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遺伝性乳がんの「予防的」摘出手術は日本でも可能か?

アンジェリーナ・ジョリーのように、遺伝子検査によって未来の病気を防ぐのは、日本国内ではまだ難しいかもしれません。なぜなら、日本とは違う、米国特有の医療の現状がそこには存在しているからです。

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アメリカでは、予防的切除によってリスクを軽減できるとの研究結果が

 乳がんは、もともと欧米でも頻度が高い病気です。米国の統計では、乳がん患者全体の5〜10%が遺伝性のものだとされています。欧米のデータでは、遺伝性の乳がんの保因者の50歳までに乳がんを発症するリスクは、遺伝子変異をもたない場合の6〜12倍といわれています。

 欧米では遺伝性乳がんの研究を進めた結果、予防的切除によってリスクを減らせるとの結論が研究によって明らかとなりました。そのため、乳がんのリスクが高かった場合には切除手術が行われることもあります。アンジェリーナ・ジョリーが予防的切除に踏み切ったのも、このような科学的根拠があったからと考えられます。

 一方の日本では、残念ながら日本人を対象としたデータで、リスクを減らせるという研究結果はありません。日本人を対象としたデータがないため、病院や医師も積極的に手術を勧めることはできないのです。


予防的切除によってリスクを軽減できたという研究結果。日本人ではまだ研究結果の発表はされていない。(参照:Navigene 遺伝性乳がんの予防について

アメリカの予防的切除は民間の保険が適用可能

 実は、アメリカでは日本と違い民間の医療保険が主流であり、遺伝性乳がん・遺伝性卵巣がんの検査および予防的切除によるリスク軽減効果を認め、保険適用とする企業が存在しています。今回のアンジェリーナのケースも、保険の対象になると考えられます。

 一方、日本ではまず、この遺伝性乳がんの遺伝子検査が保険適用ではなく、費用は20万〜30万円程度掛かります。さらに予防的な切除手術も保険適用外となります。

 日本で保険が適応されないのは、前述のように科学的根拠を明確に示す研究がまだなされていないからです。更に日本の場合は、国民皆保険が基本であり、民間保険会社が独自の判断で保険商品を作る、ということもなかなかできません。

 自分の遺伝情報を知ることへのなじみもなく、それに対応する社会的な環境が十分ではないというが日本の現状であり、アンジェリーナの件を正しく受け止めるには、このような背景の違いをよく理解しておかなければなりません。

日本のHBOC治療の最先端

 現状の日本ではまだ、遺伝性乳がん(正式には遺伝性乳がん・卵巣がん症候群、HBOCと呼びます)の予防的切除が積極的にはおこなわれていません。研究や社会制度の進み具合の違いが背景にありますが、ではこのような現状に対して何か取り組みが行われているのでしょうか。

 実は、2014年より日本人の乳がん患者の情報を整理・研究する取り組みが始まっています。もしかしたら将来、HBOCに対する予防的切除手術に日本の保険が適用される可能性もあります。

 また、HBOCに関する正しい知識の普及のため、医療関係者を対象とした教育セミナーや、乳がんおよび卵巣がんの患者を主な対象とした一般向けの公開講座などの啓発活動も実施されています。


2014年12月には日本対がん協会とがん研究会有明病院の共催のもと、遺伝性乳がん卵巣がんについての一般向けセミナーが開催された。(写真はイメージで、記事と直接の関係はありません。写真:Guilhem Vellut/クリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般 元ページリンク

 日本での遺伝性乳がん・卵巣がんも欧米のデータを鑑みると、リスク保因者には保険適用での早期発見・予防が望まれます。そのためには、日本における調査・研究の進展と広い理解を得られる社会的環境づくりが課題となっています。

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