インタビュー

アニメーション監督・新海誠が語る――映像を文字にするということ『小説 言の葉の庭』発売記念(1/5 ページ)

4月11日、映画「言の葉の庭」を新海監督自らノベライズした『小説 言の葉の庭』が発売。映画と小説という異なる媒体で作品を作るとはどういうことか、新海誠監督にインタビューを敢行した。

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 アニメーション監督・新海誠。

 2002年に映画『ほしのこえ』で監督としてデビューし、2004年に『雲のむこう、約束の場所』、2007年に『秒速5センチメートル』、2011年に『星を追う子ども』と次々に作品を発表。見るものを圧倒する緻密な風景描写や、男女の美しく切ない恋物語は数々の映画賞を受賞するなど、国内外で高く評価されている。

 2013年に劇場公開された最新作『言の葉の庭』は、靴職人を目指す高校1年生の秋月孝雄と、人生につまづいた大人・雪野百香里のひと夏を描いた物語。映像美もさることながら、46分という映画としては短い時間の中で紡がれたストーリーに多くの人が感動したことだろう。

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 そして2014年4月11日、新海監督自らがノベライズした『小説 言の葉の庭』が発売された。eBook USERでは、新海監督にインタビューを行い、映画や小説に対する思い、同作の内容について伺った。ネタばれを含む箇所もあるため、映画や小説をまだ見たり読んだりしていないという方は、先に作品に触れることをお勧めしたい。


新海誠監督

本屋という日常の世界の中に、自分の本が並ぶ非日常性

―― 『小説 言の葉の庭』刊行おめでとうございます。今のお気持ちをお聞かせください。

新海誠(以下、新海) 単純にうれしいですね。僕は本来小説家ではありませんし、アニメーション映画を作っていますので、映画の公開日や、DVDの発売日というのはもちろんうれしいです。けれど、小説の発売は、違ったうれしさというか、本って特別な感じがあるなと思います。つい近くの本屋さんまで見に行っちゃったりとか。まだ置いてなかったですけど(笑)。

 本屋さんって、僕の日常には割と密着している場所なので、そこに綺麗に装丁していただいたものが本の状態として並ぶのは、自分にとってはちょっとした非日常なことなので、うれしいですね。

―― とても綺麗な装丁ですが、こだわりはありますか。

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小説 言の葉の庭

新海 装丁そのものを行ったのはデザイナーの方ですけれど、「もう少しここはこんな感じはどうでしょうか?」みたいに意見を出させていただいたりはしました。ただ、基本的には、その素材感や完成度なども含めて、すべてそのデザイナーの方が綺麗にまとめてくださったので、想像していたよりもはるかに美しく仕上がりましたね。

 デザイン案を画面上でやりとりするだけでは、こういう仕上がりは想像できていなかったので、実際に手に取ったときの特別な感じというのは、プロの仕事だなと思いました。

―― 前作『小説・秒速5センチメートル』の発売から6年半がたちますが、今回小説化に当たって、映画を小説にすることへの思いに変化はありましたか。

新海 前作はだいぶ昔のことですので、あまりはっきりとは覚えていないのですが。ただ、『秒速5センチメートル』が仕事として初めて書く小説だったので、はたして自分にちゃんと文章を書けるのだろうか、毎回連載の原稿が間に合うんだろうかとか、そういう初めて向き合うものに対しての不安は大きかったです。あと、初めてということもあって、『秒速――』のときは良くも悪くも必死というか、余裕がなかったような記憶があるんですね。

 『言の葉の庭』に関しては、『秒速――』のときと比べると自分の中に少し余裕があって、物語の文章への向き合い方だったり、自分自身の作品をどのように文章に変換するかみたいなことが、もう少しゆったりと考えることができるようになっていたと思います。

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 作業時間的にはどちらもあまり変わらなかったです。今回は劇場の舞台挨拶めぐりをしながら移動の飛行機の中で書いたりすることが多かったのですが、気持ちの上ではどこか余裕があったなと思います。

―― 映画と小説で表現方法の違いがあるかと思いますが、それぞれの強み弱みをどうとらえていますか。

新海 本書のあとがきや、自分のホームページでも連載の前にコメントを書いたりしていますが、やっぱり強み弱みそれぞれありますよね。

 小説は、当たり前ではありますが「すべて言葉であること」が大きな強みだとあらためて実感しました。

 あとがきに書いたことの繰り返しになってしまいますが、「彼女は迷子のような微笑を浮かべた」という文字の連なりが、「迷子のような」という数文字で、読む人の記憶の中に自動的にアクセスしますよね。自分が迷子だったときの不安な気持ちを思い浮かべたりするじゃないですか。そういう、文字が直接読む人の記憶に繋がってしまう力強さみたいなものは、小説表現ならではだと思います。

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 一方、映像に関しては、もっとダイレクトに、絵で描けばいいと。百聞は一見にしかず的な強さはもちろんあります。雨が降った庭園の美しさを文字で表現しようとすると何行か費やさなければならないですが、映像であれば、ただそのように描けばいいんですね。それはそれなりに難しいことではあるんでしょうけれど、ダイレクトな情景描写が映像の得意なことでもありますし、そういうものが映画の強みですよね。

 これもあとがきと同じことの繰り返しになってしまいますが、「そのドアの向こうのざわめきが、イヤフォンの音漏れのように――」という描写、これは教室の向こうのほかの人たちのざわめきをイヤフォンの音漏れに例えたものですが、映像では表現できないですよね。

 同じシチュエーションだったら、環境音として壁を挟んだザワザワという音を映像でつけるとは思いますが、そのザワザワという環境音をイヤフォンの音漏れだ、という風に誰もが思うわけではないですよね。そういう映像ではできないひとつひとつのことが小説を書いていく上で楽しかったですね。

 今お話ししたことも含めて、そういった映画と小説の違いを感じながら、これは映画ではできないなとか、これは映画の方ができているなとか、実感しながら書くという作業が楽しかったです。

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