ソニーはスマートウォッチの“もう1つの解”を示せるか
ソニーが発表した「wena wrist」というスマートウォッチは、スマートフォンと連携するスマート機能と腕時計を、今までとは異なるアプローチで融合した製品です。文字盤がディスプレイになる一般的なスマートウォッチとは逆の取り組みとも言えるこの製品、新しい可能性を感じます。
Apple Watchが、スマートウォッチ市場で大きなシェアを獲得し、先行するAndroid Wear搭載スマートウォッチも、ドイツで開催されているコンシューマーエレクトロニクスの展示会「IFA 2015」に合わせて続々と新モデルを発表する中、ソニーが発表したスマートウォッチのプロジェクトが注目を集めています。
「wena wrist」(ウェナ・リスト)と名付けられたこのプロジェクトは、時計の文字盤部分はシチズン時計が設計・製造を手がけ、ステンレス素材「SUS316L」製のバンドの部分に、iPhoneと連携するおサイフケータイ(FeliCa)、通知用のバイブレーター、活動量計の機能を組み込んだ製品です。価格はカラーと文字盤のデザインによって3万4800円(すでに売り切れ)から6万9800円までのレンジで用意されています。
ソニーのクラウドファンディングサイト、「First Flight」で資金調達を開始するや、即日目標金額を上回る支援を獲得し、製品化が決定。本稿執筆時点では、目標金額の6倍を超える支援が集まっています。
wena wristが今までのいわゆるスマートウォッチと違うのは、時計としてのデザインや機能はあくまでも時計のまま、“スマート”な機能をバンド部分に仕込んだ点です。このアプローチには、時刻が常時表示できるなど、スマートウォッチに「ちゃんとした時計」としての要素を求めるユーザーを中心に、肯定的な意見が多い印象です。
Apple WatchやAndroid Wearを中心とした、いわゆるスマートウォッチは、スマートデバイスを小さくしていく過程で生まれてきた製品と言えます。時計の文字盤に当たる部分をディスプレイデバイスにして、そこに時刻だけでなく、スマートフォンと連携してさまざまな情報を表示するスタイルが一般的です。
これらは液晶や有機ELをディスプレイに採用するため、腕時計とは比べものにならないほどバッテリーの消費量が多く、充電せずに利用できる時間は長くても数日。文字盤は普段は消えているものも多く、角度が合わないと、文字盤をのぞき込んでも時刻が確認できないこともあります。しかもバッテリーが切れてしまうと、時計としても使えなくなります。
一方wena wristは、ディスプレイは搭載しておらず、文字盤は一般的な腕時計と同じ。スマートな機能はバンドのバックル部分に内蔵したLEDとバイブレーターで実現しています。時計の部分とスマート部分は完全に分離しているので、スマート部分のバッテリーが切れても、時計は機能し続けます。もちろんいつ、どんな姿勢であっても文字盤を確認すれば時間が分かります。メールを確認したり、専用アプリを動かしたりはできませんが、そこはスマートフォンで担えばよい、という考え方です。
スイスの時計メーカーの一部や、フランスのWithingsが販売する「Activite」のように、活動量計(モーションセンサー)のみを時計部分に内蔵し、スマートフォンと連携する「コネクテッドウォッチ」と呼ぶ腕時計も登場していますが、wena wristはこうした時計をスマートにしていく過程で生まれた製品の仲間に近く、Apple WatchやAndroid Wearなどとは逆のアプローチの製品と言えるでしょう。
Apple Watchなどのスマートウォッチが、文字盤が主でバンドがアクセサリーであるのに対し、wena wristはバンドが主で文字盤がある意味アクセサリーな訳です。これは、スマートウォッチの今後の進化の筋道を示す、1つの解なのかもしれません。
wena wristの出荷は、2016年3月の予定。その頃までに、Apple WatchにはwatchOS 2がリリースされ、多数のアプリも登場しているでしょうし、Android Wearにはバッテリーが持つ新モデルが多数登場しているはず。つまり、状況は現在とはまた変わっていると思われます。カシオ計算機も2016年のCESでスマートウォッチを発表すると宣言しており、あっと驚くような製品が出てくるかもしれません。
今後同様なアプローチの製品が登場してくるのか、まだスマートウォッチ市場には本格参入していない日本の時計メーカーはどんな時計を出すのか。「正解」がまだないスマートウォッチ市場は、この1〜2年で大きな変貌を遂げそうです。
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