第21回 TAG Heuerのスマートウォッチに期待する、対Apple Watchの攻め手:“ウェアラブル”の今
Apple Watchのおかげで、腕に付けるデバイスへの注目は上がっているが、長らく腕を占有してきた腕時計メーカーはどう動くのか。世界最大の時計イベントBaselworld 2015では、TAG Heuer、Google、Intelの協業が発表されるなど、動きが激しい。
Apple Watchの発売まで、1カ月を切った。4月10日には予約が始まり、アップルストアや伊勢丹などでの展示も始まる。2014年9月の発表から実に7カ月を経て、いよいよ市場に投入されようとしている。
そんな中、スイスでは3月19日から、世界中の宝飾・時計ブランド2000以上が出展する非常に華やかなイベント、Baselworld 2015が開催されている。ここで、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)グループの宝飾時計ブランド、TAG Heuer(タグ・ホイヤー)が、スマートウォッチへの取り組みを披露した。
TAG Heuer CEOのジャン=クロード・ビバー氏がステージに呼び込んだのは、GoogleのAndroid Wearエンジニアリング・ディレクター、デビッド・シングルトン氏と、Intel副社長兼ニューデバイス事業本部長、マイケル・ベル氏。
TAG Heuer、Intel、Googleの3社がスマートウォッチで協業する。左からTAG Heuer ゼネラルマネージャーのガイ・シーモン氏、TAG Heuer CEOのジャン=クロード・ビバー氏、Intel副社長兼ニューデバイス事業本部長のマイケル・ベル氏、GoogleのAndroid Wearエンジニアリング・ディレクター、デビッド・シングルトン氏
時計、プロセッサー、ソフトウェアの分野での協業を、ビバー氏は「シリコンバレーとスイス・TAG Heuerの融合」と声高に叫んでいたのが印象的だった。自社でブランドを確立しようとするAppleに対抗するメッセージであることも読み取ることができる。
TAG Heuer×Intel×Google
TAG Heuerはスイスの高級時計ブランドで、これまでクロノグラフなどのスポーツウォッチに力を入れ、その発展に貢献してきた。2003年まではF1の公式時計も担当しており、そのイメージを持つ人も少なくないはずだ。
Intelは、2015年1月に発表した「Curie」(キュリー)が武器になる。ボタン大のデバイスにも搭載できる、超低消費電力のウェアラブルデバイス向けモジュールで、384Kバイトのフラッシュメモリーに80KバイトのSRAM、DSP、センサーハブ、Bluetooth LE、センサー類などを搭載する。
Curieは、IntelのIoT戦略に欠けていたピースを埋める製品として注目されており、時計メーカーのFosssilや、サングラスやアパレルのブランド、OAKLEYと提携を決めている。TAG Heuerのスマートウォッチにもこれが搭載されることになるだろう。
またCurieで動作するのは、Android Wearとなる。Android Wearは、すでに多数のスマートウォッチが活用しており、デバイスとスマートフォンとの連携や、多彩な機能の活用が可能になる。
Appleが1社でやることを、3社協業で行う体制は、PC市場やスマートフォン市場と重
なる。台数の面で協業体制の方が圧倒的に増えることは間違いない。
スマートフォン市場ではApple 1社が半分以上の利益シェアを獲得する結果となっているが、スマートウォッチについては価格が高いこともあり、売上や利益の面でもApple以外の企業に可能性がある。
Androidでも起きている、ハードウェア、ソフトウェアなどの仕様や、対応するデバイスに関する「断絶」も発生することになるだろう。ただし、スマートフォンほど大きな影響を与えるものではないと考えている。
時計としての魅力
TAG Heuerのスマートウォッチに対する期待は、「スマートウォッチ」という種別をなくすことかもしれない。すなわち、スマートウォッチそのものに魅力を感じなくても、ブランドやデザインに惹かれて買った時計が、スマホにつながる、という自然な世界が訪れるのではないか、ということだ。
もちろん、活動やスポーツのトラッキングは重要な機能であり、スマートウォッチの最も基本的な機能として使われることになる。またスマートフォンからのフィードバックを受け取って、腕に何らかの通知を返す機能も、今後必須になっていくだろう。ただし、必ずしもディスプレイが必要なわけではないと思う。
電源確保の問題は何らかのバッテリーで対応する必要があるかもしれないが、自動巻きで動作する時計が多い中で、バッテリー交換をせずに自動巻きでスマートウォッチの機能をまかなう仕組みにも期待できる。機構が複雑化して搭載しにくくなることも考えられるが、電源周りのモジュール化にも期待だ。
スマートウォッチとしての機能のアピールではなく、できるだけ、これまでどおり普通の時計として扱うことができるようにすることが、成功の秘訣だと言える。特に、Apple Watchにはバッテリーへの不満が発売前から寄せられているが、1日しかバッテリーが持たない高級腕時計などないからだ。
また、時計が持つ、モノとしての魅力も、TAG Heuerをきっかけとしたスイスメイドのスマートウォッチが担う役割だろう。時を刻む部分と、これに付加された機能がバランス良く進化していくことになるはずだ。
Android WearのiPhone対応
もう1つ、別の視点からの期待は、タグホイヤーとしては、Anroid WearのiPhone対応を望むのではないか、という点だ。
もちろんスマートフォンの世界シェア8割以上を占めるAndroidに対応していれば問題ない、とも思えるが、先進国でシェアを伸ばしたiPhoneのユーザーを逃す訳にもいかない。
Apple Watchに対抗する意味では、当面Android Wear搭載のスマートウォッチがiPhoneに対応する必要はないが、近い将来、Android WearのiPhoneサポートが実現することになるだろう。
今回の3社の提携は、スマートウォッチに対する取り組み方の1つの例を示すことになった。TAG Heuerが属するLVMHの他のブランドへの波及があるのかどうか。あるいは全く別のブランドが、この枠組みを活用するのかどうかなど、不透明な部分も大きい。
ひとまず、Apple Watchを迎え、消費者がどのような反応を示すのかを見極めたい、というブランドも少なくないはずだ。今回の場合、その戦略は間違っていないのではないか、と考えられる。
他社が考える隙を与えないほどAppleが時計ブランドとして急成長する、というわけでもなさそうだからだ。
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