comicoの世界観を広げるキーとは? 稲積社長が語る「comicoワールド」への道程(2/2 ページ)
完全オリジナル、フルカラー、縦スクロールといったユニークな特徴の無料コミックアプリで1000万ダウンロードを達成した「comico」。comicoは今、どんな課題を感じているのだろうか。comicoを運営するNHN PlayArtの代表取締役社長の稲積憲氏にeBook USER編集長の西尾が再び聞いた。
comicoのマネタイズ、そしてサービスの多様化
―― なるほど。先ほどの課題で挙げられた「マネタイズ」についてはいかがでしょう。事業としてみたとき、やはりここが気になるところです。
稲積 もちろんマネタイズもやっていく必要があると思っています。全体の方向性としては読者に楽しんで頂けるような形でのマネタイズを志向しており、実際、その方法も幾つかあると考えています。読者、作家、comicoがハッピーになれるような形でやりたいですね。
―― グッズなどを販売しているcomico SHOPの手応えはいかがでしょう。
稲積 これは本当にまだまだです。当初想定していた、もしくは読者さんが期待して頂いたような商品のラインアップになっておらず、まだまだ限定的なサービス、商品だと思っています。これはもう少しレベルアップをしていきたいです。
―― 最後の課題が「サービスの多様化」ですね。
稲積 はい。今、comicoのメインストリームとなっているジャンルやテイストでないものにも大きな可能性があると思っています。新たな読者さんが入ってくる機会でもありますから。
―― 多様化の1つが4月に新設されたノベルカテゴリですよね。なぜノベルのジャンルに踏み込んだのだろうと最初は思いました。
稲積 コミックのある意味原型になっている部分がノベルにもあり、読者層が比較的近く、親和性もあるように思います。作家さんの環境を整え、後押ししていくのはコミックと同じだと思いますので、コミックでできたような循環をノベルでもできるのではないかと考えました。
またコミックとノベルは、それぞれ独立して存在させるのではなく、コミカライズやノベライズ、そうした双方向の交流ができるサービスジャンルだとも思います。コミックのアナザーストーリーのようなものをノベルで書いて投稿頂くようなキャンペーンも先日実施しました。漫画は絵やストーリーもあって描き手は大変だと思うのですが、一方でノベルは基本的にストーリーだけですので、絵が苦手でもストーリーなら書けるといった作家さんにチャンスが広がります。実際、ノベルの作家さんの母数は多い印象があります。そういう意味でも有望なノベル作品が今後、出てきやすいのではないかと思います。
―― comicoがコミックで取り入れたスマートフォンに最適化した表現手法は新鮮でしたが、ノベルではまだいまひとつなように感じます。スマホ上でのノベルの読書体験にはまだイノベーションの余地があるのでは?
稲積 おっしゃるとおりですね。もともとわれわれがスマートフォンでコミックを始めたのは、コミックの方がスマートフォンの特性を生かしやすいことがあったからですが、その意味ではノベルはまださまざまな試行錯誤が必要です。
これは1つの例ですが、コミックとノベルでは1話当たりの“長さ”の違いもあります。スマートフォンだとサクサク読めることが重要なので、1話当たりの文量も短くしているのですが、それでもコミックと比べるとノベルは1話読むのに掛かる時間が2倍~3倍違います。そうすると、スクロールの勢いも緩くなる。吹き出しが多い、つまり会話が多い作品はそれなりにサクサクと読み進められる印象もあるので、よりスマートフォンで読みやすい形式を生み出すべく、今、さまざまなトライを続けています。
―― サービスの多様化という意味では、昨年7月に台湾、10月には韓国と海外でもcomico事業を展開されています。こちらの手応えはいかがですか?
稲積 台湾の方からお話しすると、ダウンロード数でほぼ100万。人口が日本の約1/5の規模なのを考慮すると、それなりにダウンロードして頂いている印象です。日本と同様に、縦スクロールで読んでいく文化がないものですから、少しずつなじんでいっている感じこそあれ、まだ日本ほどのムーブメントにはなっていないと思っています。そういう点ではまだ、発展する、していかなければいけないと思っています。
韓国の方は、ダウンロードが200万程度で、こちらも人口換算では台湾と同様のレベルといえます。韓国にはWebでコミックを読む文化があったこと、現地の作家さんもマーケットにおり、一定のレベルから始められたこともあって、よいスタートを切れているかな、と。Webコミックの文化があることで、強い競合もたくさんいらっしゃる。そこと差別化するような作品を出していく必要があると考えています。
1つ1つ課題をクリアした先に見える「comicoワールド」のビジョン
―― comicoが掲げる「デジタルのトキワ荘」というビジョンはこの1年でもかなり進展したのではないかと思います。一方、高品質な制作ソフトも無料で提供してエコシステムを作ろうとするMediBangのようなプレーヤーも出てきました。「デジタルのトキワ荘」に第2フェーズがあるとすると何が重要でしょう。
稲積 わたしがトキワ荘を想起するとき、漫画家の大御所たちが集まっていたところというイメージなのですが、それと比べると、まだまだ最初の一歩を踏み出したところなのかなという印象です。例えば、comicoの作家陣が漫画界で超有名人かというと、そういう状態ではありませんから。
作家に描いて頂く“環境”というとき、それはツールに限らないと考えていて、描く機会、発表する場、読者を連れてくること、そして作家さんへの報酬といったものを含めて“環境”なのだと思います。そして、これらをまだまだ大きくしていくことが重要です。
comicoから出た人気作品を、アプリの枠を超えて大きく巣立っていくことをわれわれが支援する。これが塊になってくると、作家層もさらに厚くなる。その循環を作ることが大事だと考えています。
―― そうしたお考えを象徴するようなキーワードは生まれていたりしますか。
稲積 「デジタルのトキワ荘」自体はそのまま大きくしていきたいですが、全体で言うと「comicoワールド」。これを作り出していきたいという気持ちが芽生えましたね。
―― 「comicoワールド」ですか。その言葉には、サービスジャンルの拡大なども包括できそうなイメージがありますが、comicoワールドは何をどこまで取り入れて進化していくのか、もしお考えがあればぜひ。
稲積 具体的なことについては、今の時点では明らかにできないのですが、いろいろと準備を進めています。コミックを起点として始まった、comicoの世界観を先程申し上げた「IPの育成」「マネタイズ」「サービスの多様化」をキーにしながら広げていければと。
―― しかし、今の口ぶりでは、サービスジャンル拡大の優先度はあまり高くなさそうな印象です。
稲積 ビジョンとしては今、お話したとおりですが、“ローマは一日にして成らず”です。地に足をつけて1つ1つじっくり取り組んで行く必要があると思っていますので。アイデアはたくさんありますので、トライ&エラーを繰り返しながら広げていきたいと思っています。
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