第16回 「Apple Watch待ち」のウェアラブル市場:“ウェアラブル”の今
今、Apple関連の情報を発信しているメディアで最も熱い注目を集めているのは、間違いなく「Apple Watch」だ。これほどまでに注目されるのはなぜなのか、考えてみる。
ウェアラブルデバイスの動向を追う本連載では、「Apple Watch」のリリースに向けて、しばらくこの製品にフォーカスして記事をお届けしていこうと思う。市場も同様に、Apple Watchのリリースと、どのようにユーザーに受け入れられるのか、そして何ができるのか、に注目している。
今回は、なぜ、これほどまでにApple Watchに注目が集まっているのか、という理由から考えていこう。
買い控え現象を上手く起こした?
本連載でも触れてきた通り、スポーツ計測系、スマートヘッドフォン、メガネ型デバイスなど、ウェアラブルデバイスのバリエーションは多様化している。
そして、ウェアラブルデバイス向けにリリースされたAndroid OS「Android Wear」を用いた製品ははすでに商品化され、Motorola、LG、SamsungなどのAndroidスマートフォン・タブレットでおなじみのメーカーが、Android Wearを用いた腕時計型のデバイスをリリースしている。
Apple Watchは、すでにAndroid Wearで先行している腕時計型のウェアラブルデバイスのカテゴリーに参入する製品だ。ところが、これもAppleの広報戦略の勝利と言うべきか、まだ市場に出回っていない製品が、最も注目を集める結果となった。
というのも、2015年春にリリースする前提の製品を、2014年9月9日に発表したからだ。秘密主義で知られるAppleとしては新製品の披露から発売までの期間が非常に長い部類に入る。
おかげで、iPhoneユーザーが、他の腕時計の購入をためらう理由ができた。
先行するAndroid Wearは72万台の出荷に留まる
Apple Watchが発売前に披露されたこととはまた別の理由からも、「Apple Watch待ち」が起きていることがうかがえる。
調査会社のCanalysによると、2014年を通じて、72万台以上のAndroid Wear搭載デバイスが出荷されたという。リポートによると、円形の文字盤を採用した「Moto 360」を有するMotorolaがマーケットリーダーとなっており、同じく円形の文字盤の「LG G Watch R」も人気がある。
ウェアラブルデバイスの市場は460万台に留まっており、その中でのAndroid Wearのシェアは16%に過ぎなかった。Googleの競合は、「Pebble」などの、バージョンを重ねて進化してきたスマートウオッチや、「Tizen」OSを搭載するSamsung製の機種だという。
Android Wearが売れなかったのは、一概に“Apple Watch待ち”が原因とは言えない。というのも、Android Wearを搭載するスマートウオッチはiPhoneでは使えないし、Apple WatchはAndroidでは使えないからだ。
これはApple Watchも抱える課題かもしれないが、スマートウオッチそのものの市場がまだ拡大していないこと、また汎用型のスマートウオッチを使う強い動機を作り出せていないことが、問題と言える。
本連載でも紹介したUP by Jawboneのように、活動と睡眠の計測をする、という目的性のあるデバイスは、例えばスポーツに積極的な人、健康管理に興味がある人、という明確なターゲットを見つけることができる。そして100ドル以下で手に入れることが可能だ。
しかし汎用型のスマートウオッチは、ユーザーが使うかどうかに関わらず、「あれもできます」「これもできます」という「腕時計」としてアピールしており、前述のデバイスの3〜4倍のコストを払うことになる。
いくらAndroidユーザーが多くても、なかなか一般には広まらなかった、というのが2014年の結果と言える。
Appleの突破口はiPhoneとの深い連携に加えて、健康?
汎用型のデバイスの課題は、前述の通り、Apple Watchにも共通する問題だ。しかしAppleのCEO、ティム・クック氏は、この問題を真正面から取り上げていた。
クック氏はゴールドマン・サックスが、2月10日に開催したTechnology and Internet Conference 2015の壇上で、「現在世にある製品で、人々の生活を変えたものはない。我々がそれをやろうとしている」とApple Watchに自信を見せた。「消費者はApple Watchができることの幅広さに驚くだろう」としている(Web中継による音声がこちらで聞ける)。
Apple Watchは2014年9月に発表され、11月に開発者キット(WatchKit)が公開され、発売は2015年4月だ。開発者には少なくとも5カ月程度はApple Watch向けのアプリを開発する時間が与えられ、発売したときから、我々が愛用しているいくつかのiPhoneアプリは、Apple Watchに対応する事になるだろう。
エコシステムを整えて便利に使える状態を用意する点は、Appleが有する開発コミュニティを生かして実現する魅力となるが、クック氏は同じカンファレンスの場で、健康関連の機能についても発言している。
「誰にも好きなことはある」と前置きした上で、クック氏自身がジムでApple Watchを使っていることを紹介した。同時に、日々の健康増進に役立つ機能も披露している。
「多くの医師は、座っていることは新しいがんだと指摘する」と紹介した上で、Apple Watchをテストしていると、1時間座り続けていると振動して運動を喚起してくれる機能があることを明かし、Apple Watchを社内でテストしている人たちが、同じ周期で歩き回るようになる様子も紹介した。
市場はこれから作られる
Apple Watchは、初年度に2000万台から3000万台の販売が見込まれている。この数字は、Android Wearの73万台よりも、ウェアラブルデバイス市場全体である460万台よりも、はるかに多い数字だ。つまり、一気に市場規模が5倍、あるいはそれ以上になるという予測だ。
その予測が正しいものになるかどうか、ウェアラブルデバイスそのもののトレンドがどのように形成されるかも含めて、2015年4月のApple Watch発売をきっかけに、動き始めることになる。
個人的な期待は、クック氏が指摘する「生活を変えるウェアラブル」の姿だ。
スマートフォンも、人々の行動を大きく変えたデバイスだった。そのスマートフォンにアドオンして使うApple Watchの生活の変え方は、新しい行動を作り出す以上に、「今やっている行動が変わる」という点に注目すべきだと考えている。
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