全盲の76歳、“Androidアプリで文字入力”への挑戦 タッチパネルでも軽快に(2/2 ページ)
点字を打つ要領で文字入力できるAndroidアプリがある。企画したのは、全盲の長谷川貞夫さん(76歳)。物理的な文字入力キーを備えていないタッチパネル式スマートフォンが増えるなか「世の中にある便利なものを健常者と同じように使いたい」という思いで開発を続けている。
増えるタッチパネル、視覚障害者にとっての「3度のバリア」
そもそも長谷川さんがIPPITSUを開発しようと思ったきっかけは何だったのだろうか。長谷川さんは「スマートフォンの方が機能が発達しているし、便利じゃないですか」「世の中にある便利なものを健常者と同じように使いたい」と明かす。
長谷川さんは16歳の頃から視力が低下し始めた。弱視となりながらも、ペンとノートを目に近づけて書くなどし、生活していた。20歳で全盲となってからは、世の中に視覚障害者にとってのバリアが多いことを痛感。券売機やATM、ワープロ、携帯電話などをバリアフリー化する活動を始めた。
タッチパネルを搭載した機器に関して言えば、「見えない人間にとって3回のバリアの波があった」と長谷川さんは表現する。1度目の波は1995年。JRがタッチパネル式の自動券売機の導入を発表したときだ。物理的な入力キーがないと入力が難しいため、券売機にテンキーを備えるようJRに提案する活動に長谷川さんは加わった。
2度目の波は、ATMのタッチパネル化が始まったとき。長谷川さんは、タッチパネル式ATMの導入デモが実施される郵便局まで出向き、テンキーを備えるよう「直談判した」と当時を語る。結果、券売機とATMには長谷川さんが提案した形のままの視覚障害者用テンキーが設置されたという。
これらの活動の原動力になったものは何か。長谷川さんは「もちろん提案して導入された時の喜びや、企画開発をする楽しみもありますが」と前置きしつつ、「(弱視でも)見えていたときの『あの文字がどうしても書きたい』との思いが強かった」と振り返る。
Twitter機能を備えた「TWIPPITSU」も
3度目の波というタッチパネル式のスマートフォン。長谷川さんはバリアフリー化を目指して、文字入力の研究を続けている。今年7月にはプログラマーの武藤繁夫さんの協力を得て、IPPITSUに続く第2弾のAndroidアプリ「IPPITSU8/2R」を開発、Androidマーケットで公開した。
IPPITSU8/2Rは、IPPITSUと比較研究するため、異なるユーザーインタフェースだが、基本的には点字の原理を応用している。アプリを起動すると円形のキーボードがある。キーボードは8分割されており、0~7の数字が時計回りに並んでいる。
先述の通り、点字は縦3列・横2列の6つの点で表現されるが、IPPITSU8/2Rでは各点に数字を割り当て、数字をタップすることで、点字を入力し、テキストに変換できるようにした。例えば、「て」は「7」と「3」、「ん」は「4」と「6」をタップすれば、入力できる。
キーボードの円の中心がスタートボタンになっており、画面から指を離さずスライドさせて、数字をタッチ。また中心に指を戻して、数字へスライド――を繰り返して入力する。IPPITSUは1文字入力するごとに、指を画面から離さなければならないが、IPPITSU8/2Rでは画面から指を離さず何文字でも連続入力が可能だ。入力した文字や数字を音声で読み上げ、振動するガイド機能もついている。
IPPITSUよりもIPPITSU8/2Rの方が入力ボタンが多く、複雑そうに思えるが、「(円形キーボードの)中心と縁に目印となる小さな突起を付けておけば、8つの数字の位置は大体分かる」そう。IPPITSUはキーボードそのものが点字と同じ配列のため「視覚障害者にはなじみやすい」が、「慣れるとIPPITSU8/2Rの方が速く入力できる」と長谷川さんは語る。実際に皆さんもダウンロードして試してみてはいかがだろうか。
長谷川さんは、Twitter投稿機能を備えた「TWIPPITSU」も公開中。一連のアプリは「一般の人にも使って欲しい」と考えており、視覚障害者にとっても、健常者にとっても、効率的に文字入力できる「ユニバーサルデザインな入力方法になるのを望んでいる」という。
アプリを通じて点字の利便性を知ってもらうことも目的の1つ。「点字が広く一般に使われるようになったらうれしい」と今後の展望を語ってくれた。
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