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遊んでいる姿が楽しそうなのが大事――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(後編)(3/5 ページ)

マリオシリーズや『Wii Fit』などで世界的な支持を得ている任天堂の宮本茂氏。その30年間の業績が評価されて、第13回文化庁メディア芸術祭では功労賞が贈られた。後編では、従来のゲームのあり方とは違った作品が開発された経緯などについて、宮本氏が受賞者シンポジウムで語った模様をお伝えする。

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対戦に逃げてはいけない

宮本 それから、「遊んでいる姿が楽しそう」というのがすごく大事な気がするんです。5年ほど前にGDC(Game Developers Conference)でスピーチすることがあったのですが、そのころ「これがテレビゲームだ」というイメージ写真が出てくる時に必ず、小学生の男の子が暗い部屋でテレビの前にいて、目に画面の絵が映っているみたいな写真が使われていたのが悲しかったのです。

 僕らにしたら「ゲームってそんなんじゃないでしょ」と思うのですが、「あれが世の中のゲームのイメージということを何とか払拭したい」ということで、「うちの嫁さんにゲームを遊ばそう」というプロジェクトを1人で立ち上げて、嫁さんをゲームにはめて、今ずいぶんはまりました。今は『レイトン教授』をクリアしましたけどね。最近では自分で勝手にカートリッジを変えたり、Wiiを立ち上げたり、ダウンロードしたりできるようになりました。


『レイトン教授と不思議な町』

 ビデオゲームはインタラクティブメディアとして本当に魅力あるものなので、いろんなことに使えるし、「そんな偏見を持たないでよ」みたいなことをずっと考えています。究極的には、家族みんなでわいわい遊んで、ゲームでずっと死んでいる人も笑っている、「くそう」と言いながら笑っているという姿をすごく作りたくて、それが割とうまくできたので世界中に通じているんだと思います。

河津 『New スーパーマリオブラザーズ Wii』は画面の前で最大4人で遊ぶという形式ですが、オンラインでつないでもっと多人数で遊ぶということは考えていましたか?

宮本 大勢で遊ぶのが面白いなら、オンラインでもっと増やしてみたらもっと面白いと思います。しかし、そういうゲームを作れる人はたくさんいると思うんですね。自分の作れるものの量って決まっていますよね。だから、任天堂として(オンラインで多人数で遊ぶゲームを)作ることになったなら、「誰かが作ったらいいのに」とか思うかもしれない。それが上手な人はたくさんいるので、僕は「その場で一緒に遊ぶ人たちがコミュニケーションできるゲームを作っていこう」とずっと思ってきました。これからはちょっと分からないですが。

 もう1つは「ゲームデザイナーとして対戦に逃げてはいけない」というのがあります。対戦したら何でも面白いですよね。どんぶりとサイコロが2個あったら、もう無人島にいても大丈夫ですよね(笑)。人間って不思議なんですけどね。僕はそんなのやってないですけど、例えばサイコロを振ってゾロ目が出たら勝ちとして、100円玉を置いてサイコロ振って、次の人もまた100円玉を置いてサイコロ振って、100円玉が積み上がってきたらドキドキしますよね。

 ゲームデザインではそういうものも利用するのですが、本質的にはその人が面白いものを見つけてきて紹介するというのがゲームデザインと思っています。だから、任天堂で対戦ゲームを作る時には、「対戦したら面白いから、対戦せずに作れよ。対戦せずに作った方が、最後対戦したらすごい面白くなるから」と言います。そういう意味では、ネットワークありき、マルチプレイありきを前提にスタートするのは、ちょっと自分の逃げのような気もして微妙なところです。

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