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人間こわい! 「電車内ベビーカー問題」が解決する日は本当にくるのか?ネットは1日25時間

ちょっと長いダイイングメッセージだと思って読んでいただければ幸いです。

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 ねとらぼ読者のみなさん、はじめまして。星井七億です。普段は「ナナオクプリーズ」というブログで怪文書を書いている僕が、いろいろとあってねとらぼでコラムを書かせていただけることになりました。テーマはネット上の話題に関するあれこれなど。ちょっと長いダイイングメッセージだと思って読んでいただければ幸いです。

 さて、ネット上で自分の意見を書いて世界中に発信すると、それだけ多くの人の目に留まりやすく、中身によっては反響が大きくなるのは当たり前のこと。

 建設的な議論に発展することもあれば、批判にさらされ炎上することもある。誰もが密接に関わっていく重要な話題ならば、盛り上がるだけ盛り上がればいいとも思うのですが、時としてその渦中に毒にはなっても薬にならない、どうにもこうにも困った存在が、それも結構な割合で潜んでいるものです。

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 それは「とにかく攻撃対象になりうる者を探している人」。過ちを犯した人、自分より弱い人間などを、自らの攻撃的な欲求を満たすために舌なめずりをしながら探し出し、見つけては牙を剥く。このような存在はネット上では、いえネットの外でもさほど珍しくありません。

 ネットの中とネットの外、そのどちらにおいても特にそういった存在が目につきやすい話題として、例えば僕なら「電車内でのベビーカー問題」を挙げます。おお、下手に扱うと大やけどしそうな話題だ。

 混雑した電車内ではベビーカーをたたむべきか、他の交通手段や乗車時間帯を模索すべきか、それとも周囲の乗客が配慮すべきかといった議論はネット上で何度となく紛糾され、その都度大きな話題を呼んでいます。

 僕は電車のない島で生まれ育ったので、人生で最初に電車に乗ったのは23歳のころ。当時の僕は日本の路線はすべてJRだと思っていたり山手線と前立腺の区別すらついていないほどに鉄道関連の知識に乏しく、それでも電車内のマナーは非常に厳しいとばかり聞いていたので、周りの乗客に粗相があってはならぬと身体をガチガチに固くしながら乗車したものでした。

 そんな折、少しばかり混雑していた電車内で座っていると、降車しようとしたひとりのママさんが引いていたベビーカーに思い切り足を踏まれてしまい、もしも僕が高田純次なら「あら、かわいい赤ん坊だね~。パパ似かな?」と軽くいなすところですが、どういうわけか高田純次ではなかったのでちょっとムッとしながらも、まあ状況が状況だけに仕方ないと思うに留めました。何も足を踏んでくるのはベビーカーだけじゃないですからね。

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 ですが、やっぱりそこまで単純な話題でもないようです。

正しい解決策なんてないのかもしれない

 電車内でのベビーカーをめぐる大抵の議論において批判の対象や問題点とされるものを目立つもので大まかに分けると、

  • 「満員電車を生む構造」
  • 「ベビーカーに対する理解や寛容さに欠ける人たち」
  • 「周りの迷惑を顧みず電車内にベビーカーを乗せる人たち」

 の3つに分類されます。

 東京圏の主要区間における電車混雑率(乗車率)は国土交通省の発表によると、最も混雑する時間帯で平均171%、最も高い区間では200%超えという異常な状況(参考)。

 そのような圧迫感は赤ん坊にもかなりの負担を与えることでしょう。電車内のスペースを拡充したり、電車の本数を増やしたり、出勤時間などを考慮して混雑の発生を根本から回避する必要があるのではないか諸々というのが、構造の改善を訴える方々からの意見ですが、現実的にすぐとは難しいところ。

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 一方、ベビーカーへの理解や寛容を訴えるのは、一番手っ取り早く倫理的な面でも理想的な方向でもあるのですが、乗客ひとりひとりの感情や状況に左右される部分が大きいためなかなか難しいですね。この姿勢は国そのものが掲げており、国土交通省が平成25年に設置した「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」などはベビーカーに対し周囲の乗客が配慮を心がけるよう、イラスト等を使って僕みたいな生後360カ月の子どもにも分かるように提示しています(参考)。

 ベビーカーの乗車否定派に関しては「ベビーカーが乗車することで多くの人が乗れない。車を使うか混雑する時間帯を回避しろ」という意見が目立ちますが、はたしてこれは正しいのでしょうか。

 鉄道会社によって基準はまちまちですがベビーカーをたたまずに電車に乗る権利はしっかり認められており誰が拒めるものでもなく、またベビーカーをたたまないのは電車の急停止などの際、子どもを抱えたまま倒れるなどの事故を防ぐためでもあり、そのためにベビーカースペースなるものが存在しています。

 かつ占有するスペースの問題にしても「誰かが乗れば誰かが乗れない」というのはベビーカーに限った話ではなく、「移動は車を使え」「混雑する時間帯を回避しろ」というのなら「ではまずあなたから……」のひと言で終わってしまいます。言えばなんとかなるわけではありません。大人の仕込んだ計算や思惑というものがまったく通用しないのが赤ん坊という生き物なのですから。

 昔は電車内でもいくら荷物抱えていたって当たり前に子どもを抱っこしていたんだから、ベビーカーなんて時代が生んだ甘えだといういささか精神論によった意見も見受けられますが、電車だって時代が必要に応じて生んだ便利さの象徴なのですから、深刻な必要性が伴った便利さには僕たちが合わせていくべきなのでしょう。

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 とはいえベビーカーへの否定的見解にもさまざまな事情が絡んでいるものなので個人が簡単に否定できるものではなく、実態はもっと複雑で厄介です。

 僕自身の明確なスタンスを表明すると、ベビーカーの乗車否定派に理解と寛容を求める側の立場ですが、乗車肯定派と乗車否定派、理解と寛容を求める側にシステムの改善を要求する側、それぞれが一枚岩で留まっていないような状況で生じた対立に的確な解答など誰も示せないので、そんな争いを見ても僕は「とりあえずみんなでマリオカートしない?」ぐらいしか言えないのです。

問題をさらに厄介にする存在

 さて、先述の「とにかく攻撃対象になりうる者を探している人たち」に戻ります。このベビーカー問題の解決において、もっとも厄介な手合が彼らなのです。

 こういったタイプともなればもうシステムの改善など意味がなく、ベビーカーへの「理解」や「寛容さ」を求めてもさほど効果がありません。分からない・許せないではなく「怒りたい・攻撃したい」という感情に適当な動機をヒモ付けているだけであり、それがたまたまベビーカーであっただけなので、理解がないから、心が狭いから、でカタは付けられません。こっちがムーニーマンをはいているような子どもであっても、相手は加害衝動で頭の中がパンパースなので、暴力はやメリーズと言ってもきかないわけです。

 ではこういう不条理に対し、ベビーカーを引いている人たちが肩身を狭くして涙を飲みながら接したら認めてもらえるものでしょうか。期待はできないでしょう。

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 だけど、僕はこういったタイプが極端な例だとかマイノリティだとはとても思えなくて、ベビーカーに向けられる冷ややかな視線のその多数が、実は理解や寛容の欠如などではなく、満員電車そのものへのいら立ちやそのほか日常生活でのフラストレーションの蓄積で生まれた攻撃性が、運悪くベビーカーという分かりやすい対象へ向けられてしまっただけなのではないかと考えるのです。だとすれば、一体どういう策が有効性を持つようになるのでしょうか。

 あらゆる解決策や折衷案を無効化してしまうこのような存在を、この問題ははらんでいます。そして場所や議論の対象が変われば、それは誰もが何かに対して成り得る存在なのだ、と。人間こわい!

それでもやり続けるしかない

 そうなると問題の根深さはますます強固になるばかりですが、当然のことながら、ベビーカーに対する理解や寛容が少しでも多く広がること、システムの改善が進むことに関しては、やれるだけやり続けて損をすることはないでしょう。

 ベビーカーなんて迷惑だとかそんなつれないことを言わず、誰もが困っているベビーカーを見かけたら余裕がある限り何かしら手を貸してあげて、「ありがとうございます」と言われたらそのまま無言で立ち去りバックで「GET WILD」が流れるような状況の一般化が理想だと思うのですが、まだまだ先は遠そうです。

プロフィール

 85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディ化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。

 2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。

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