野外4つのスクリーンで映画を同時上映 日本初の“映画フェス”「夜空と交差する森の映画祭」へ行ってきた(2/3 ページ)
埼玉の景勝地・長瀞にスクリーンをいくつも設けて、映画三昧の一夜を明かす。フェス形式としては日本初の野外映画祭は、特別な鑑賞体験をもたらすか。
木々、虫の声――自然が映画の新しい演出に
そもそも野外で映画を観るのが初めてだった筆者。家や劇場とどう違うのだろうと気になり、一度観たことある「ハンガー・ゲーム」(監督:ゲイリー・ロス)をMAIN STAGEで鑑賞してみた。16歳の少年・少女24人が山林で殺し合いのゲームを強いられるという残酷なサバイバルアクションだ。
劇中のゲームに最初の夜が訪れ、主人公の少女が敵から襲われないよう木の枝へ登り始めた。座った位置からはスクリーン以外に本物の木が何本も視界に入る。スクリーンも夜、森の映画祭も夜11時ごろ、スピーカーから虫の声、こっち側でもずっとコオロギといった秋の虫の音が響く。枝の上で息を潜める少女とこちらの境界線が一気にぼやけたようだった。
「映画に自然の風景が出てくると、野外で観ている分リアルに感じます」――RIVER SIDE STAGEで会った男性・女性(どちらも23歳)の感想だ。
「例えば今観た『HOME』(監督:佐々木洸介)では、主人公の女の子とお父さんが思い出の高台から街を見渡すラストシーン。女の子が外で主人公が寒そうにしている様子が、この会場で風を感じているとより心に響いてきました。映画って必ずといっていいほど外でのシーンが出てくるので、野外映画ではその都度臨場感を楽しめると思います」
確かに野外のシーンは外の雰囲気と相まっていちいち良かったなぁと共感。作品には本来入っていない会場の風景や音が、劇中の自然とたまたま結びついて、より気分を盛り上げてくれる。野外映画の大きな醍醐味を知った。
フェス形式がもたらすもの
複数スクリーンで同時上映という“フェス形式”については、参加者各々がお気に入りの鑑賞スタイルを選んで映画を楽しんでいるようだった。
FOREST STAGEはスクリーンが前に傾いていて、シートに寝そべることでちょうどいい角度で映像が観られる。横になっていた20代前半の男女3人組は、「寝転びながら心地いい風を感じて、みんなでお酒を飲んで、川や虫の音と一緒に映画の音を聴く。この環境が気持ちいいです。映画館じゃなかなかむり」と微笑んでいた。眠たくなる午前2時以降は大人気。1枚のシートに50人くらいが寝転んでくつろいでいた。
いつもととことん違う雰囲気で映画を楽しみたいという人はTHE ROCK STAGEに集まっていた。コの字のようにくぼんだ岩畳にスクリーンを設置。「洞窟から天井だけとっぱらったような、岩に囲われた空間で観るのは新鮮味がありました」(21歳/女性)「みんなが自然と岩の段差に順に並んでいる雰囲気がおもしろいです」(23歳/女性)と、それぞれ長瀞ならではの環境を味わっていた様子。
隣のステージの音が漏れてくるのもフェス形式ならではだ。FOREST STAGEで上映の合間の休憩時間、MAIN STAGEの「時をかける少女」(監督:谷口正晃)の音が耳に飛び込む。主演の仲里依紗さんの叫び声や光線銃のような効果音に、こんなに賑やかな映画とは知らなかったので今度レンタルしてみようかな、と興味がわいてきた。こうした映画との出会い方って新鮮。
このほか、グロテスクなシーンを観て参加客同士が身を寄せ合う姿、座っている草土の感触、フードコートからただようおいしそうな香り――野外で、複数のスクリーンでというフェス形式がもたらす五感の刺激は実に多様だった。これらが目の前の映画と結びついて、この時この場限りの特別な鑑賞体験として記憶に焼きつく。そんな瞬間にあふれていたのがこの映画フェスであり、「夜空と交差する森の映画祭」だった。
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