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究極のプログラマーは「真田さん」!?――技術者のあり方とは ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その2)(1/3 ページ)

ちょっと間が空いてしまったが、ヒライタケシの「投げる前から変化球」第2回目をお届けしよう。今回はヘキサドライブの松下正和氏に登場していただこう。松下氏は大手ゲーム会社に在籍後独立。現在はゲームプログラマーの制作集団を率いている。平井氏との間で、どのような会話が展開するのか……。

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運命的な出会い

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ヘキサドライブ代表取締役 松下正和氏(右)、キューエンタテインメントCTO 平井武史氏(左)

平井武史氏(以下、敬称略) わたしと松下さんの出会いは、1年半くらい前ですかね?

松下正和氏(以下、敬称略) それぐらいですね。

平井 きっかけはもともと、とある大阪のゲーム会社への入社が決まっていた新人の子が、アルバイトとしてうちの会社に半年ほどおりまして。その子がニンテンドーDSの「メテオス」を手伝ってくれてました。彼の就職後も1年ぐらいは話をしたりと、大阪−東京間での交流は続いてたんです。そしてたまたまうちがエンジニア集団を探しているところに「会社を辞めることにした」という話を聞いたんです。次の転職先を尋ねたら「まだ言えない」という答えが返ってきました(笑)

 それは一体どういうことだと思って、大阪へ彼を訪ねていった時に、松下さんと初めてお会いしました。彼が就職した、5人のプログラマー組織の代表が松下さんだったわけです。

松下 そういえば、ちょうどそのくらいの人数だったかもしれませんね。今はおかげさまで10人以上の組織になりました。

平井 第一印象ですぐに、「あ、自分と相性が合いそうな人だ」と思いました。かっこよく言えば、「キャプテン翼」の翼君&岬君の出会いみたいな感じです(笑)。

松下 ちょっとかっこよく言いすぎかと(笑)。でも確かに、技術者同士のなにか相通じるものは感じましたね。

平井 同世代というのもあるのでしょうが、実際にお話しても好印象だったので、ぜひ自分も一緒に仕事をしたいと思って行動を開始しました。かなり社内の交渉が必要でしたが、Xbox 360のXbox LIVEアーケード版「Rez HD」の開発を一緒にすることになりました。

松下 わたしのほうも、ほぼ同じ印象でしたね。プログラマーの人って“技術者”ですから、いわゆるとんがった人が多い中で、とんがった部分は持ちつつもまろやかというか、柔らかい部分も同時に感じました。

平井 一番最初に話をしたときに、会社の「ヘキサドライブ」という名前だけは決まってたんです。ただロゴが決まってないというので、僕がロゴを描きます!と。HとDとか適当に描いた気がします(笑)。「ハイデフだし」というのが印象に残ってますね。

松下氏 確か「H!」とかだったような(笑)。

平井 そうそう。(キューエンタテインメントのロゴ)「Q?」に対抗するとか言って(笑)。でも、出来上がったロゴを見てみたら、全く違うものでちょっとがっかりしました(笑)。

 :松下さんは今の会社を興されるまでは、大阪のメーカーにいらっしゃったんですよね。

松下 はい。20歳の時に宮崎の高専を卒業して就職してから13年間、ずーっとプログラム一筋でやってきました。ゲーム業界にいる期間で言うなら15年ぐらいです。いつの間にか、こんなに経っちゃったという感じですけど。

平井 そうか、松下さんは宮崎出身の関西在住プログラマーですよね。僕は関西出身で東京在住プログラマーですから。僕も大阪で5年ほど働いていたことがありましたけど、松下さんの職場と近くてニアミスがあったかもしれないですね。

 ところで、独立した経緯って教えてもらえますか?

松下 前の会社は、大手パブリッシャーだったので、色々な制限がありました。ただ、わたしはその中で、独自のやり方をさせて頂きました。例えば、普通はタイトルありきで人を集めるのに、わたしは社内で先に人を集めてしまう珍しいスタイルを取ったんです。その上で自分達のチームに何かやらせて下さいと言ったら、じゃあこれやってみる? とタイトルが後から来た感じで。そのチームでは、昼間から映画を皆で見に行ってみたり、合宿しようと提案したり、いろいろと新しいことにチャレンジしました。

 Xbox 360で出したタイトルの時にもメインプログラムとして入りましたが、最終的にはプロジェクトマネージメントとして、企画からサウンド、デザイナー、エフェクトに至るまで他セクションのスケジュール管理までやりました。

 なぜ、そこまでやったかと言いますと、結局ゲームを作っていくうえで、どんどん効率化を進めていかないとしんどいんです。プロジェクトが大きくなる傾向が強まっている時代で、開発期間が2年、3年かかるようになって。

平井 10億規模のプロジェクトの数が増えた頃でしたね。

松下 そうですね。メンバーも疲弊してくるし、そこに対してできるアプローチをしていかないと、ゲームそのものが良くなっていかないんです。ゲームとチームをより良くするために“プログラマー”という枠と関係なく色々チャレンジしていったら、手ごたえもあるし、効率をよくすることを追求していくと、人の評価やお金といった根本的な部分にも関わりたくなっていきました。

平井 コードの最適化だけじゃなくて、いろいろなところを最適化したくなっちゃったと。肩書きを聞かれたら「オプティマイザー」って答えるといいですよ(笑)。

松下 (笑)。自分ひとりがコードを一生懸命書くよりも、複数の人をよりよく回すほうが効率はいいわけです。さらに同じでプログラマーの中だけで最適化するよりは、デザイナーもプランナーも巻き込んで最適化をすれば、もっと良くなると。

平井 その考えをどんどん大きくしていった結果、独立と。

松下 そうですね。当時いたところは大きな会社ですから。社員の立場で「給与までいじらせてくれ」とは言えませんしね。

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平井 僕もセガという会社が好きで10年いましたが、元々独立志向が強かったんです。独立したらあんなことや、こんなことをしたいと思い続けて、その許容量がセガにいるあいだに一杯になってしまいました。

 で、たまたまチャンスがあったんです。ちょうど分社化していたユナイテッドゲームアーティスツをセガに再編・統合する流れがあった時期で、会社としてもその時手がけているタイトルが終ったら、独立してもいいんじゃないか、という話になりました。

 実際に再編・統合した際には、すでに退職届を受理されている状態で、アルバイトとして協力していました。そして深夜はキューエンタテインメントで業務を行っていました。

松下 それはセガさんもよく許してくれましたね。

平井 独立するという意向は、最初に伝えてありましたから、快く受け入れてくれました。気が付いたらキューエンタテインメントも6期目になっていて、ようやくここまで来たという感じですね。4〜5人で始まった会社も今や70名ですから。

 当時オフィスには夜中、僕1人しかいませんでした。冬だったので自宅からストーブを持ち込んでヘッドフォンをして、サーバ構築をしていました。そのうち楽しくなってきちゃって歌を口ずさんでいたのですが、ヘッドフォンをしてるから気が付かないんですよね(笑)。いつの間にか後ろに水口(キューエンタテインメント代表取締役CCO 水口哲也氏)がいて笑われたり。ちなみに昼間の打ち合わせなんかは、料金が安いカラオケボックスでしましたよ。防音で環境がいい上にフリードリンクだったので(笑)

松下 その時期があるから今があるわけですね。

平井 まだまだ発展途中ですよ。将来的にみんなが望むタイトルが出せればいいなあと思っていますが。

プログラミング――チームでの開発には情報共有が何よりも大事

平井 松下さんとせっかくお話できたので、「プログラミング」と言うカテゴリでお話をさせてください。自分がプログラミングする時に心がけていることってありますか。

松下 ありきたりな話ですけれど、なるべくシンプルに、“可読性”という点を重要視しています。始めのうちはそうでもなかったんですが、最近は特に設計をしっかりしてから書くために、皆と相談を重ねてから書き始めることが増えました。複雑な処理を書くときは「こんなのどう思う?」と数人に相談しますね。ただ、コーディングする時は1人というスタイルですけど。相談しながら作り上げるというのは、わたしだけじゃなくて他のスタッフも多いです。こうして作り上げると、客観的な意見が出た上でのコーディングになって、効率がいいです。

平井 実際コードを書いている途中で、こう書いたほうがいいんじゃないだろうか。システムも変えたほうがいいかも? と思うことありますよね。設計が変わるときにはどうしてるんですか。

松下 わたし個人としては、最初の一発目ってそれほど精度が高くないんです。アーケード出身のせいかもしれませんが、作ったものに対して後から修正を入れるスタイルを取ります。

平井 僕はコーディングスタイルに関して“枠”で考える傾向があります。「こういうものをインプットしたら、こんなものをアウトプットすべきだろう」という設計をしっかりとたてて、それを企画やデザインと共有するという。枠組みの中でブロックをパズルのように組み立てていく感覚を大事にしていますね。そうすれば何かあったときに、モジュールとなるブロックだけを変えていく、あるいは追加すればいいわけです。プログラムがパズルのように、頭の中に浮かんでいる形で設計しています。まあ、よく組み間違えたりするわけですが(笑)。

 そのブロックが色分けされてるんです。ここは青いシステム部分、こっちは赤でグラフィックス部分となっていて、それをどこで割ったらいいのかを、頭の中の色で判断してますね。

松下 かっこいいなー。わたしのほうはそこまでシステマチックな思考はしてないですよ。もっとベタベタです。

平井 松下さんは大枠をきちんと見られる人なんですよ。僕は細かく分けておいて、部分的に見ていかないと大枠のサイズに負けてしまいそうなので。小さいブロックなら頑張れそうでしょう。

 そのほかに物づくりで常に意識して大切にしているのは、作っている最中からユーザーが楽しみにして待っている、自分もこのゲームのユーザーである、という感覚ですね。実際には小さいプログラミングで大した部分じゃなかったとしても、これを作ったら効果が出る、喜んでもらえるという意識を忘れないようにすると、完成したときの出来上がりが違いますよ。

松下 ユーザーを意識するというのはわたしも一緒です。ツールを作る時でも、使う人のことを考えます。

平井 自分もユーザーである意識を忘れないと、独りよがりにならない、幅広いユーザーにとって使いやすい幅広いエリアを取れて、バランスが良くなります。

松下 いいプログラマーですね。わたしはいいプログラマーについて話すとき、“あうんの呼吸”じゃないですが、こんなものがあったらいいなあと思ったときに「実はここに……」と出してくる、「宇宙戦艦ヤマト」の真田さん(※)みたいな人だと言ってます(笑)。あれがプログラマーに必要なものですよね。

※編集注:真田さん
「宇宙戦艦ヤマト」に登場する工場長兼技師長・真田志郎(声:青野武)。さまざまなメカを開発し、ガミラスとの戦いでピンチに陥ったヤマトを何回も助けることになる。編集担当としては、本文に出てくる「実はここに……」の最たるものは「アステロイド・ベルト」だと思っている。


平井 確かにあれは技術者としての、一つの要素ですね。

松下 もちろんプログラマーに限らず、クリエイターならば誰しも理想であり、よいクリエイターになるための条件として心がけたいことです。言われてからやるのではなく、常に前向きでどんどん先に作り上げていくというのが。

いろいろ言ってきましたが、「チームで情報共有する。楽しんでいただくユーザーを見据える。周りの要求の先を読んで動く。」結局、技術は人間に使われるために生み出される、という、技術が本来あるべき姿というのを常に忘れないようにすることが大事ですよね。

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