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分身ロボット「OriHime」って何だ? ヒトとロボットが“そこにいる”ことの意味

ロボットと人間の距離がどんどん縮まりつつある現代。人間の代わりになるロボットが既に活動を始めています。「OriHime」と名付けられた分身ロボットとは、一体どんなものなのでしょう。

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分身ロボット「OriHime」って何だ?
分身ロボット「OriHime」と、開発者の吉藤オリィさん

 2001年に公開された「A.I.」という映画を覚えているでしょうか。人間をサポートするためのロボットが当たり前になった近未来に、不治の病にかかった少年の代わりとなる、愛をプログラムされた少年ロボットの話。フィクションでしかなかったこうしたロボットの存在が、今、映画とは違うカタチではありますが、現実になろうとしています。

人がいなければ動かない。それが分身ロボット

 OriHimeとは、開発者の吉藤オリィさんが、自身の不登校の体験をもとに開発した“分身ロボット”です。ロボットと聞いて、それこそA.Iに出てきた少年ロボットや、会話型ロボットであるPepperを思い浮かべた人も多いことでしょう。しかし、OriHimeにはこれらのいわゆる「自律型ロボット」とは決定的に違う点があります。

 それは、OriHimeを動かすのはあくまでも人間である、ということ。

 例えば、搭載されたAI(人工知能)によって動くPepperなら、電源さえ入っていれば単独で会話をすることができます。けれど、OriHimeはたとえ電源が入っていても、それを動かす人がいなければ、うなずきもしないし、手を振ったりもしない。当然、会話をすることもできません。

 OriHimeは、その向こうに人がいるからこそ成り立つロボット。だからこそ、分身ロボットと呼ばれるのです。

SkypeやTV電話との違い――そこに「いる」ということ

 では、OriHimeでどんなことができるのでしょう。

 1つは、内蔵のカメラを通して風景や周囲の人を見ること。タブレットを操作して首をぐるりを動かせば、カメラでその周囲を見渡すことができます。何かを見たいと思ったら、自分でOriHimeを見たい方向に向ければいいのです。空を見上げたり、左右を見渡したり、自由に視点が変えられるから、まるで自分がその場にいるかのように感じることができます。

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OriHimeの使い方。操作者はタブレットを使って簡単にOriHimeを動かせる

 もう1つOriHimeにできることがあります。それは、マイクやスピーカーを通して会話をすること。もちろんこれは、電話やSkypeのようなTV電話でも可能です。けれど、それらとOriHimeが決定的に違うのは、人のカタチをしていることです。うなずいたり、首を左右に振って意思表示ができるのはもちろんですが、ちょっとしたしぐさで自分の感情を表すこともできます。例えば、片手を上げてあいさつをしたり、うれしい時に手をパタパタさせたり、時には、首をかしげて「困ったな」と伝えることも。

 こうして、操作する人が感情を表現することで、表情のないはずのOriHimeが表情豊かに見えてくるから不思議です。そして、操作をしている人の顔が自然と思い浮かんできます。

 この記事で初めて分身ロボットの存在を知ったという方は、この「誰かの代わりをしたロボットが、カタチとしてそこにいる・ある」ということが、どれほど利用者にとって大きな意味を持つのかということに、当初はなかなか気付きづらいかもしれません。ただ身体(ボディ)のアクションを伴ったTV電話に過ぎないのではないか? と。

 しかし、そうした見方では「分身ロボットが分身ロボットであるゆえん」その本質を見落としてしまいます。少しお時間がある方は、ぜひ次の動画を見てみてください。

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分身ロボットOriHime

分身ロボットの使い方、生かし方

 既に実用化が始まっているOriHimeですが、現在、どのような場所で、どのような人たちに使われているのでしょう。

 例えば、寝たきりで動けない人が使っている例があります。

 盛岡市に住む番田雄太さんは、幼いころに事故に遭い、首から下が動かせません。けれど、OriHimeを使い、東京のオリィ研究所に社員として“通勤”したり、2013年にはパリへ行き初めての海外旅行も経験しました。番田さんの代わりにOriHimeが東京やパリに出向き、OriHimeが見た風景をリアルタイムで番田さんが共有。現地の人とも積極的に触れ合いました。


公式サイトに掲載されている番田さんの事例

 ALS患者のお父さんが家族とコミュニケーションを取るために使っているノルウェーでの例では、現地のTV番組で紹介され大きな反響を読んだと言います。

 また、単身赴任のお父さんとの会話や、故郷で暮らすご両親の見守りなどの他、大切な結婚式にOriHimeで出席した例や、フリースクールでOriHimeを通して授業を受けた例など、使われる場所や人は十人十色。OriHimeを必要としている人の数だけ、使い方があるようです。


 さて、少しはOriHimeの存在価値と未来像が見えてきたでしょうか。今後は実用例のリポートなども行いつつ、より深くOriHimeの可能性を探っていきたいと思います。

 ということで次回は、OriHimeの開発者である、オリィ研究所の吉藤オリィさんに直撃インタビューを敢行。オリィさんがOriHimeに込めた思いや託す未来について語っていただこうと思います。乞うご期待!!

テレビ番組情報

 本日9月24日13時5分から、NHK Eテレ「ハートネットTV」にて「リハビリ・介護を生きる ロボットに愛を OriHimeは人と人をつなぐ」が放送されます(9月17日放送分の再放送)。吉藤さんとOriHimeのこれまでとこれからをまとめた内容となっています。


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