連載
東大ラノベ作家の悲劇――新小岩で笑っている自殺警備員をみたら、十五歳で立ちんぼをしていた首が“自主規制”な新宿の少女を思い出した:<前編>(1/2 ページ)
これは私の物語でもあり、同時にあなたの物語でもある。
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新小岩は自殺の名所として知られる。
私は総武線のグリーン車から、ビールを片手に、
青々と光る異様な駅のホームを眺めていた。
青い光は、心を癒やしてくれるらしい。
不気味な蛍光灯の光に照らされて、
自殺防止のために配置された警備員が、
人混みの群れのなか笑っている。
グリーン車の二階から見下ろすその光景が、
場違いな穏やかさで、ゆっくりと流れていく。
そして突然ピアノの音が流れ出した。
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鍵盤の壊れた白い象牙を、
跳ねるように踊るボロボロの指先。
手首に一発。太ももに二発。
首に四発。刻まれた弾痕のようなナイフの衝動。
誰よりも美しかったそのからだは、
他の誰でもない彼女自身によって、
汚された。
だがその傷痕は、
彼女が生きた痕跡として、
いまでもはっきりと意識に刻まれている。
それは私のあたまの中にある、
吐き気がするほど大切な記憶だ。
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1 十五歳の偽造保険証を見抜けない大人
その少女に出会ったのは、もう10年以上前のことだ。
彼女は偽造保険証を使って、歌舞伎町の店で働いていた。
当時は、顔写真付きの身分証が必須ではなかったから、
百円ショップで買った透明なプラカードを糊で挟んで、
保険証の生年月日をごまかすだけの単純な仕掛けでも、
店の人間を欺くことができた。
六本木の高級クラブでもなければ、
銀座の会員制ラウンジでもない。
吐瀉物にまみれたコマ劇裏の飲食店だ。
劇場も。店も。少女も。友人たちも。
いまではもうみんないなくなってしまった。
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