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今夜は真摯にネガティブトークをしようじゃないかヒライタケシの「投げる前から変化球」(その3)(1/3 ページ)

ヒライタケシの「投げる前から変化球」第3回目をお届けしよう。今回は「モバゲー」を1人で作ったディー・エヌ・エーの川崎修平氏を招き、若き技術者へモノ申す? ともにスペランカーが大好きな2人が、どのような会話が展開するのか……。

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ディー・エヌ・エー 取締役 ポータル・コマース事業部 システム部 システム開発グループ 川崎修平氏(右)とキューエンタテインメントCTO 平井武史氏(左)。ともにスペランカーが好きと盛り上がる場面も

平井武史氏(以下、敬称略) 昨今の技術者に対して真摯(しんし)なネガティブトークがしたいということで、今回はディー・エヌ・エーの川崎修平さんをお招きしました。今の技術者に意見があるんです。あくまでも、文句ではなく。

川崎修平氏(以下、敬称略) ずいぶん、ハードル上げますね(笑)。

平井 僕が川崎さんと話をする機会を得たのが1年ほど前でしたか。川崎さんがゲームに興味があると聞いていたのでラブコールを送らせていただきました。その時はただ飲んで帰ってきただけですが、会ったら予想したとおり面白い人で。最近は何をされているんですか?

川崎 モバゲーを作って、検索エンジンを手がけていたのですが、最近はコミュニティや基礎機能の見直しをしているところです。元々1人で触るシステムを前提に構築していたのですが、このところ開発者が増えて40名くらいになったことを受け、アーキテクチャから改めようかと。

平井 40名でやっていく中で、システム上、どこを注意されていますか? やはり分業ということでしょうか?

川崎 システムは1つですが、守備範囲で分けるとそんなにかぶらないものなんです。意図的にモジュール化しているわけではないですが、単純にこの領域をやると宣言しているとかぶらない。なるべく分業化はしたくなくって、僕的にはよってたかってガッと作れる環境にしたかったんです。かなり浅めにシステムも作られていて、依存関係は単純になっています。Subversion(バージョン管理システム)を使うけどメイントランクのみみたいな(苦笑)。

平井 かなり設計がシンプルでいいですね。分かりやすくて。今、ユーザーはどれくらいですか?

川崎 有効会員で1100万人ほどです。

平井 すごいですね。僕はコンソールなので、ミリオンタイトルといえどもある瞬間に100万人が同時に遊んでいるわけではないじゃないですか。それがずっと継続して、でしょ? そういうサービスを運営する感覚がないので、まるっきり未知の世界ですよね。サーバ台数はどれくらいですか?

川崎 そんなに多くなくて1000台ちょっとだったように思います。内訳はデータベースが半分で、残りはWebや検索、ゲームといったところですね。

平井 僕がオンラインサービスをやった時のサーバ台数なんて20台くらいですよ(笑)。ハーフラックに収まるかどうか、でもフルのほうがいいかな? とか悩む程度で。

川崎 けっこううちも、元々は貧乏仕様でやってますよ。始めた時は、失敗したらすぐ撤収できるようにと、内容にしては少なめで、10台ちょっとから始まりましたから。

平井 僕が川崎さんのどこが好きかって、現場志向なんですよ。サービスに目を向けているエンジニアで、僕もそう自負しています。「踊る大捜査線」でいうところの室井さんではなく織田裕二演じる青島なんですよ。以前、お話をさせてもらった時に、現場にいたいという気持ちに共感しちゃって。特に入口と出口でいうとアウトプットの感覚を知っているエンジニアが大事だってところが。つまりはサービスを考えているという点です。川崎さんは、いつからサービスに注目していたんですか?

川崎 元々、個人サイト上がりですので、サービスが先にあるのが当たり前であって、システムは手段でしかないんです。単純に趣味でオークション比較サイト「オークファン」をやっていましたし。

平井 ディー・エヌ・エーに入社した経緯を改めて教えてください。

川崎 「オークファン」をやっていた頃、守安(ディー・エヌ・エー取締役の守安功氏)から広報担当経由で「すばらしいサイトですね。つきましては一度お会いしたい」みたいな不審なメールをもらいまして(笑)。当時、身元も明かしていないのでけっこう怪しんだのですが、近所だったこともあり一度会ってみることにしたんです。自分が北海道在住とかだったらどうするつもりだったんでしょうね(苦笑)。それで、内部がどうなっているのか見せてくださいと、軽い気持ちで見学させてもらったらいつの間にか入社してました。

平井 何か共通するシンパシーのようなものがあったのでしょうか。

川崎 ネットオークションではある程度は有名なサイトだったのですが、当時は個人サイトでサービスやっている人間が、営利目的でやっている大きなサイトに対して、必要と思われるサービスを小気味よく提供するのがかっこいいと思っていたんです。マラソンとかでも最後尾から追い抜いていくのと同じ快感ですよね。そういう意味では追う立場でやっていくのも面白いかなと。

平井 そうしているうちにモバゲーでトップを走ることになるわけですか。ネットの世界では、やはり一番手が強いというイメージがあるのですが。

川崎 そこは重々承知してます。追っている立場からは見えなかったことも、こうして今の先行する立場からなら見えることもあるんですよ。ここは絶対負けないという強みというか。

平井 モバGのシステムとアフィリエイトの構築、連動モデルをモバゲーで創造したのはすごかった。こう来たかと。最初から構想があったのですか?

川崎 そこは見込んでいて、当時のメンバーは一致して今ある形をイメージしてました。ここで集客してここでもうけてと、みんなゴールを共有してたんです。

平井 ビジネスモデルとして入口と出口が全員共有するモデルはそうないですよね。前例がないところから作ったのは驚愕ですよ。僕がサービスに目を向けた理由は、コンソールゲームではワールドワイドでミリオンセラーとなったタイトルはあっても、当時サービスに目を向けたものが全然なかったからなんです。

 そんな中、コカコーラのキャラクター「Qoo」を使った「クーっとあそぼう。」というゲームのアートワーク以外の全行程、企画、制作、プロデュースをやったんです。セガに在籍していた頃ですので2002年ですか。そのプロジェクトをやる際、「半年間で10万人の会員数を集めてほしい」と言われたんです。当時コンソール業界では、運営開発というのは存在していなくて、作って終わりの時代です。でも半年間ももたせないといけないという至上命令ですよ。どういうモデルを作ればいいんだと悩みました。しかも、子供とママとの連動も考えてほしいと言われてしまい、ますます混迷しました。

 Qooのコンセプトは「ハッピーコンプロマイズ(楽しい妥協)」。お母さんは100%の天然果汁を飲ませたいんだけど、20%でおいしいほうがいいしうれしいという妥協も楽しいよね? というキャラクターです。それに訴求するものがほしかった。ただし、問題はそれを口コミだけで広めて欲しいという点です。そして、作ったのが、Qooの気持ちになって同じ感覚で遊べば仲良し度が上がっていくというものです。1日の使用回数も決めたりと、制限して、仲良くなれば遠くまでお散歩できるという設定で、当時では存在しなかったゲームと連動した待ち受け画像配信のシステムを構築しました。

川崎 プロモーションなしでそれはすごいですね。

平井 公式ではなく、一般サイトですよ(苦笑)。仲良し度が上がれば待ち受け画面がもらえるというシステムにしたのがよかったんですかね。30万人集めた時、5000分の1の確率でレアな待受画面が出るようにしていたのですが、デバックの際は少ない人数でやっているので本当に出るか5000分の1を試したのですがなかなか出なくって、本当に出るのかよといぶかしがったものですが、10万人いたら1日に20件ほどデータベース上出ている記録があったんです。この時、作った乱数の妥当性とリアルタイムで遊んでいるという感銘を受けたわけです。ユーザーを感じたというか、そこがサービスに目を向けた瞬間でしたね。川崎さんはリアルにユーザーを感じる瞬間とかありますか?

川崎 個人サイト時代は開発からサポート、運用まで1人でやっていたので、ユーザーからのメールの返信も自分でやっていました。だから必然的にユーザーは感じてましたね。モバイルでは、新機能のリリースをすると、1分後には大量に意見が届くんです。ユーザーから見ると運営側が会社という意識もないのか、管理人は誰? みたいなダイレクトさがある。生々しい声がすごく入ってくるんです。

2人 それを見ているとサービス視点にならざるをえない!

川崎 シンクロしちゃいましたね。

平井 お互い業界が近いようで全然違うじゃないですか。川崎さんはこっちのコンソールの業界に来てもいいんじゃないかと思っているんです。いい意味で、ネガティブの部分を持っている。システムを設計する人間って、こういう人に遊ばれたらどうするんだろうとか疑ってかかるというか、ある程度ネガティブな人間じゃないといけないと思うんです。性格面ではなく、危機管理能力という意味でのネガティブな発想がある人間がやるべきとう持論ですね。システムではコンソールでもモバイルでも一緒でしょ? 僕らの業界は欲しているんです。サービスの部分も持っている、そういう素質のエンジニアを。失礼極まりない話ですが。

川崎 いや、うれしいですね。元々ゲーム業界に入りたくてエンジニアを目指してましたから。中学生の頃は絵も書いて、音楽もやって、プログラムもできてと、1人で全部やらないといけないと思っていたんです。それでバンドもやっていました。ゲームに必要な要素を全部習得しないといけないと思っていまして、模写もやって曲もやってと。結局は才能がなかったし、全部は無理だと気がついたのですが。

平井 僕は絵も音楽も才能ないから、早々とプログラムに特化させちゃいました。消去法で。川崎さんはマルチな方面に考えられていたんですね。

川崎 モバイルだと当時……いや、今でも表現力はそれほど必要としないので、個人の力でできることが多いんです。だからこそ面白いのですが。

平井 僕もモバイルで仕事できるのかな。ある有名ゲームを開発したクリエイターさんで、モバイルへの可能性を感じてコンソールから転身されている方ですが、彼が「もうコンソールの発達していく方向と日本のユーザーが求めている方向が違う」という意識を持っていることを思い出しました。イノベーションという話に通じるものがありますが、“自由”って実は自由ではないんです。例えば、自由な空間を与えられても漠然としているというか。時代がなんでもできるという方向の中で、その方は制限があったほうが、自分で描けるし、有効にできると判断されたんですね。

川崎 技術者にはそういうところありますよね。こちらはゆっくり進んでほしいというか、制限かけていてほしいのに、勝手に制限を外されると困るみたいな。制限がある中での工夫というものを好む傾向も。設計であれ高速化であれ。

平井 僕の開発美学は設計と高速化なんですよ。単純な高速化だけやらせれば、日本で右に出るモノはいないと言いたいくらいのアッセンブラリーですから。

川崎 平井さんにはケータイアプリの高速化をやってもらいたいですよね。

平井 OSにも依存しますが、アプリはグラフィックスペースも増えて遅くなっているイメージがありますよ。

川崎 ケータイアプリを作っている限りでは、レイヤーで重くなっていくというより、ハード側の強化のほうが強いかな。出る度に楽になっていますから。昔のモバゲーの時代では、1人で作っていてもクオリティが高いと言われるほどです。そういう意味では、ゲームウォッチの頃のような極めて厳しい制限があったほうが、これしかできない世界の中でこんなものはどうだ的なのと一緒かもしれませんね。今後、ここがビジネスとしてもうかるところだと分かると、コンソールと同じ道になりそうですが。

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