FossilのMisfit買収から期待する、テクノロジーとファッションの融合:“ウェアラブル”の今
時計やバッグなどを手がけるFossilが、活動量計メーカーのMisfit Wearablesの買収を発表した。Apple Watchの人気に、新興時計メーカーはどう対抗していくのか。その一端がこの買収劇から垣間見える。
米国では、間もなく始まるホリデーシーズンに、1つの大きな変動が顕在化しようとしている。米国市場において、2010年代初頭は腕時計がブームになっていた。そこで非常に大きく業績を伸ばしたのが、ライフスタイルブランドのFossil(フォッシル)である。
しかしこのメーカーの危機が、ウェアラブルデバイス市場に変化をもたらしつつある。市場では、「AppleがFossilを、“腕時計ブランドのBlackBerry”に追い込もうとしている」ともささやかれている。Fossilはこの状況にどう対応するのだろうか。
2015年第3四半期決算が不調だったFossil
Fossilに対する市場の風当たりは強い。
Fossilは1984年に創業した企業で、時計やハンドバッグ、レザーアイテムなどを販売するメーカーとしては比較的新しい。創業当時、1950年代テイストのレトロなデザインの時計をスチール缶に入れて販売するという斬新さで注目を集めて以来、ファッショナブルで手頃な値段の時計メーカーとして成長してきた。時刻を確認するための道具としての役割をスマートフォンに奪われてからも、ファッションアイテムとしての時計に注目が集まる北米市場では、その業績は堅調に推移してきた。
そのFossilグループの、2015年第3四半期決算の数字は振るわなかった。売上は前年比で14%も落ち込み、利益に至っては44.6%も落ち込んだ。その結果から、決算発表後の株価は30%を超える下落となった。
世界中に輸出されている消費財を作る米国のメーカー、特に生活必需品を除くカテゴリーでは、この秋の決算は基本的に下振れする傾向にあった。過度のドル高と、8月の株価の急激な調整の影響は、米国の裕福層の心理を冷え込ませていた。Fossilはこのドル高と市場の冷え込みの影響を思い切り受けている、ともいえる。
Apple Watchの影響?
しかしそれだけでは片付けることができない、どうしても脳裏に映る存在がある。それがAppleの「Apple Watch」だ。
Fossilの決算とは対照的に、Apple Watchの販売は堅調とみられている。4月の発売以来の2四半期で700万台を販売したApple Watchは、ホリデーシーズンに向けて、最も安いアルミニウム製の「Apple Watch Sport」にゴールド系2色を加え、またHERMÈSとのコラボレーションモデルまで用意している。
「Fossilも、このスマートウォッチに対する何らかの対応策を採らなければならない。しかし、それが遅れている」。あるいは、「対応策を採ったところで、効果が薄そうだ」。株価の急落は、市場からのそんな評価に先行して起きたと見ることができる。
ここで、米国の時計ブームが、Apple Watchによって変化しようとしている点も指摘できる。時計をファッションアイテムだ、と意識してきた人々は、Fossilに限らず、何本かの腕時計を購入する傾向がある。
Apple Watchは、彼らから多少のデザイン面やバッテリー面での批判を受けながら、しかしターゲットとした「iPhoneのせいで時計をしなくなった人々」にアプローチをかけた。その結果が、現在の700万台という販売台数につながっていると予測できる。
機能性にかじを切るFossil
Fossilの話に戻ると、今回の業績の悪化は、時計メーカーが、時計に興味がなかった人々を振り向かせることができなかった点への失望でもある。
しかし巻き返しの動きも始まっている。
Fossilは2015年10月に、ウェアラブルデバイスラインとなる「Fossil Q」を発表した。ラインアップにはAndroid Wearを搭載したスマートウォッチ、そしてアクティビティトラッカー(活動量計)をそろえている。
Fossil Qのラインアップ。左からQ Reveler、Q Grant、iPhoneアプリ、Android Wear搭載のQ Founder、Q Dreamer。活動量計やクロノグラフタイプなど、前面ディスプレイのスマートウォッチではない製品もラインアップする
スマートウォッチは、全面ディスプレイの文字盤を備えたモデルだけでなく、完全なアナログ時計のデザインに、アクティビティトラッカー、バイブレーター、LEDインジケーターを搭載したクロノグラフモデルまで用意している。またアクティビティトラッカーも、ファッショナブルでアクセサリー性の高い製品に仕上げた。
こうした製品のラインアップに加えて、前述の2015年第3四半期決算と同時に買収を発表したMisfit Wearablesが、Fossil Groupのウェアラブルデバイスのポートフォリオに入る。買収金額は2億6000万ドル(約319億円)に上る。
Misfitのアクティビティトラッカー「SHINE 2」や「FLASH」は、丸いコインのようなデザインのアクティビティトラッカーで、バンドを用いて腕に巻いたり、クリップで靴や襟に付けたり、ネックレスのように首から下げたりと、さまざまなスタイルを楽しむ事ができる、同社の言うところの「最もファッショナブルなアクティビティトラッカー」だ。
また、ベッドにセットする睡眠計測とスマートアラームのデバイス「Beddit」や、アプリからコントロールできる電球「BOLT」も手がけている。
テクノロジーとファッションの融合という夢
FossilはMisfitを傘下に収めて、テクノロジーを生かした機能性ウォッチ、そしてアクティビティトラッカーという、時計未満ながらスマートフォンと組み合わせることができるデバイスの攻勢を強めていく考えだろう。
おそらく大きな流れとして、Appleの勢いを止めるには至らない。それだけApple Watchの初速の勢いは、過去取り組んできたどのウェアラブルデバイスメーカーのそれよりも強く、また2015年のホリデーシーズンで強化されるものと考えている。
その一方で、FossilがMisfitを買収したことは、個人的には、別の意味を持っていると考える。それは「テクノロジーとファッションの融合」の加速だ。
Apple自身も、役員や従業員にファッション畑の人材を登用するなど、マーケティング面においてはファッション的な手法を取り入れており、Apple Watchの成功の一因にもなっている。しかし筆者がFossilに期待するのは、もう少し異なる、テクノロジーそのものがファッションになる未来だ。
Fossilは、その扉を開く役割を担うことで、再び浮上できるかもしれない。
例えば、Fossilがディスプレイ付きのスマートウォッチをフラッグシップに据えながらも、主力はスマートウォッチ機能が入ったクロノグラフ、というラインアップ展開から始めたのは、テクノロジーを前面に出さずにまとう方が、今ちょうど良いという考えもあるだろう。
これが次のシーズン、そして来年にどう変化するのか、非常に興味があるのだ。
テクノロジーのファッション的進化は、必ずしも技術主導ではない。人々が新鮮だと感じる、おしゃれだと感じる線を狙いながら長期的進化を演じる、そんな流れをぜひ作ってほしいと考えている。
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