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Facebookは普通のメガネでAR・VRを楽しめる世界をイメージする“ウェアラブル”の今

開発者向けのイベント「F8」でザッカーバーグ氏は、テクノロジーが製品を育て、プラットフォームを進化させることを示した。そのテクノロジーの1つがVRやARだという。同氏はいずれVRやARの体験が、通常のメガネで実現できるようになる、と予測する。

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 Facebookの開発者会議「F8」では、マーク・ザッカーバーグ氏が年々上手くなる基調講演を披露するが、今年の講演は面白かった。冒頭で、珍しく大統領選挙に関する発言に踏み込んだからだった。

 名指しこそ避けているが、ドナルド・トランプ氏が大統領選挙を通じて、米国とメキシコの間に壁を築こうという発言していることに対して、「グローバルコミュニティを築こうとしている理想に反し、排他的で、他人と距離を置くアイディアは自由に反し、経済を減退させる」と指摘したのだ。

 そして、楽観的すぎるとの批判に対して、「前に進むと決めた、希望に満ちた決意だ」と、5分にわたるこの発言を締めくくった。

 確かに、世界中の人々をオンラインにし、言語差の壁を越える活動を紹介したF8のテーマに合致した発言だった。Facebookは2016年のF8で、10年間の成長プランを披露したが、10年という時間で、どれだけ前進できるだろうか。

体験の壁も、10年で変わる

Mark Zuckerberg in F8
マーク・ザッカーバーグ氏

 10年後の未来に想いを馳せながらの基調講演の中で、テクノロジーが製品を育て、プラットフォームを進化させる、というモデルを示した。そのテクノロジーの1つとしてザッカーバーグ氏が挙げたのがVRやARだった。

 しかも、VRやARの体験は、将来、通常のメガネをかけるだけで実現できるだろう、として、メガネに仮想空間が映るイメージを披露したのだ。また、バーチャル空間に2人で参加し、さまざまなおもちゃで一緒に遊ぶビデオを見せた。一人で空間を楽しむのではなく、離れた場所にいる人と楽しむ。そんなコミュニケーションも当たり前になっていく未来を、ザッカーバーグ氏は描いている。

 Facebookは2014年に、VR技術とデバイスの企業、Oculusを買収して驚かせた。その後、ニュースフィードへの360度写真やビデオの対応などを行っており、他方で、Facebookに直接ライブ放送ができる機能を用意し、今回のF8ではAPIを公開した。さらに、ハードウェア部門を設けて、VRコンテンツを撮影できる円盤状のカメラデバイス、「Surround 360」まで披露したのだ。

Surround 360
Facebookが開発する17個のカメラを備えた360度VRカメラ「Surround 360」

 このデバイスが今後、VR空間をライブで放送できるようになると、その空間に仮想的に「行く」こともできるようになる。その中で、前述のように、複数の友人との仮想体験が楽しめるようになるかもしれない。

 メガネ型のVRデバイスは、こうした体験を、身近に、いや、当たり前になる10年後を描いていることの表れだろう。

現在のVR体験を今一度

 F8に参加した開発者には、Samsung製のスマートフォン、「GALAXY S6」と、これを装着してVR体験が楽しめるゴーグル「Gear VR」、そしてBluetooth接続のゲームパッドのセットが2600組配布された。

 Gear VRでのVR体験自体は新しいものではないが、手持ちのGALAXY Sシリーズと99ドルのゴーグルで、本格的なVR体験を楽しめる点で、現在最も現実的なソリューションであると考えられる(Googleの組立式ダンボールキット「Cardboard」も良いけれど)。

 スマホと組み合わせるスタイルのVRでも、体験は十分迫力がある。ゴーグルをかけてみると、スマートフォンの画面は、レンズを通して、両目で捉えれば立体空間の中にいる感覚を作り出す。

 見渡すと、今までいた部屋ではなく、例えば、目の前に大スクリーンがある赤いソファに座っていたり、ニューヨークの真ん中に立ってみたり、ライオンが近づいてくる草原にいたり。

 必ずしもゲームやアクションを体験する必要はない。広々としたリビングルームの大スクリーンで、映画やドラマを楽しむ体験だけでも、もし家に20インチのテレビか、15インチ程度のPCの画面しかなければ、大満足だ。

 個人的には、ベッドに寝ころんで、Netflixを楽しむのが好きだ。ベッドルームにはテレビがないし、スマホだとずっと手で持っているのは疲れてしまう。そして何より、画面が小さい。リラックスした姿勢で大画面での映像を、寝ている家族に迷惑をかけずに楽しめるのだ。

VR体験の怖いところ

 筆者はまだ、F8の体験ブースや自宅でしかVR空間へのログインを楽しんだことはないが、ゴーグルをかけてヘッドフォンまですると、本当に自分の居場所が分からなくなる。没入感ではなく、現実にいるその場所からいなくなる感覚だ。

 それまで座っていたソファが黒でも、VR空間の中で赤いソファーが表示されていれば赤だと思うし、目の前のコーヒーテーブルのカップに手を伸ばしそうになる。裏を返すと、そこまで仮想空間に入り込んでいるということは、自分の意識は、自分がいる実空間からログオフしているということだ。

 周囲で何が起きていてもわからないし、周囲の人が呼びかけても、よくわからない反応以上は期待できない。周りの人からすれば、人はそこにいるのに、いるとは扱えない状態になっているわけだ。

 前述の99ドルのGear VRですら、こうした、若干異様な感覚を作り出せてしまうのだ。ザッカーバーグ氏が言うように、確かに将来の市場性や、体験として一般的になる可能性は高い。しかし、人の感覚がどのようにテクノロジーについていくのか、まだイメージがわかないのも事実だ。

メガネ型になるとどうなるだろう

 VR体験を我々がどのように消化して行くのか。メガネ型デバイスは、ゴーグル型よりも、もう少し緩やかなVR体験を作り出してくれる可能性に期待している。

確かに周囲からは、その空間にコミットしているのか、仮想空間に意識を向けているのかは分かりにくい。ただ、普段の視線を完全に遮らずに仮想空間に入り込むので、身体的には現実空間に意識が残った状態が保たれるのではないか、と思うからだ。

 また、拡張現実(AR)用途にも使え、現実空間に対する仮想レイヤーの追加にも活用できるだろう。そのため、現在は完全なゴーグル型でVRを実現しているが、現実空間の視線を残したVRデバイスの登場は、VRの普及速度をより高めるのではないか、と筆者は予想している。

F8
メガネで手軽にVRが体験できるようになると、VRの普及はさらに進むかもしれない

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