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ポスターに隠された意味、いま明かされる宮崎駿・高畑勲伝説【ほぼ全文書き起こし】映画「夢と狂気の王国」公開記念鼎談(4/5 ページ)

スタジオジブリの“今”を描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」が公開。プロデューサーを務めたドワンゴ川上量生会長らが撮影の裏側とポストジブリのアニメ業界を語る。

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まばたきも惜しいほど 「かぐや姫の物語」

石井 「かぐや姫の物語」は、2時間17分まばたきするのも惜しいくらい、口をあんぐり開けたまま、ただただ見続けました。

川上 短かったですね。

石井 ほんとに一瞬に感じたんですよね。高畑勲という世界一の演出家の手練手管に、ただただ感動なんですけど、やっぱり一番大きいのは、描いた絵のすさまじさ。手で描いた絵が、目の前で動くだけで、これだけ人間って脳味噌から快感物質が出るんだみたいな。

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川上 長いじゃないですか、2時間17分って。だから、いろんな要素を詰め込んで、ダラダラしてるのかなと思ったら、そんなことはなくって、ほんとに必要なものしか入ってないですよね。

石井 元々は3時間以上あったんですよね。

齋藤 脚本の初期段階はもっとあったって聞いてて。むしろ、それ全部やってほしかった。

川上 「となりの山田くん」のときも、最初のシナリオは、8時間あったっていう話で。

石井 そうですよね。鈴木さんと高畑さんが、会議室で怒鳴り合いをしてるのを、僕ら見てましたけどね(笑)。

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齋藤 そういうのは往々にしてありますよね(笑)。

石井 どうするんだみたいな。「かぐや姫」は本当に短く感じましたね。無駄なところが1つもない

齋藤 誰もが知ってるはずの「かぐや姫」をほんとに堂々とやってる。当然、絵の部分とか、音楽もそうだし主題歌もそうだし、語りつくせないくらいあるんだけど、1つの言葉でまとめると、堂々とした映画です。これはなかなかできない。

川上 僕もいろんな人に「かぐや姫の物語」は、本当にすごいって絶賛するんですよね。で、絶賛すると、みんなから「へーどんな話なの?」ってきかれるんですけど、そしたら「竹から生まれた女の子が、月に帰る話」って(笑)。

石井 今回、高畑さんってすごいなと思ったのは、なんでいろんな星がいっぱいある中でね、月から地球を選んだのか、っていうところから物語を始めている。それで、展開する物語は、基本的には原作通りなんだけど、その1シーン1シーンに高畑さんの言いたいことがあって、最後に、ほにゃららになるじゃないですか。

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「かぐや姫の物語」完成報告会見での高畑監督

齋藤 今まで古典も読んでて、なんとなく知ってるじゃないですか。知ってるけど、改めて「かぐや姫」ってこういう話だったんだっていうことを、原作と対比がどうこうじゃなくて、「きっと、こういうことだったんだ」と。

川上 高畑解釈の「かぐや姫」って感じでもないんですよ。高畑さんが学者として、「本当の『かぐや姫』はこうだったんだ」っていうのを解明したって感じなんですよね。こっちがほんとうの話だろうっていうね。

石井 かぐや姫、かわいいですよね。

川上 そうなんですよ。見てるとかわいくなってくるんですよね。

石井 ドキドキするぐらい美少女で。ナウシカのような、シータのようなね。なかなか宣伝の絵柄だと伝わらないかもしれないけど、ほんとにかわいい恋しちゃうようなキャラクターですね。

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齋藤 魅力があふれてますよね。子ども時代のかぐや姫が愛らしくて。うちも、子どもが最近生まれたばっかりだったりするんだけど。ほんとに、自分の娘と同じぐらい愛せるんじゃないかってぐらい。

石井 あと、着物の着方とかね。帯がなんで横についてるのかとか、謁見してるときの帯はどうなっていたのかとかまで、全部調べて作ってあるから、そこを見てるだけでも楽しい。明日、日本が沈没するとしたら、タイムカプセルにこの「かぐや姫の物語」のBlu-ray Discを入れてですね、「これが日本だったんだ」って伝えたい

齋藤 再生機も残しといたほうがいいと思うよ。

石井 それくらい、「あ、日本ってこうだったんだ」っていうことが、再発見される映画です。

川上 「かぐや姫の物語」ってアニメーションとしては、相当特殊なことをして作ってるじゃないですか。ああいうアニメーションの技法とかに関して、今後のアニメーションになにか影響を与えるんですかね?

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石井 物量で説明すると、冗談みたいな話なんですけど、僕らが作るテレビシリーズ1話分、22分なんですけど。それの作画枚数と、高畑監督の「かぐや姫」の1カットの作画枚数が同じだったりするんです。もっと多いかもしれない。そういう意味で、僕らは西村くんと違って絶対やりたくないですよ。やっぱりアニメって、どんどん緻密化に向かうんですよね。緻密化か、キャラクター化か、どっちか。で、ある意味、それと真逆なことをしてるわけですよね。実際に人間が描いた筆のような線と、ものすごく余白と空間を意識して作ったものなんだけど。

川上 情報量減りながら、作業量が増えてるんですよね。

石井 そう。Production I.Gのスタジオ中で衝撃を受けたんですが、これまで、ある程度積み重ねをして、クオリティーを上げていく方向だったのに、これだけ省略化された世界のほうが感動的になると。

齋藤 アニメーションって、1コマ1コマ絵の繋がりじゃないですか。その、1枚絵としての魅力、1枚絵が連なって動いたときの魅力が、「かぐや姫」は気持ちに迫ってくるっていうことがあるんだと思いますよ

川上 「かぐや姫」は、ほんとうに絵がきれいですよね。完成してますよね、絵として。

齋藤 絵画の魅力というものに近いかもしれませんよ。それを連続性で見れるみたいな。

川上 製作途中に、美術の男鹿和雄さんの部屋に入ったんですけど、もう完全に画廊にしか見えないんですよね。アニメの制作現場じゃないんですよね。京都かなんかの、和紙を売ってる店に見えるんですよね。

石井 だからね、問題発言しますけど、50億円でもこの作品は安いですよ。国宝ですよ。価値が付けられない作品が生まれたという気がします

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