってますからね。ショウでも一番驚かれるんですよ。



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