ITmedia ガジェット 過去記事一覧
検索
連載

必要なのはオーディエンスへの意識と発声練習ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その4)(2/3 ページ)

ヒライタケシの「投げる前から変化球」第4回目は、ミドルウェアでゲーム開発を支えるCRI・ミドルウェア代表取締役専務の押見正雄氏を迎えて小春日和の代々木公園でピクニックとしゃれこんでみた。

PC用表示 関連情報
advertisement
晴れてよかったです

平井 CDになってから音楽は生音になるというのは前提だったのですが、そうなるとデータを読めないとなることは目に見えていましたから。だからこそADXが登場してありがたかった。

押見 狙っていたわけではなく、音楽が単純に好きだったんです。

平井 確かフルートをやってらしたんですよね?

押見 フルートをやってて、オーケストラの音楽が好きだったので、オーケストラの生音のゲームをしたかったというのが最初にありました。MIDI全盛のころだったじゃないですか。あの世界も感動するものがあったのですが。ADXを最初に採用したのは「グランディア」でした。「グランディア」はオーケストラを使用していたのですが、実際発売されたのは2年後だったので、本来の意味での最初にはならなかったのですが。それでも、MIDIだったものが、ストリーミングに変わるきっかけを与えることができたのかな。時流にあっていたんでしょう。

平井 時代も流れてファイルも音もこなれてきましたけど、次にミドルウェアで目指すものはありますか?

押見 いろいろ細かいところでは、ビデオとオーディオとファイルシステムであったりするのですが、今手がけているのはロード時間の短縮です。これはひとつの課題なのですが、「ファイルマジック」でやっています。最終的にロムに焼いた時に遅くなると、ゲームを10分間遊んでいる間、1分間ロードということになってしまうと、その分薄くなっちゃうんですよゲームが。それはよくないと。

※「ファイルマジックPRO」:ファイル圧縮と展開により読み込むファイルサイズを減らし、ロード時間を半分以下にする。また、ファイルの最適配置によりシークの発生を抑えることで、ロード時間をさらに短くすることができる。

平井 ゲームを濃度で見ますか。

押見 10分間遊んでいるのに例えば3分間ロードだと、70%しか遊べないってことじゃないですか。もっと濃度の高いゲームをしてもらいたい。途切れてほしくないし、没入感の意味でも思考が途切れるのは避けたい。

平井 僕もロード時間に何をさせるか、なにを読ませるかを常に考えていますよ。人間はもうマルチスレッドな脳に変わってきていると思うので、待つのではなく見るのでもなく、何をさせるか。ゲームをさせるという手もありましたし、トリビア的なものを読ませるというのもありましたね。要は脳の発想を変え、感情曲線をゆらす演出を心がけているんです。NOW LOADINGという文字を見ているだけではしかたがない。

押見 実験もしてて、演出のある場合と真っ暗なだけの場合だと、体感的には1.5倍ほどに感じるんです。ロードメーターがあるなしも大事で、ここで終わるという指標がある重要さが大事。ゲームやトリビアもひとつの手法です。ロード時間は目に見えないし、書かれづらい内容だと思うけど、ユーザーは気にする点でしょう。

平井 ロード時間もそうですが、ゲームに入るまでの時間と、演出を何もできない時間というのを意識してて。せめて何もできない時間で何をするのかを考えている。某ゲームだと10分間以上くらい映像を流すというのもありましたが(笑)。

押見 気軽さが減るんです。ロードで身構えないといけないというのもね。昔は、ロムを入れたらすぐ遊べたじゃないですか。各ハードはそういう路線の違いなのかもしれませんね。

平井 最近、LIVE アーケードのタイトルをディスクに焼いて発売できないかと話していたんですが、ディスクメディアに焼いてみたら具合が悪いというのがありました(苦笑)。

押見 ディスクメディアに焼いた時、遅くなることもあるし、ハードが劣化して2年経ったものでもきっちり読めるとかって経験がないと駄目なんです。リードエラーが起きたら何が起きるんだろうというのが、ゲームを作っている人はあまりご存じないのではないですか? 逆に気にしながら作らなければいけないのもどうかと思いますし、やはりモチはモチ屋。我々に任せて面白いゲームを作るのに特化してほしいんですよね。

平井 押見さんにはファイルマジックやADXもそうですが、もしセミナーの機会でもあればユーザーのマーケティングデータを発表する場にしてほしいんですよ。若い世代はなぜこうなったかという歴史も含めてマーケティングを聞く機会が必要なんです。発想もそうですが。複雑なことは単純に、単純なことは単純にやっていないという発想が素晴らしい。

押見 皆様が何をやりたいかを聞いて共通項をまとめて提供するという仕事ですからね。

平井 ミドルウェアを扱う立場から、今の開発会社を見て危惧するポイントはありますか? 今、エンタテインメントは上と下だけで中間層が評価されないじゃないですか。日本の上にはすでに海外の上がいるわけだし。どんな開発をしていけばいいと思いますか?

押見 やはりチャレンジ精神を忘れないということでしょうか。我々もチャレンジしています。ファイルマジックPROの次はストリーミングをやっていますが、世の中変わってきています。ストリーミングだけど、拍の概念のあるオーディオ環境が整ってきている現在、ストリーミングなのにテンポやピッチを変えたいという意見も、それができる環境もできてきました。それをゲームの中でも実現したいんです。MIDIの良さを捨ててきたともいえるので、MIDIとストリーミングを別の形で融合したものを次はやりたいんです。それがチャレンジということでしょう。

平井 一番欲している技術は、生音からBPMを撮るというのが欲しいですね。ありそうでない。でも、なさそうだけどなんとかできるんじゃないか? とも思える。波形からピッチを読むことがなんとかできないかな?

押見 いろんな会社から話を聞くと、そういう話も多いですね。拍やキーという概念をストリーミングの中に入れ込みたいと。昔は処理能力や製作環境の制限があったのですが、今は波形を切り貼りするのが当たり前だし、融合性は高い。次は提示していたものより、もっと先の音楽的要素が入るストリーミング音楽を提供するのが夢です。

平井 近い将来欲しているところ。すぐにでも使いたい。まさに次のタイトルでそこに行こうと思っていますよ。キューは音楽であったり、エフェクティブな演出が強みと思ってますから。音楽をベースにしたコンテンツを作りたいという意識があって。その基礎研究をしているところ。

押見 キューエンタテインメントさんと僕らが目指している分野って、けっこうオーバーラップしていますよね。新しいことに面白さや衝撃を与えられるのがゲームだと思うんです。今の日本は厳しいのは事実だと思います。直接、開発の方と話しているのでひしひしと伝わってきますし、感じています。しかし、それでもそこにはチャレンジスピリッツがあるんです。例えシリーズものが多くなっても、次には技術的により高度なものを入れて驚かせてやろうと常に挑戦の意欲を持ち続けていますよ。

平井 僕もそういう企画を出しながら前に行きたいですね。シリーズではなく、新しい喜びというものを。僕もゲームはアウトプットであり、すべての技術が収束しているものと考えています。

押見 CRIのミドルウェアは磨き上げられたものを提供しないと意味がありません。でも、ただキレイに磨かれただけのものではなく、そこに何かとがったものを作ってほしいとよく言われるんです。だからよく言っているのが、その引っかかりというかフックがないとウチらしくないと。

平井 僕はスタッフにうるさいと言われるほど同じことを言っています。同じことを言い続ければそのうち、スタッフも同じことを言い始めるという信念で。そもそもミドルウェアとはどんなものかと思っている人もいるかと。

押見 ゲームを作ることって、山を登るようなものなんじゃないでしょうか。どの山に登るかで装備が違いますよね? それが高尾山なのかエベレストなのかで全然違います。そんな時にザイルやピッケルなど、登るための装備を作っているようなものでしょうか。何があっても登頂できる装備を提供するのがミドルウェアなんです。たまに珍しいことでは、途中ガケがあって渡れなくなったと救援を受ければ、ヘリを飛ばして渡れるようにしてあげることもしている。そこは普通のミドルウェア会社とは違うところかもしれません。山を登るのにザイルから作り出すのは無理なことでしょ? そこをサポートしていくことが大事なんです。

平井 僕は航海に例えるんです。同じかもしれないのですが、一度出航したら帰ってこれないので、そこに何が必要か、どういう事件があるかなんかを推測して。

押見 八丈島へ向かっているのか小笠原諸島に向かっているのか、ガラパゴスか分からないけど、必要なものを提供するって意味では一緒です。提供されるミドルウェアでゲームの行き先(方向性)を変えることはありますか?

平井 ありますよ。道具はお任せして、船の性能を上げるのに集中できるというか、ゲームそのものに特化しようとしますね。

押見 安全に航海&登頂できることばかり考えています。6カ月かかる航海が4カ月で済むとかを、1人よがりにならないようにいろんな会社と話して、リサーチして、なにが必要かを一緒に考えています。また、それが楽しいんです。言われたものだけ作ってもつまらないし、面白い分野だと思いますよ。

平井 ミドルウェアを使うことで、目標を「もっと遠くへ」と思ってしまうことがあるくらいですから、常にお互いを高めて先へ先へって感じですか。出口の意識さえ見失わなければそれでいいんじゃないですかね。なにかそんな無茶なという要望はありませんか?

押見 ありますよ。でもそこで無理といえばおしまいじゃないですか。だから、本当にその開発者が何を必要としているのかをちゃんと聞くべきなんです。音声であれば和音の中の何が鳴っているのか知りたいという要望があっても、それは確かに現実的には無理でも、もっと正すとその要望で何がしたいのかを理解するべきです。もしかしたら元のデータで分かるかもしれない。ミドルウェアといってもいろんなスタンスがあって、パッケージで売る(欧米スタイル)のもあれば、我々のように一緒にやっていくスタンスだってある。

平井 日本独自のミドルウェアのスタイルとは?

押見 あったものでなんとかするのが多いですね。アメリカだと例えばあるネジを持ってきて、はめてみたが、はまらないならそこでおしまい。そのネジなんとかなりませんか? とは言わない。どっちかと言うとですけどね。相手によって違うかもしれませんが。

平井 アメリカはソリューションとして考えていて、設計命のような気がします。クルマとかの開発に近いのかもしれませんね。日本はもっと新しいエンタテインメントを考える方が得意なんですよ。クルマに羽根が生えたらとか考えないでしょ? 日本人は考えちゃう。考えて失敗して羽根が生える方向にもっていく。そこを助けてくれるのがCRIさんなんじゃないでしょうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る