アニメーション監督・新海誠が語る――映像を文字にするということ:『小説 言の葉の庭』発売記念(5/5 ページ)
4月11日、映画「言の葉の庭」を新海監督自らノベライズした『小説 言の葉の庭』が発売。映画と小説という異なる媒体で作品を作るとはどういうことか、新海誠監督にインタビューを敢行した。
アニメ監督としての自分、小説家としての自分
―― 新海監督ご自身で小説化されたのが、『秒速――』と『言の葉の庭』ですが、他の作品との違いはどういったところにありますか。
新海 何で『秒速――』の小説を書くことになったのか、だいぶ前のことなのであまり覚えてないんです……(笑)。ただ、小説を書きたいという気持ちはずっとあったんだと思います。特に『言の葉の庭』では、書きたいなあと思っていたんですよね。
他の作品とどう違うのかといえば、「書きたい」という気持ちと「書ける」という気持ちの両方がないと向き合えないわけです。その両方があったのが、『秒速――』と『言の葉の庭』だったのかもしれないですね。
ほかのものは、小説があってもいいけど僕自身が書く必要も書きたいという気持ちもあまりなかったです。それは作品に対しての愛情の差とかではなく、必要性みたいなものを自分自身では感じていなかったんだと思います。
例えば僕の実質的デビュー作になった『ほしのこえ』というSFアニメも小説化していただいて、別の方にコミカライズもしていただいたんですね。それが自分の作ったものが別の媒体になる初めての経験だったんですが、その小説や漫画を読んでみたときにショックというか、うまいなあと思ったんです。やっぱりプロはすごいなあと。
当時僕はまだ自主制作だったので、明確にアマチュアという自覚もありましたし、それが小説になるとこうなるんだ、漫画になるとこうなるんだ、元よりも全然いいみたいな気持ちになったんです。
その次の『雲のむこう、約束の場所』も加納新太さんに小説にしてもらったんですが、加納さんの小説はもうバツグンによかったんですね。「ああ、こうあるべきだったんだ」みたいな気持ちになって、感動もするんですけど、やっぱり悔しさもあるわけですよ。
『秒速――』も清家雪子さんに漫画にしていただいて、うまいなあと思いましたし、『星を追う子ども』という作品でも、メディアファクトリーから漫画を2バージョン出していただいて、どちらの漫画もうまいなあと、元よりいいなあと。なので、それをまた『言の葉の庭』でやられちゃうのは嫌だなという気持ちはありました。(笑)
さっき『言の葉の庭』を書いたときに、気持ちの上で今までより余裕があったといいましたが、それは、年を追うごとにだんだんと自分の中で物語を書いたり、映像を作る技術が上がっていると感じたからなんです。いままでならほかの人の方がうまくて悔しいと思っていたものを、自分でもできるようになったんじゃないかと思えたんです。なので小説も今回は自分で書いてみようかと。
―― それでは、過去の作品をまたノベライズする可能性もありますか。
新海 いやそれはもうないですね。キリがないので。
『言の葉の庭』をシリーズもののアニメにしたらどうだろう、みたいなことも冗談めいて話に出たりもしますけど、どこまでも終着点がなくなってしまいますよね。『言の葉の庭』はこの本をださせていただいたことで、プロジェクトとしてはようやく終わったという気持ちでいます。
―― これからも小説を書きたいですか。
新海 そうですね。今回楽しかったんですよね、小説を書くことが。連載って面白いんだなと思いました(笑)。僕みたいなフリーの立場で、社会的な居場所が常々ないなと感じている者にとって、毎月本屋に行くと雑誌に名前がでているのは、どこか就職したような安心感があります(笑)。
あとはやっぱり連載だと、読者の反応がそれなりに毎月ありますし、自分自身の気持ちの変化みたいなものが文章の中に投影できたりするんですよね。映画作りみたいに、遠くにある一点の目標に向かって1~2年間ずっとやり続けていって最後に放出するのとは違った面白さがあったんです。だから、また機会をいただけるのであれば小説を書きたいなという気持ちではあります。
けれど、これも難しいところで、僕が小説をこういう風に書かせていただいて、いろんな場所に大々的に置いていただいたりするのは、アニメーションを作っているからこそだと思うんです。決して小説自体だけの評価ではないと思うので、次に自分が作るものはやっぱりアニメだと思っています。
でもこの先、ノベライズじゃない形、つまり小説オリジナルというものを書ける機会をつかむことができたらうれしいですね。
―― 最後になりますが、『小説 言の葉の庭』を読まれる方へ一言お願いします。
新海 映画を見てくださった人たちにとっては1話1話に驚きがある小説になっていると思います。映画の中の登場人物のイメージが変わると思うんですね。より孝雄や雪野に対して愛着が沸くものになったと思いますので、そこをぜひ楽しんでください。
そして、映画をまだ見ていない人たち。この装丁を見て、なんか綺麗な本があるなと書店で手に取ってくださる人って全国にいらっしゃると思うので、そういう人たちにとっては、もちろん小説として楽しんでいただきたいんですけど、その後にぜひ映画を見ていただきたいです。
小説を読んだ後に映画を見ると、こういう長い物語の中でここだけにフォーカスが当たっているんだとか、あの文章表現が映像だとこういう風になるんだ、音楽がつくとこういう演出になっているんだという、そういう驚きがあると思うんです。映像と文字ってこんなに違うんだって実感していただけると思いますし、文字から入る人にとっては、小説の後にぜひ映画を見ていただきたいなと思います。
そういう意味では2度美味しい作品になっていると思います。ぜひお楽しみください。
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