台湾に見る「オンライン遠隔医療サービス」の現状 日本での普及促進のカギは
人口の高齢化が進み、医師不足が叫ばれる中、遠隔での検診を可能にするのが「テレメディスン」。国内では関連する法律の見直しも行われていますが、人々の生活に取り入れるためには何が必要か――。その手がかりは台湾にありました。
高齢化による医療費支出の増大や医師不足、医療設備不足の問題を解決するため、さまざまな対策が考えられています。中でも期待がかかるのが「テレメディスン」と呼ばれる、ITを使った遠隔医療です。
専用のアプリや端末を使って、患者と病院が通信することで、病院から遠方にある場所に住んでいる患者がわざわざ来院しなくても医師に自分の最新の健康情報を知らせたり、ビデオチャットで診療を受けることなどが可能になります。
日本と同じく高齢化が進む台湾の遠隔医療サービス
日本と同様に高齢化が進み、慢性疾病患者が増加傾向にある台湾でも、このテレメディスンの需要が高まっています。全土に25の公式医療施設がありますが、その80%は主要3都市に集中しているため、地方都市では医療施設不足が問題視されているのです。
そんな台湾で、2011年に、自身も医師である王照允氏が「iHealth」というヘルスケアスタートアップを創業しました。社名と同名のサービスの主な内容は、専門医による薬の訪問配達。現在14人の若い医師を抱えています。
サービスの利用者は、主に地方に住む慢性病患者や介護施設の利用者で、現在は台湾の老人ホームの3分の1にあたる500以上もの施設で利用されています。テレメディスンとしての具体的な取り組みは、独自のオンラインシステムを使って、患者の処方箋をオンライン上で管理している点です。
いつ、どの薬が処方されのたかが記録されているため、患者自身もWeb上で「お薬手帳」として見返すことができます。
利用方法はとてもシンプル。iHealthのWebサイトでメールアドレスを入力してユーザー登録をし、その後、処方した医師の名前と社会保障番号を入力します。そして処方箋をアップロード、もしくはファックスで送信するだけで、時間指定も可能な薬の配達依頼ができます。薬局ネットワークと提携しているので、注文して薬の在庫が切れているといったことが起こらないような工夫もなされています。
さらに、配達時には専門医師が対面での診断も行うため、患者は病院に足を運ばずに、家にいながら専門医の診断を受けることが可能です。
また、ユーザーの中には、主に高齢者などモバイル端末やインターネットの操作に慣れていないひとも含まれることを想定しており、モバイル端末やWebサイトからだけでなく、電話やファックスでも24時間対応できる体制を整えています。
「田舎と都市の医療ギャップを無くしたい」という信念のもと、今後は台湾のみならず、地方都市で医師不足や医療設備不足に悩まされている、中国、香港、シンガポール、韓国にもサービスを広げていくそうです。
テレメディスンの認知度向上が浸透の鍵
iHealthは処方せん医薬品の記録をオンライン管理したり、訪問配達による自宅検診を可能にするという点で特徴的ですが、台湾には他にもテレメディスンを可能にするサービスがあります。例えば、「TaiDoc」という医療機器メーカーは、血糖値や血圧を測定する機器と連携できる無料のモバイルアプリを提供しています。
日本でも、NTTコムウェアが医師も閲覧可能な患者の血圧測定のカルテをモバイルアプリで開発しているようですが、「主治医と専門医の間でやりとりするためのテレメディスン」という側面が強く、iHealthのように専門医と患者をつなぐようなサービスは、普及しているとは言い難いのが現状のようです。
日本でテレメディスンが進んでいない理由として、制度が整備されていない、また国民による認知度の低さが挙げられます。日本の医師法では、2011年まで医師と患者の間で行われる無診察による遠隔医療は認められないものとされており、認められた後も国民に認知されにくい状況が続いています。
一方、台湾では2007年から政府の後押しによる遠隔医療に対する国民認知度向上のキャンペーンが行われています。技術産業省は「U-care(ユビキタス・ケア)」というプロジェクトを発足し、高齢者向けにテレメディスンの認知向上の施策を国立病院や民間企業と共同で行いました。その結果、病院がテレメディスンを積極的に取り入れたり、国民の抵抗感を和らげることにつながったのです。
日本でも医師や医療施設の不足は社会問題となっており、医師や設備を補完するような対策が必要とされています。台湾でのiHealthのアプローチやその背景にある台湾政府の取り組みは、日本が今まさに直面している医療問題の解決の手がかりとなるかもしれません。
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