分身ロボット「OriHime」に込めた想い 開発者吉藤オリィさんが見る未来とは
開発者が語る、分身ロボット「OriHime」の誕生秘話。ロボットと目と目を合わせて話すことの意味、そして未来へ託す想いとは。
分身ロボット「OriHime」の誕生秘話と、未来の姿を追う本企画。開発者・吉藤オリィさんの想いが詰まったOriHimeはどうブラッシュアップされていったのでしょうか。
オリィさんが歩いてきた人生のさまざまな出来事が、全てOriHimeにつながっていく。お話を聞くほどに、そんな想いが強くなっていきました。そして、OriHimeはオリィさんだけでなく、いろいろな人の想いを取り込んで、どんどんカタチを変えていくことになるのです。
「目は口ほどにものをいう」はロボットにも通じる
「なぜ人型のOriHimeをやめたのかというと、そこから読み取れる情報が多すぎたんです。例えば、足があれば、立ち方1つ、座り方1つでそのロボットの性格を表すことができますが、逆にコミュニケーションに集中できないのではと思いました。そこで、全部取っ払ってみたんです。顔と上半身だけのシンプルなカタチにしたら、不思議と無表情なはずのロボットの顔に表情が見えるようになりました。話をしている相手の顔が見える。そんな感じです」(オリィさん)
コミュニケーションの中で、相手の顔が見えるというのはかなり重要なファクターだとオリィさんは言います。同じ言葉を使っていても、面と向かって話をするのと、メールで伝える場合、電話で話す場合、相手に与える印象は同じだとは限りません。誤解を生むこともある。実際にそんな経験をされたことがある人も少なくないでしょう。
「目と目を合わせて話すのは、とても大切だと思います。だから、OriHimeは首が自由に動くようにして、話をしている相手と、視線が合う感覚を大事にしました。操作をしている側はもちろんですが、分身であるOriHimeと会話をしている側に、きちんと目を合わせていることを感じてほしかったんです。それが、一緒にここにいる、という存在感につながるだろうと思いました」(オリィさん)
最終的に手を付けたのは、感情表現をもう少し豊かにしたかったからなのだとか。手を動かすだけで、喋らなくてもコミュニケーションが取れる。そうした言葉だけじゃないやりとりも、1つの会話だと、オリィさんは考えているのです。
OriHimeは心の車いす 外へ出る最初の一歩に
OriHimeはこれまでの、効率化や便利さの追求を目的としてきた従来のロボットとは真逆にある、と話すオリィさん。無駄と思えることこそが日常であり、そこに大切なものがあるのだといいます。
「ミーティングなど目的のあるコミュニケーションなら、テレビ電話やSkypeで事足ります。OriHimeとするコミュニケーションは、雑談です。何か用事があってするものではなく、例えば、家族がリビングに集って何となくおしゃべりをする。友達同士が休み時間に昨日見たテレビの話をする。必然性はないけれど、日々、普通に交わされている会話。それこそが、孤独を感じている人に必要なコミュニケーションなのではないかと」(オリィさん)
目的のある会話なら、これまでにあるコニュニケーションツールを使えばいい。OriHimeは、仲間や家族の中に自分が一緒にいる。そう感じるコミュニケーションを生み出すツールなのだと、あらためて知らされました。
「私は、ずっとOriHimeを使ったコミュニケーションだけでいいとは思っていません。車いすの話と一緒で、外に出て実際に人と触れ合うきっかけに、最初の一歩になればいいと思っています。特に、引きこもり中の人は、誰かと会ったり話したりしたくても怖くてできなかったりします。そんな時、まずはOriHimeを介して人の中に飛び込んでみる。そして、少しずつでもその環境に慣れ、時間がかかってもいつかは自分自身がその中へ入っていけるよう、その手助けをするのがOriHimeだと思ってもらえればいいと思います」(オリィさん)
OriHimeの未来
そんなオリィさんは、これからどのようにOriHimeを進化させていくつもりなのでしょうか。
「OriHimeは人によってその使い方はさまざまで、それこそ、100人いたら100通りの使い方があるのだと思います。だから私は、使う人それぞれの事情や要望にできる限り対応していきたいと考えています。ビジネスライクにOriHimeを量産するのではなく、使う人それぞれに合うカスタマイズされたOriHimeを提供していけたらうれしいですね」(オリィさん)
自分の分身がいる、というのは何ともクールでSFチックなイメージをかき立てますが、実際にOriHimeのある世界は、とても優しく、心を温かくしてくれるものでした。オリィさんが目指す「孤独の解消」となる分身ロボットOriHimeの今、そしてこれからを、見守っていきたいと思います。
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