ニュース

アニメーターの待遇問題は改善されているか “アニメーター寮”に住む若手に聞いた(1/2 ページ)

現役若手アニメーターと今年から働く新人を取材しました。

advertisement

 「20代の若手アニメーターの平均月収は月9万円」「3年以内の離職率が9割」――こうしたアニメーター業界の厳しい状況を改善すべく、立ち上げられた「アニメーター寮」があります。なぜ若手アニメーターに救いの手を差し伸べるのか、その支援活動や、若手アニメーターが今何を感じているのかを取材しました。

 「アニメーター寮」はその名の通り、若手アニメーターだけが利用できる専用の寮。NPO法人「アニメーター支援機構」が東京・杉並区にある一軒家と荻窪のマンションを寮として運営しています。寮内では業界歴3年目までの若手アニメーターたちが共同生活をしています。

 寮生の田中 正晃さんは国立・筑波大学芸術専門学群洋画コースで油絵を専攻後、アニメーターとして就職。現在は新人が担当する動画から原画マンにスキルアップして2年目、業界歴は3年目です。

advertisement

「自分の作品だといえるものを作りたい」

アニメーターの田中 正晃さん

――小さいころからアニメーターを目指していたのでしょうか

田中いえ、僕は大学生になるまで真剣にアニメを見たことがありませんでした。あまり将来についても真剣に考えていなくて、最初は美術の教師になろうかな、となんとなく思っていたのですが、友人に勧められた「とらドラ!」を見て、アニメって面白いなと思いました。

――「面白いな」から「作りたいな」に変わったきっかけはあったのでしょうか

田中学部の雰囲気もあって「何か作らなきゃ」という気持ちを常に持っていました。そんなときに当時流行していた「ニコニコ動画」を見て、「あれ、これなら作れるんじゃないか」と思い、1人で半年ぐらいかけて地道に1分30秒ぐらいのアニメPVを作りました。そうやって自分のアニメを作っているうちに、プロの現場で仕事をしたいという思いが出てきました。

――アニメ業界に就職すると決めてからはどうしましたか

advertisement

田中まずアニメ業界に入るにあたって、いろいろと調べました。それこそアニメ系の専門学校のオープンキャンパスなどに出掛けて、アニメーターご本人のお話を聞いたり、ネットで調べたり。そうして東京のアニメ制作会社に業務委託契約という形で採用されました。

――アニメーターになってからは、どのような仕事が待っていましたか

田中アニメーターは「動画」と呼ばれる作業からはじまります。動画とは「原画」担当者が描いた絵と絵の間にさらに絵を描いて、動きを滑らかにしていく作業です。このセクションを大体1年半ぐらい経験したあと、原画試験を受けて現在は「原画」を担当しています。

原画試験……動画担当者が原画を担当するために設けられている会社ごとの試験のこと

――試験にはどうやって臨みましたか

田中僕の所属している会社の場合、3カ月間で動画を1200枚描かなければ原画試験を受けることが出来ません。僕は入社1年目の終わりごろに目標枚数を達成し、原画試験を受けましたが、1度では合格できず、3度目でやっと合格できました。

advertisement

――最近アニメ業界の、特にアニメーターの待遇が厳しいという話を耳にすることがあると思うのですが、率直にどう思われていますか

田中新人で経験の浅いうちはかなり厳しいと思いますし、実際僕はそうでした。ですが僕のいる会社では、待遇が改善されつつあります。

――具体的にはどう改善されたのでしょうか

田中まだ、詳細は確定していないのですが来年度から働き方、教育面、賃金面でいろいろと変わっていくと聞いています。実は今までは業務委託契約だったので、“契約上は”他社の仕事を請けてもいいことになっていました。だから僕は別に悪いとも思わずに他社の作品に参加し、自分のクレジットをそこで流してしまったんですよね。

――そうしたらどうなったんでしょうか

advertisement

田中叱られましたね。契約上はそれでいいかもしれないけれど、僕はその当時まだ見習い的な立場でした。だからそのあたりをよくわきまえないといけない、ということで。

――なるほど、倫理的な部分でというところですね

田中そうです。確かに「そうだな」と思うところもあるのですが。会社と業務委託契約を締結するにあたって、作業への単価と別に毎月固定で追加報酬はもらっているのですが、賃金以外にも納得できない部分もあって……。例えば、他社の仕事を取ることを禁止したり、ノルマを設けたり、社員ではないのに社員と同等の労働上の規則を暗に課しているという部分です。本質的には歩合制なのに自分の労働時間や仕事の種類をコントロールできない。そこがほかのクリエイター職と比べてアニメーターを続けていきにくい一因になっていると思います。

――会社には分からないものなのでしょうか

田中もちろん会社の仕事も一生懸命やっていましたが、気付いていたかもしれませんね。その後、一度会社から離れることも視野に入れたうえで、会社に対して他社の仕事も請けている旨を告白しました。というのも、所属している会社の仕事をフルでやりつつ、他社の仕事をするという状況のなかで、自社の仕事量をコントロールできないつらさを感じ始めたからです。

advertisement

――会社側の反応はいかがでしたか

田中よく話を聞いてくれたと思いました。そういう話を会社側に正直に話せたのも、会社が待遇を改善する方向性に進んでいるのも報道が一つのきっかけだと思っているので、業界の実情を世間に知ってもらえてよかったかなと思っています。

――そうなのですね。ちなみに田中さんのように「食べていけるアニメーター」になるにはどうすればいいのでしょうか

田中僕が食べていけるアニメーターなのかは甚だ疑問ですが(笑)。画力以外にも描くスピードや営業能力は必要だと思います。

――なるほど、田中さんは今後アニメーターからどういったスキルアップを目指したいと考えていますか

田中「何を生意気な」と思われるかもしれませんが、僕はアニメーター職人としてだけ生きていきたい訳ではありません。僕の幸せは「絵を描いて、自分の作品を作っていく」ということ。ですから、アニメという枠組みだけにとらわれず、自分の作品を作れる人間になりたいと思っています。

寮の空き部屋。かなり広かった

――アニメーター寮についてはどうでしょうか

田中僕が機構を知ったのは、先ほどお話しした就職前の情報収集の時で、ちょうど就職と寮のオープンが同じ時期だったのでお世話になっています。この寮にはいろいろな会社で働くアニメーターがいるので、他社の情報も分かりますし、機構がやっている勉強会や食事会でさまざまな人と出会えるというのはいいことだと思います。「こうなってもこうすればいいから大丈夫」といった情報が入ってくるので、心の余裕が持てているなと感じますね。

――デメリット的なことはないのでしょうか

田中僕自身は不便を感じないのですが、支援を受けているという立場なのでそれなりにやることはあります。例えば支援者の方へ色紙を描いたり、お礼のイラストを描くこともあります。あとはSNSを使った活動もやっているので、「人と関わるのが極端に苦手」という人にはしんどいかもしれません。

       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. 友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
  3. 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」【大谷翔平激動の2024年 現地では「プレー以外のふるまい」も話題に】
  4. 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  5. 毛糸6色を使って、編んでいくと…… 初心者でも超簡単にできる“おしゃれアイテム”が「とっても可愛い」「どっぷりハマってしまいました」
  6. 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  7. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  8. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  9. 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  10. 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】