今年もやります! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2016:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第60回(3/3 ページ)
毎年恒例「このマンガがすごい!」に選ばれなかった作品の中から、虚構新聞社主・UKがオススメする作品ベスト10を発表します!
第7位「週刊少年ガール」(中村ゆうひ)
第7位は「マガジンSPECIAL」(講談社)から、中村ゆうひ先生の「美少女×恋×SF」なラブコメオムニバス「週刊少年ガール」(全3巻)。
本作に登場するのは、恋する相手のことを考えすぎた結果、体からずるっと骨格が飛び出てしまい文字通り「骨抜き」になってしまった少年や、自分の生霊が見える少女など、変わった体質の若者たち。本作のSFは「空想科学」の方ではなく、「すこしフシギ」の方のSFなのです。
「廊下の曲がり角でぶつかった勢いで100人に分裂した女子」とか「女子の声が海鳥のような「みゃあみゃあ」という鳴き声にしか聞こえない男子」とか、「こんなフシギなシチュエーションからどうやって恋に発展するんだ……」と、冒頭必ず“?”が浮かぶのだけど、読み終わる頃にはなぜかいつもニヨニヨしてしまっているというストーリー運びがすばらしいです。
「日常」でも書いたように、このような奇抜な発想を押し出しているマンガは、常々マンネリとの戦いになるのですが、むしろ最終巻のエピソード「delayed voice」こそが、今回選出する決定打となりました。
主人公はこれと言って特徴のない地味メガネの冬野君と、その彼女・春木さん。ずっと無口だった春木さんが初めて発した「かばさん」という謎の言葉以降、支離滅裂な会話しかできずにいる2人。そのコミュニケーションの困難を乗り越えようと、懸命に努力する冬野君の姿、彼女の言葉がおかしい原因、そしてそこからは予想もつかなかった感動的な結末には本当にやられました。
登場する少女がみんなかわいいのはラブコメとして無論のことですが、特に黒髪制服女子好きなら、これを読まないという選択肢はあり得ません。
第8位「やさしいセカイのつくりかた」(竹葉久美子)
第8位は「月刊コミック電撃大王」(KADOKAWA)から、竹葉久美子先生の「やさしいセカイのつくりかた」(全6巻)です。
物理の才能に恵まれた「ギフテッド」として13歳で渡米、19歳にしてアメリカの大学院で企業との共同研究を進めていた朝永悠。しかし、資金難から研究打ち切りを通告されたことをきっかけに大学院を中退した彼は、日本に帰国し、女子高の講師として教鞭をとることになります。
着任間もなく、朝永を「童貞なんだ」とからかった草壁ハルカ、朝永と同じ理数の才能に恵まれたギフテッドなのに、それをひた隠しにしている広瀬葵、複雑な家庭環境にある遠野冬子といった問題児に囲まれ、早くも心が折れかかる朝永。
舞台は女の園、しかもトラブルを抱えながらも三者三様かわいい女子高生に囲まれて……と油断して読むと、その甘えは裏切られることになるでしょう。パッと見た感じ「百合かな?」と思わせる美しい表紙絵もある意味トラップで、その実はトラウマの克服や恋の不安、見えない未来など、心の内面に焦点を当てたヒューマンドラマです。
「大人/子供」「教師/生徒」という一線を引きつつも、実は教え子と大して歳が変わらない朝永に象徴されるように、自分の足で立って生き方を決めねばならぬ年齢にある彼・彼女ら一人一人の心情を丁寧に描いており、またその迎える結末もすばらしいものでした。
しかしまあ最後まで読み終えて思ったのは「みんな若いな!」ということ。10代後半目線から現在進行形で綴られる言葉や心情を見ていると、その若さがうらやましくなると言うか。青春などとうの昔に過ぎ去った身なので、朝永の同僚教師・加山百合音が哀しそうな顔で静かに語った「それでもまだ子供な気がしてたけれど…」「つまらないわ いつの間にか大人になってたみたい」の方に共感を覚えるばかりです。歳を取るとしがらみが絡みついて、まっすぐ歩けなくなるというのは本当にその通りですよ……。
社主のようにジジイ目線で読むのもよし、10代後半~20代前半の同時代目線で読むのもよし。どちらの目線から読んでも、今の自分に突き刺さる言葉が見つかるはずです。
第9位「はじめのニット!」(芦田実希)
第9位は「ITAN」(講談社)より、芦田実希先生の手芸マンガ「はじめのニット!」(全2巻)。
北九州弁の中学2年生・佐保、波、麻衣子の同級生3人は、一緒に部屋の破れたふすまを色紙でカモフラージュしたことをきっかけに手芸部を創設。帽子を編んだりカバンに刺繍を入れたり手芸部の活動に励む彼女たちとともに、春夏秋冬移ろう季節を感じる作品です。
最初に「手芸マンガ」とあったので、「編み物とか全然知らないのだけど、専門用語も覚えないとダメなんだろうか……」と構えて読み始めたら、そんな技術やうんちくとはかけ離れた、ゆるくて温かいお話でした。
夏には浴衣を縫い、秋になれば落ち葉で便箋を作り、冬には手芸の王道・マフラーを編む――、そんな四季の移ろいを手芸とともにまったりと眺める趣がとても心地よく、その温かみある画風も相まってほっと一息つけるやわらかさに満ちてます。肩の力を抜いて読める、いや、肩の力が入っている人にこそ読んでほしい一作。
これが芦田先生初めての単行本ということだそうで、次回作も楽しみにしています。
第10位「ビーンク&ロサ」(模造クリスタル)
最後はイースト・プレスのマンガサイト「マトグロッソ」より、「ビーンク&ロサ」。
やや昔の話になりますが、SNS普及前夜の2006年、Webマンガ「ミッションちゃんの大冒険」で注目を集めた作者による初の商業作品。社主のようにWindows98あたりでパソコンデビューした、インターネット老人会青年部世代なら記憶にある人も多いのではないでしょうか。
「ミッションちゃん」は、生きることに苦しみを覚えて自殺したはずの少女・ミッションちゃんが、牢獄にとらわれ、死後もなお訪れる不条理と不安、絶望に苦悩するさまを、自問自答を通じて描くという、読み手を選ぶカルト的人気の高い作品でした。残念ながら「ミッションちゃん」は非公開になってしまいましたが、現在も公開されている「金魚王国の崩壊」を読めば、その危うい雰囲気が分かってもらえると思います。
さて、本作「ビーンク&ロサ」はタイトルそのままに、ゴミ山に打ち捨てられた廃キャンピングカーに住む少年・ビーンクと少女・ロサの日常を描いた作品。「ミッションちゃん」や「金魚王国」に比べると、ストーリーも理解しやすく絵も読みやすい、文字通りコミカルに寄った作品ですが、ストーリーの本筋から離れて、突如挟みこまれる「根腐れを起こした植物に、さらに水をやり続けるとどうなるか問答」や、アメリカのミュージカル映画のような「肉の愛し方」といった挿話には“らしさ”が健在。深く考え出すとメンタルを負の方向に持って行かれそうになる、無意識の不安をえぐる作風が社主は大好きです。
「だって… 電車って 怖いぞ…」「前の電車に乗り遅れたら / もうその後の電車は 絶対前の電車に 追いつかん」
ビーンクが電車を怖がる理由について語るこの言葉に共感を覚えられる人なら、きっとハマれることでしょう。以前連載で紹介した、つくみず先生の「少女終末旅行」(新潮社)の作風が好きな人なら、こちらもおすすめです。
と言うわけで、今年社主が「すごい!」と思ったマンガ10作品を紹介してきました。長文ながら最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今回選んだマンガは、例年に比べて「知る人ぞ知る」ものは少ない(はず)ですが、それでも「聞いたことはあるけど、読んだことはないな」というものも結構あるのではないかと思います。いちおう順位をつけているものの、どれも甲乙つけがたい良作ばかりなので、ランキングやジャンルにとらわれず、自分の興味関心に引っかかってきたものから読んでもらえたなら、ここまでひたすら書いた身として何より報われます。
昨年の目標だった「メガネ女子と百合好き人口の拡大」に、今年は「変な女子好き人口の拡大」を加えつつ、6畳間の社主室を日々侵食していく大量のマンガに埋もれて死ぬその日まで、マンガを読んでいきたいと改めて誓った次第です。
今年も本連載をどうぞよろしくお願いいたします。
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