みなさんには“仲良くなりたい人”はいますか? 例えば意中の人や友人、会社の上司や同僚、取引先の人など、仲良くなりたいけれどどうしていいか分からないという人も多いことでしょう。今回はそういった特定の人と仲良くするために、心理学の理論を使った方法をご紹介したいと思います。
臨床心理士みらー プロフィール
大学院修了後、専門学校の非常勤講師および、高校のスクールカウンセラーを勤め、同時期に教育機関での心理相談員および不登校対策事業の心理相談担当を歴任。
現在は悩み相談掲示板サイト「ココオル」で相談員を務めるほか、活動領域を青年期支援に移し、地域若者サポートステーションにて若者支援も行い、年間のカウンセリングは1000件以上行い、相談支援に定評がある。
仲良くなるってどういうこと?
そもそも「仲良くなる」というのは「その人と親密な関係になる」ということですが、その関係性には段階があることが分かってきました。
コミュニケーション学者の宮原哲さんによれば、人間関係には次の5段階があるといわれています。
(1)出会いの段階
簡単なあいさつを通して、人間関係をすすめるかどうかの判断が行われる。
(2)実験の段階
簡単な自己紹介、表面的な世間話やおしゃべりを通じて、お互いのことを探りあう。
(3)関係強化の段階
性格、家族、価値観などについて内面的なコミュニケーションが行われる。親密な関係になり始める。
(4)統合の段階
周囲の人々も当事者同士の人間関係の親密さを認める。相手の気持ちを察して、相手のことに関する判断がある程度できる。
(5)結束の段階
結婚や契約などによって最も親密な人間関係を結ぶ。
(4)、(5)の段階まで行くと両者の関係はとても強くなり、とても親密な関係といえますが、大抵の人間関係は(2)の段階までか、進んでも(2)と(3)の段階をうろうろするということが多いです。(3)の段階から(4)、(5)の段階に至るにはかなり密なコミュニケーションをとる必要があり、個人差がありますが、(1)から(2)や、(2)から(3)の段階に進むには幾つかの方法があります。
人と仲良くなるための心理学的方法
では実際にどう仲良くなればいいかを、心理学の理論を使いながら説明していきましょう。
1. なるべく顔を合わせよう(単純接触効果)
人間というのは、多く顔を合わせる人に好意を持ちやすいという性質があります。
初対面では、「この人はどんな人だろう」と警戒心があっても、何日か一緒に過ごすと打ち解けたりということや、毎日のように電車で会う人がいると、何となく親しみを覚えたりということは、誰にでもあると思います。
これは、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが発表した「単純接触効果」と呼ばれるものです。
この理論によると、接する回数が増えるほど好意度や印象が高まるとされています。ですから、仲良くなりたい人がいたら、まずは頻繁に顔を合わせる機会を作ってみましょう。
2. 相手に好意を向けよう(返報性の原理)
人間は、相手に何かをしてもらったり気持ちを向けられると、それを返したくなるという性質があります。
例えばプレゼントをもらったとき、自分だけもらってばかりでは悪いから何かを返そうかなと思ってプレゼントをあげたりとか、恋愛では相手に好きといわれて相手のことを好きになるとか、そういった経験はないでしょうか。
心理学者のデニス・リーガンはこの「返報性の原理」の実験で、この性質を明らかにしました。
そのため、もし仲良くなりたい人がいたら、好意を示すようにすると相手も好意を返したくなるので効果がありますよ。ただ、見返りを求めたり強引にしてしまうとかえって逆効果なのでそこは注意してくださいね。
3. 共通点を見つけよう(類似性の法則)
人間は誰かとの間に共通点があると好意を持ちやすいということがいわれています。
これは「類似性の法則」といって、バーンとネルソンという2人の心理学者が発表したものです。この法則によれば、人は自分と似たものに好感をもちやすいという心理があることが分かっています。
例えば初めて会った人と、外見が似ていたりとか、趣味が同じだったり出身地が同じだったりすると、ほかの人より気になったり、もっとこの人と話したいなと思ったりしやすくなりませんか?
この類似性というのは、好意を生み出す影響力としては非常に強い力を持っています。
もし仲良くなりたい人との距離を縮めたければ、できるだけ共通点を多く探すといいですね。出身地や趣味など、共通点があれば話も弾みますし、一気に距離が縮まります。そこでまずは相手の情報をできるだけ集めて、自分との共通点がないか探してみるといいでしょう。もし共通点が見つかったら、思い切って自分のことを話してみましょう。自分のことを話すことを「自己開示」といいますが、これもまた相手との距離を縮める効果があります。
もし共通点がない場合は、共有できる体験を一緒にすると、自然に共通点が生まれるので効果的ですよ。
また、そこまでの関係ではない場合、相手の言動やしぐさをまねしてみる「ミラーリング」も効果があるといわれています。ただ、あからさまにやると逆効果なので、さりげなく試してみるのがいいと思います。
4. 自己開示をしよう(社会的浸透理論)
親密な関係のためには、共通点を探す、返報性の原理があるという話をしましたが、この2つを一気に進める方法があります。
それが「自己開示」です。
自己開示、つまり自分のことをさらけだして話すというのは特別なことですし、この自己開示が人間関係を進める上でとても効果的です。これは、アルトマンとテーラーという2人の心理学者が提唱した理論で、お互いが自己開示し合うことによって親密な関係になりやすいということがいわれています。
そのためには、まず自分から相手に対する気持ちや自分のことを開示していく姿勢が有効です。
こうすると、自己開示が一方的になされるだけでなく、先ほどの「返報性の原理」によって、相手も同レベルの自己開示を返しやすくなり、お互いがお互いのことよく知り、より親密度は増加します。
ただし、顔見知りでなかったり、いきなり自分の深い部分の話をしたりすると相手もびっくりしてしまいますから、まずは趣味など話しやすいところから始めていきましょう。
いかがでしょうか。もし誰か仲良くしたい人がいるのなら、こういった心理学の理論に基づいたアプローチを考えてもいいかもしれません。ただし、この方法は既に悪印象を持たれている場合はそれを強化してしまうことにもつながりますし、強引に進めていくとやはり逆効果になってしまうので、そのあたりは注意してくださいね。
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