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「ドラクエ」は挫折者を作らない――堀井雄二氏が語る「国民的ゲーム」の条件とは?(1/2 ページ)

国民的RPGとして誰もが認める「ドラゴンクエスト」シリーズ。一体なぜ「ドラクエ」はそこまでの人気を集めることができたのか?

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本当に怖いのは「黙って去っていってしまう人」

講演では堀井氏のほか、最新作「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」でプロデューサー、ディレクターをそれぞれ務めた、スクウェア・エニックスの市村龍太郎氏・藤澤仁氏も同席した

 9月1日から3日にかけ、横浜パシフィコで開催中の「CESA Developers Conference 2009(CEDEC 2009)」。最終日となる3日目には「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親として知られる、ゲームデザイナーの堀井雄二氏による基調講演が行われ、朝早くから多くの受講者たちが詰めかけていた。

「とにかく気をつけたのは“分かりやすさ”。やればおもしろいのは分かってる。でもその面白さをどうやって伝えたらいいのか」(堀井氏)

 ファミコンではじめて「ドラゴンクエスト」をリリースした当時を振り返りながら、堀井氏はこのように語った。思えば「ドラクエ」が発売される以前、RPGはごく一部のパソコンユーザーだけの遊びであって、ファミコンユーザーのほとんどはRPGというジャンルの存在さえ知らなかった。

 そこで堀井氏は「いきなりRPGは難しいだろう」と考え、まずはより要素の少ない、アドベンチャーゲームを市場に投入した。それが、堀井氏の名を広く知らしめることになった名作「ポートピア連続殺人事件」である。移動や戦闘といった複雑な要素を持たず、言葉を入力すればすぐに反応が返ってくるアドベンチャーゲームで、まずは文字を楽しむことに慣れてもらい、その次にようやく「ドラクエ」をリリースする。「ドラクエ」のヒットは、「ポートピア」が下地としてあったからこそと言っても過言ではなかった。

 またもうひとつ「マニュアルを読まなくても遊べる」というのも堀井氏のこだわりだと言う。例えば「ドラクエI」で最初に勇者が降り立つのは、7×7マスという狭い王様の部屋。ここから出るためには、扉を開けて、階段を下りるというコマンドを使わなければならなかったが、これは「何かをすればリアクションが起こる」という、RPGの基本をユーザーに知ってもらうためだったという。

 ただ堀井氏は、「説明しすぎると読む気がしなくなる」とも語っている。分からなくてもいいところはあえてスルーしてでも、説明はあくまで簡潔に。大切なのは「そこさえ覚えればできる」という「文法」をユーザーに理解してもらうこと。自分が何をすればいいのかが理解できれば、そこに期待が生まれる。期待が生まれれば、ユーザーは能動的にゲームを遊んでくれるようになる。「そうなってしまえば、どんなゲームも面白い」と堀井氏。

 今でこそ当たり前に遊ばれるようになった「RPG」だが、「ウィザードリィ」や「ウルティマ」といった初期のRPG市場は本来、非常に敷居の高いものだった。しかし、それをあえて誰でも遊べるようにしたからこそ「ドラクエ」は今のポジションに座ることができたと言えるかもしれない。

「はっきりと文句を言ってくれる人はまだいい。一番怖いのは、分からない、自分には合わなかったと言って、黙って去っていってしまう人。そういう人を増やしてはいけない。逆に“分かった”、“うれしい”という経験はユーザーの中に溜まっていく」(堀井氏)

「ドラクエ」という作品に込められた、様々な工夫や思いを語る堀井氏

到達点としての「ドラクエVIII」、危険な挑戦だった「ドラクエIX」

 しかし「国民的シリーズ」として支持される一方で、シリーズならではの苦労もあったという。

「映画でもそうだけど、1が面白いと、2はもっと、3ではさらに……といった具合に、ユーザーの期待値がどんどん上がっていく。前作と同じくらいでの面白さでは、ユーザーははつまらないと感じてしまう」(堀井氏)

 確かに「ドラクエ」に限らず、シリーズものを展開していくうえで、これは大きなジレンマとしてのしかかってくる。ただ「ドラクエ」が幸運だったのは、並行してハードも進化していったこと。使える容量が増えれば、できることも広がり、内容もそれだけ膨らんでいく。そうした流れのひとつの到達点となったのが、プレイステーション 2で発売された前作「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」だった。

「『ドラクエI』のころ、ああいう映像を思い浮かべながら遊んでいた。『ドラクエVIII』はある意味、僕の夢だった」(堀井氏)

 しかし「ドラクエIX」ではじめて、「ハードの進化」という流れは断ち切られることになる。ニンテンドーDSという携帯ハードで、どうしたら前作を越えるものを作れるか。これについては堀井氏もかなり悩み、その結果導き出されたのが、「ずっと遊べる」「みんなで遊べる」というふたつのコンセプトだったという。マルチプレイをはじめ、Wi-Fiショッピングやすれちがい通信、またほぼ無制限に強くなることができる成長システムや、クリア後も楽しめる「宝の地図」、配信クエストなど、本作で新しく追加されたシステムの多くは、上記コンセプトを実現するためのものと言っていいだろう。

 ただ、それでも開発当初は「ドラクエ」で本当にこんなゲームデザインが通用するのか、藤澤ディレクターをはじめ、開発陣も半信半疑だったという。なぜなら従来の「ドラクエ」は基本的に、「エンディングまで50時間くらい遊ぶもの」「人にヒントは聞かず、一人で攻略するもの」。そうした根本にいきなり手を加えるのは、実はかなり危険な挑戦だった。

 結果、この「ドラクエIX」というタイトルは、「PS以降の『ドラクエ』ではもっとも大きな挑戦作となった」と藤澤氏。しかしそれは「やってよかった挑戦」であり、同時に「『ドラクエ』の将来に新たな可能性をひとつ加えられた」とも藤澤氏は語っている。ただ、こうした新しいプレイスタイルが、必ずしも従来のファンに受け入れられたわけではなかったのも事実で、これについては「今後の課題として受け止め、今後もファンと一緒に、どんな『ドラクエ』がいいか模索していきたい」と藤澤氏。

ある意味、「ドラクエIX」はふたたびゼロに戻っての再出発だった

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