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CEDECのこれからを語り、ゲーム開発者へエールを送る――松原氏が基調講演で語ったことCEDEC 2010

CESAが開催するゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010(CESAデベロッパーズカンファレンス 2010)」が開幕。3日間にわたるセッションのトップバッターは、基調講演に立つコーエーテクモホールディングスの松原健二氏。和田氏もオープニングスピーチに立つ。

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CEDEC 2010開幕

 コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010」(CESAデベロッパーズカンファレンス 2010)を8月31日〜9月2日の3日間、パシフィコ横浜・会議センターにおいて開催している。

 今年で12回目を迎える「CEDEC 2010」には、ゲーム開発に関わる様々な事例を発表する場として、公募セッションと招待セッションが用意され、大学関係者による研究成果の発表の場となるポスター発表やショートセッションといった新たな取り組みも行われている。

 基調講演には、CEDECフェローに就任したコーエーテクモホールディングスの松原健二代表取締役社長をはじめ、作家の瀬名秀明氏、マサチューセッツ工科大学の石井裕教授が登場。招待セッションでは、DeNA代表取締役社長兼CEOの南場智子氏による講演や、アニメーターの大塚康生氏とゲームデザイナーの上田文人氏による対談、ポケモン代表取締役社長兼CEOの石原恒和氏やスクウェア・エニックスの吉田直樹ディレクター&市村龍太郎プロデューサーが参加するパネルディスカッションなどが予定されている。

 3日間で150を超えるセッションが用意され、2500人ものゲーム開発者が参加する「CEDEC 2010」では、ゲーム業界のトレンドを垣間見ることができる。今年はさらにゲーム関係者以外にも、セッションの一部をニコニコ生放送において中継するなど、広く一般にも開放されている(ニコニコ生放送はこちら)。

大学関係者や研究機関、個人による研究成果の発表の場がポスター発表。会場エントランスなどにブースが並ぶ。立体視に触覚や手ごたえを与える非ベース型錯触力覚インタフェースや、ARインタフェース、物理シミュレーションの世界に触れる力覚インタフェースなど、体験できる展示も

オープニングスピーチはCESA会長の和田洋一氏

 そんな「CEDEC 2010」のオープニングを飾ったCESAの会長でもある和田洋一氏は、停滞が囁かれる日本のゲーム市場が本当に欧米に後れを取っているのかと疑問を呈しつつ、「ただし、日本人はディスカッションするのが下手なのは事実」とぶち上げた。CEDECがその風土と文化を育てる場になることと、“情報共有”への迷いを払しょくする場になることを願うと挨拶した。

 和田氏もそうだし、この後基調講演に登壇した松原氏も、“情報(課題)共有”の重要性を説いていた。和田氏の言葉を借りると、日本での情報共有には以下の点を留意する必要があるのだという。

  • 「情報や知恵は与えた分だけ返ってくる」:情報や知恵は金が対価ではない。与えれば与えるほど情報が返ってくるのは、お返しする立場になれば分かること。この人に情報を渡せば、有用な情報を得られるのではないかと期待感を促す。故に情報は与えるほど、自身に集まっていく。
  • 「話すほどのことではない、なんてない」:“イノベーション”がまったく新しい発明という意味にとらえがちだが、少しずつの知恵の積み重ねであり、イノベーションの定義が偏った使い方になっているのではないか。情報に恥ずかしいものなどない。
  • 「盗まれるんじゃないかという疑惑」:情報交換は手段であり、どうやって実現するかに使われるもの。その根源となるものはおいそれと盗めるものではない。

 以上の3点を胸に、CEDEC 2010で大いに議論してほしいと、トップバッターである松原氏をステージに呼び込んだ。

基調講演初日のゲストは松原健二氏

 和田氏曰く、松原健二氏はゲームプロデューサーであり、クリエイターであり、元締めの3種類を経験した稀有な存在らしい。そんな松原氏は昨年までCEDECの運営側に身を置いており、今年からCEDECフェローという相談役のような立場に就任している。今回の基調講演で松原氏が語るのは「CEDECとは? -そのもたらす価値の追求-」というもの。松原氏は、CEDECフェローではなく、元エンジニアとして伝えたいことがあるという。

 松原氏も和田氏同様、厳しいといわれる日本のゲーム業界に対する論調に、素直に悲観するべきではないと切り出す。確かに国内市場は停滞しているし、ソーシャル&ブラウザゲームといった新たに伸びつつあるゲーム産業で、確実に商売ができているのか不透明という不安はあると認める。開発にかかる規模や効率的なゲーム開発についても、欧米より遅れているとみられる点もある。だからといってすべてダメというわけではない。「危機感がまだまだ希薄で、進化への対応が遅い」のだと松原氏。

 1980年〜1990年代、IT産業が専門家が扱っていた計算機(コア)からオフィススタッフ(カジュアル)が使うものへと変化していったように、ゲーム産業もコアからカジュアルへと技術的要素や生活要素が変わっていった時代だった。松原氏は、元々IT産業ではメインプレイヤーではなかった日本は、70年代の「フォローIBM」という漠然とトップに追随する戦略から脱却することができないまま、折からのバブルなどで危機感の欠如を招き、トップランナーへと駆け上がる機会を逸していたと噛み砕いて説明する。そこに“課題共有の欠如”もあったと、冒頭の和田氏を引き合いに出す。企業を超えて広く関わる開発者たちが、情報を共有することで叡智を呼び起こすべきだったというのだ。

 松原氏に“課題共有”を気づかせてくれたのは日本企業ではなく、チップ関連のシンポジウムである「Hot Chips」に参加したことだったと振り返る。「Hot Chips」を松原氏に勧めてくれたのも、会場でさまざまな開発者を紹介してくれたのも、提携先のヒューレットパッカードだった。日本国内は当時、ゲーム開発者が集う場所はほとんどなく、閉鎖的だったこともあり、学会はあっても直接話す場がなかったのだ。松原氏は衝撃を受けた。

 もちろん、情報提供の裏側にはノウハウの保持が必要不可欠であるが、そもそも日本では開発者同士が切磋琢磨する風土がなかった。こうしえ松原氏は、日本でも開発者同士が意見を交換する場の必要性に気づいたと、この「Hot Chips」の出来事が“課題共有”を意識する原体験となったと紹介した。

 「自分が持つ情報を共有したほうが自身の成長につながるし、他者がそれをマネしようが、おいそれと追いつけるものでもない。追いついた時にはもっと自分が先に行っているという開発者としての自信もある」。松原氏は、これからもゲーム開発で生き残るための万能な策はない(だろう)との前提で、開発者同士が切磋琢磨したところでなかなか売れるタイトルは生まれないかもしれないと断りを入れる。ただし、そうすることで売れる可能性は高めることになると語る。そのためにゲーム開発者は、謙虚さという危機感を持ち、常に前向きであれと提言する。

 進化の認識と危機感の共有、進むべき方向性の認識を持つことは、自己の研鑽につながると、自分を育てるには自分しかないとあくまでも厳しい。仕事に恵まれないのでも、会社がプログラムを用意していないと愚痴るのでもなく、まずは自分をどうしたいのかを自分に問うのが基本的な姿勢であるべきだ。CEDECはもちろん自己の研鑽(けんさん)の場でもある。大いに利用するべきとCEDECの在り方を示してみせる。そして、松原氏はその研鑽とともに持ち得なくてはならない、ゲーム開発者のビジネス意識にも言及する。

 開発者は自分の作りたいものを作ることで、モチベーションを維持する傾向にある。自分もそうだったと会場を笑わせながらも、開発者は予算と時間を無視するべきではなく、売り上げや品質に貢献しない独りよがりを戒める。もちろん、作り手としての“やりたいこと”は常に心に持ってほしいが、何事もバランスだ。「売れてなんぼ」と会場では表現していたが、「いいものだけど売れなかった」は言い訳でしかないと認識すべきなのだと松原氏。「売上やお客の満足度を底上げするのは、開発力の向上に他ならない。数値としてもそこにつながっている」ことを伝えることが、今回の講演の趣旨だと改めて説明した。

 開発者は自己を研鑽(けんさん)し、ビジネスセンスを養い、“情報共有”のために積極的にCEDECを利用してもらいたい。松原市は、「今この会場に来ていない開発者へ伝えてほしい」と会場を見渡す。「CEDECは、『ゲーム開発の抱える課題を顕在化する』、『情報・知識の共有する』、そして『開発者同士の研鑽と交流』の場。(上記を)広げるのは今、ここにいる皆さんしかあり得ない」と熱く語るも、あまり周囲に吹聴しすぎると呆れられるから伝え方に気をつけてほしいと、過去自分も舞い上がって冷たく受け止められた経験を披露し注意を促す。何事もやはりバランスだ。

 CEDECは、毎年3月にサンフランシスコで開催されているGDCに比べて規模的にはまだまだ小さい。しかし、イベントの品質は上がっているのは確かだし、業界内外での認知も高まっている。CEDECは、CESAのイベントとしてオールジャパンのイベントでもある。ざっとそれぞれのイベントの優位点をまとめると以下のとおりだ。

【GDC】

  • 規模→500セッション。1万8000人の参加者
  • 展示エリア→ミドルウェアなどツールを展示
  • チュートリアル→開催日数が多いのであるテーマを絞って講習会をする
  • ジョブフェア→転職活動がある

【CEDEC】

  • 価格→GDCは3000ドルくらい(交通費)。負担はあるがリーズナブル
  • 基調講演→ゲーム業界の中の話、一歩外の話、コンテンツを含めた中間レベルの軸で3つ用意。今年は、ゲーム業界内は松原氏。ゲーム業界の外はMITの石井氏。ゲーム業界の中間は瀬名氏と、特徴ある基調講演をそろえている
  • 開発技術ロードマップ→昨年から実施。次に2〜3年後ホットな話題を探ることができる。次どういう方向にいくのか指針に。キーワードを並べている見やすさも特徴
  • 業界研究フェア→学生を対象に、ゲーム業界にどんな仕事があるかを提示。昨年実施され、現在経済産業省の支援を受けている

 松原氏は終始、自分はどうして開発者イベントを大事にしているのかを語っていたように思う。「ゲーム開発者はスケジュールとコストとスペックを保証するべき。そして売れてなんぼだ」「モノ作り屋同士、課題の顕在化をすべき」「CEDECに来ていない人へ伝える」――。多くのゲーム開発者に向けたメッセージが散りばめられた基調講演だった。そして最後に松原氏は、「刺激を受けて、明日の仕事につなげていく」ことを提案する。やや精神論に偏った感があると自身で認めながらも、いち“元”開発者としての思いは確かに伝わったように思う。

会場では「CEDEC CHALLENGE」として、3日間でゲームを1本開発する企画が進行している。これは、ディー・エヌ・エー(DeNA)の開発チームがお題を募集。DeNAの南場智子社長による特別招待セッションの冒頭で、募集したお題の中から無作為に抽出したDeNA、グリー、ミクシィが激しく社員を奪い合って売り上げを競うというゲームを作ることになった。その名も「Platform Wars」。発表後、開発スタッフはさっそくゲーム内容をホワイトボードに書き出し、内容を詰めていく。果たして最終日までに、どんなゲームが仕上がるのか!?

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