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ゲームクリエイター・飯田和敏氏が演出を手がけた、日本科学未来館の新展示「アナグラのうた」を体験してきました日々是遊戯

日本科学未来館の新常設展示「アナグラのうた」の内覧会が行われた。あの飯田和敏氏が手がけているということで、気になって出かけてみました。

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これは展示か、それともゲームか?

左から、コンテンツディレクションを担当した犬飼博士氏、サウンドシステムを担当した中村隆之氏、全体の演出を担当した飯田和敏氏。実は以前紹介したiPhoneアプリ「なぎ」を作った面々だったりもします

 8月21日より一般公開開始となった、日本科学未来館の新規常設展示「アナグラのうた ~消えた博士と遺された装置~」。そのメディア向け内覧会が先日行われ、一足早く体験してくることができました。

 以前にも紹介したとおり、この「アナグラのうた」では、「巨人のドシン」や「ディシプリン*帝国の誕生」、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版 サウンドインパクト」などで知られるグラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏が演出を担当。「空間情報科学」という非常に難しいテーマを扱いながら、ゲームクリエイターならではの視点とノウハウを取り入れることで、他の展示とは一線を画す、非常に強烈な体験を与える場となっていたのが印象的でした。

 そもそも空間情報科学とは、GPSやセンサーなどを用いて現実の空間を情報化し、その情報を共有することで社会に役立てよう――という科学分野のこと。身近な例では、GPSを使った渋滞予測などがまさにそれで、もしもこうした技術がいたるところで使われるようになったら、私たちが住む社会はどのように変わっていくのだろうか? というのが、この展示の大きなテーマとなっています。

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「アナグラのうた」の入り口。かつて空間情報科学について調べていた博士たちの研究所という設定
分かりやすい空間情報科学の例。図では自転車に乗った女子校生と、小さな女の子がぶつかりそうになっていますが、空間情報科学を応用すれば、事前に「ぶつかるよ」と知らせてあげることが可能になります

 フロアの一角に設けられた「アナグラ」は、かつて空間情報科学について調べていた博士たちの研究所という設定。しかし題名にもあるとおり、なぜか博士たちの姿はすでになく、遺された5つの装置だけが今もなお動き続けているという、ちょっと不思議で、ほんのり終末感も漂う奇妙な空間となっています。

 アナグラの中では、あらゆる空間情報はデータ化され、様々に形を変えて私たちの前に姿を現します。もっとも分かりやすいのは、足下に投影される影のナビゲーターこと「ミー」でしょう。アナグラの中にいる限り、常にミーは私たちの足下についてまわり、終了時間が近づいたり、まだ見ていない展示があったりすると、こっそり手を伸ばして教えてくれる。これは、アナグラ内に設置された無数のレーザーセンサーが、私たちの位置情報を読み取っているからこそできることです。

 位置情報だけでなく、例えばアナグラの中で装置に触ったり、質問に答えたりするだけでも、私たちの「空間情報」はどんどんアナグラに蓄積されていきます。現実の空間情報科学では、そうして蓄積された情報を共有し、社会の役に立てるというのが最終的な目的になりますが、アナグラのなかではそれが、ボーカロイドが歌う「うた」という形になって現れます。この「うた」のバリエーションは無数にあり、来場者がアナグラ内でとった行動――つまり空間情報によって歌詞やメロディが変化する仕組み。誰もいないアナグラは、人気のないただの静かな空間ですが、誰かが足を踏み入れ、空間情報が生まれることで「うた」が流れ、一気ににぎやかな空間になる。空間情報を共有することで、みんなが幸せになるんだ、というメッセージを「うた」に込めるあたりは、なんとも飯田氏らしい仕掛けと言えるかもしれません。

足下に投影されている、色とりどりの丸いキャラクターが「ミー」
ある装置に触れると、自分だけの「うた」を聞くことができます
一定の条件を満たすと、特別な曲と映像が流れる「祭り」状態に

 空間情報が「ミー」になり「うた」になる。科学館の展示としては驚くほど抽象的な内容で、最初は何をどう楽しんでいいのか、よく分からない人も多いかもしれません。しかし、その分非常にインパクトの強い展示となっているのも事実で、例えば家に帰った後も、アナグラ内で流れていた「うた」が耳にこびりついて離れなかったり、足下に「ミー」がいないのがなんだか寂しく思えたりと、しばらく奇妙な感覚が続いたのが印象に残りました。

アナグラを出るときに表示されるメッセージ。一瞬だったのでちょっとボケてしまいましたが、この一言に展示のテーマが込められているように感じました

 ゲームニクスという言葉が示すように、現在、様々な分野で、ゲームが培ってきたインタフェースや演出技法が注目されはじめています。この「アナグラのうた」も、そんな「ゲーム」のパワーを感じさせる、非常にユニークな展示に仕上がっていると感じました。夏休みの最後に、子供と一緒に訪れるにはぴったりの展示と言えるのではないでしょうか。

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