飢えと栄養失調(低栄養および栄養過多)は、ほかのあらゆる疾患と同じくらい世界の保健を脅かすものです――国際赤十字・新月者連盟の「世界災害報告 2011年版(要約)」にはこのように書かれています。今や肥満は世界レベルの問題。ここではどれだけ「肥満」が世界にとって深刻な問題か、解説します。
「世界は肥満で溢れている」という事実
ウォールストリートジャーナルWeb版によると、米ワシントン大学の保健指標評価研究所の研究者が中心となった調査で、2013年の時点で世界人口の約29%=21億人が過体重か肥満であるという結果が出ています。しかもこの肥満人口の3分の2弱は途上国に住んでいるのだとか。
事実、世界保健機構(WHO)の直近のデータによれば、対人口比のBMI(肥満度。日本では25、世界では30が肥満の基準となっています)値のトップ10の中で先進国と呼べるのは、米国のみです。1位の太平洋南西部に浮かぶサンゴ礁の島国・ナウル共和国の数値はなんと78.5%。むしろ肥満がスタンダードです。しかしなぜ本来貧困であるはずの途上国の人々が肥満で苦しむ羽目になるのでしょうか?
どうして世界が肥満で溢れかえっているのか?
この問題について、農作と食の在り方を30年間で見直す「The 30 Project」を主宰するEllen Gustafsonは、2010年に行ったTEDのスピーチで次のように話しています。いわく、アフリカで飢餓問題が深刻化するにつれて農業が急速に衰退していったことと、そこに米国が作る食料加工品(ファストフード)などが流入したからだ――と。
対して裕福な国での肥満人口は、増加の一途をたどっており、「世界災害報告 2011年版(要約)」によれば2050年までに英国の成人人口は60%が肥満になるとされています。その原因の1つが安いジャンクフード。世界の肥満人口増加の傾向はどんどん加速しており、WHOも頭を抱えているのが現状です。
世界各国の「ジャンクフード税」
この状況を受け、世界各国の政府も本格的に動き始めています。例えば脂肪分の多い食品に課税するデンマークの「脂肪税」、大量の砂糖や塩分を含む食品・飲料に課税するハンガリーの通称「ポテトチップス税」、そして2015年4月からアメリカで導入された「ジャンクフード税」。
肥満を促進する食べ物に対し税金をかけて、人々の消費がジャンクフードに向かないように必死の状況です。もちろん、いまのところ日本ではこの手の課税は行われていません。世界規模で見た場合、日本の肥満度はまだまだ低いからです。しかし「太っていても別によくない?」という発言が、世界中で非常識になる時代はもうすぐそこまで来ているのかもしれません
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