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コラム

なぜApple Watchは「防水」ではなく「耐水」なのか

Apple Watchは、「IPX7」の防水性能を持ちますが、公式Webサイトには「防水性能はありません」と記述されています。耐水性能はあるのに、防水性能はない、という不思議な表現はなぜ生まれたのでしょうか。また、本当にApple Watchは防水ではないのでしょうか。

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Apple Watchは耐水
Apple Watchは防水ではないと記載されていますが、その理由とは

 「Apple Watchは防水ではない」――。米国時間の3月9日にApple Watchの詳細情報がAppleから発表されたとき、多くのメディアがそう報じました。おそらくAppleのWebサイトの説明文や、タッチ&トライ会場での説明員の発言を元に、そのように判断したのでしょう。

 Apple Watchの製品紹介ページには、以下の記述があります。

Apple Watchは防沫性能と耐水性能を備えていますが、防水性能はありません。例えば、エクササイズ中、雨の中、手を洗う時にApple Watchを着用および使用できますが、Apple Watchを水に浸すことは推奨しません。Apple WatchにはIEC規格60529にもとづくIPX7等級の耐水性能があります。レザーバンドは耐水性ではありません。

 確かに「防水性能はありません」とあります。しかし、これだけでApple Watchが水没したら壊れる、と判断するのは早計です。よく読むと、「IPX7等級の耐水性能があります」と書かれています。このIPX7が、防水性能を読み解くキーワードになります。

 IPX7とは、国際電気標準会議で標準化されている、電子機器の外郭(ケース)に対する水や固形物侵入の保護等級を評価する試験のうち、水の浸入を防ぐ項目を一定レベルまでクリアしていることを表しています。IPX7の場合「常温で水道水、かつ静水の、水深1メートルの水槽に本体を静かに沈め、約30分間水底に放置しても、内部に浸水がなく、性能を保持できる」ということを意味します。

 細かい条件設定が多いため、省略されたり、あるいは誤解されたりして紹介されることも多いのですが、単純に「水深1メートルまで防水」という話ではありません。「静水」なので、「流水」とは違いますし、約30分という時間も、「放置」した場合であって、水中で動かしたり操作したりするわけではないのです。

 こうした条件が、Appleが「防水性能はありません」と記述した原因ではないかと考えます。「防水性能があります」と書けば、多くの人が「水の中でも使える」と誤解する可能性があります。そうすると、「プールで付けて泳いでいたら壊れた」「ダイビングで使ったら動かなくなった」といったクレームが発生することも考えられます。

 一方で、国内で発売されている、多くのAndroidスマートフォンは、防水性能があることをうたっています。それらの製品は「IPX8」もしくは「IPX7」に対応しています。IPX8は、IPX7よりも厳しい条件でのテストでも浸水せず使用できることを表す等級なので、実は厳密な規定はありません。水深がより深かったり、時間が長かったりすることが多いですが、その条件はメーカーなどによりまちまちです。

 いずれにせよ、国内では、IPX7対応のスマートフォンといえば、「防水スマホ」と認識されているわけです。この観点からすると、Apple Watchには防水性能があると言っても差し支えないでしょう。少なくとも、一般的な防水スマートフォンと同等の防水性能はあるわけです。

 ではなぜAppleはApple Watchに防水性能がないといっているのでしょうか。その秘密は、単純な言葉の認識の違いではないかと思われます。英語では、耐水を「Water Resistant」と表現します。防水は「Waterproof」です。先ほどの注意書きを英語で見ると、以下のようになっています。

Apple Watch is splash and water resistant but not waterproof. You can, for example, wear and use Apple Watch during exercise, in the rain, and while washing your hands, but submerging Apple Watch is not recommended. Apple Watch has a water resistance rating of IPX7 under IEC standard 60529. The leather bands are not water resistant.

 Water Resistantという表記は、腕時計などではよく見ると思います。国産の時計では、Water Resistantという記載がある場合、2〜3気圧の防水性能を示し、日本時計協会によると、「日常生活での汗や洗顔のときの水滴、雨などに耐えられるものですが、水仕事、水上スポーツ、素潜り(スキンダイビング)、潜水には使用しないで下さい。水圧の変化が激しい条件では使用しないで下さい。」という注意事項が挙げられています。

 つまり、英語を日本語に訳す中で、ちょっとしたニュアンスの違いが生じ、最終的に「防水ではない」と記述されるに至った可能性が高いと言えます。また「防水」と表現してしまうと保証しなくてはいけない範囲が広くなりすぎ、誤解されやすいことから「耐水」といっているのではないかとも考えられます。

 ティム・クックCEOは、以前「シャワーをあびる際にも身に着けている」と話していましたし、先日Appleが公開したApple Watchの手入れ方法によれば、Digital Crownがスムーズに動かなくなった場合は「蛇口から弱めの水流でぬるま湯を出し、その下にデジタルクラウンを10〜15秒さらします。デジタルクラウンと筐体の狭いすき間を水で流しながら、デジタルクラウンを回したり押したりする動作を続けます。」と案内されています。

 多くの人は、防水対応をうたうスマートフォンを海水に入れてはいけないことや、水中で操作することはできないことは知っているかと思います。その点では、Apple Watchは「防水」と表現しても差し支えないレベルにあると言えそうです。

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