インタビュー

ハリウッド監督・紀里谷和明2万字インタビュー×東大作家・鏡征爾:禁断の解禁 ここにあなたの悩みをひもとく全てがある<前編>(2/3 ページ)

インタビューは、映画「ラスト・ナイツ」の日本公開直後、2015年に行われた。

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IV そして原稿がいらなくなった

鏡:用意したものが、まったく役に立たない(原稿に呟く)

紀里谷:ハハハ! ごめんね(笑)

鏡:いやあ。本当に面白い話を聞かせて頂いています。うーん。でも根本的に……いいのかな(ちょっと悩む)。あの、僕、他のインタビューとかもたくさん見たんですけど、監督は「ラスト・ナイツ」に関する具体的な困難とかを語られているじゃないですか。それもできればお聞かせ頂きたいんですけど……宣伝も兼ねて。宣伝、した方がよくないですか。あった方がいいと思うんですけど。それとも、もういらないですか?

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紀里谷:……いんじゃね!?(のけぞりながら両腕を広げて)

鏡:(笑)。いいんですか?(笑)

紀里谷:だってさ、言い続けたってそれはセールスにつながってないわけだよ。

鏡:ああ……(遠い目)。(当時「ラスト・ナイツ」は鑑賞者の称賛の声とは裏腹に、興行面では苦戦が続いていた)

紀里谷:そういうロジカルな話よりも、それよりも、もっともっと他の人たちが見た感想を書いてもらうことがよっぽど俺はうれしい。

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 だってさ、これをつくろうと思って、どれだけみんな苦労してとかそんな話聞いたって、それは「それがどうしたの?」って話だもん。それよりか、商品がどれだけよかったよね、っていってもらった方が俺はいい。

鏡:想像を超えるなあ。自分のあたまのネジが飛ぶ音が聞こえます。どうしよっかな。この原稿まったく役に立たないんですけど(インタビュー原稿をぐしゃぐしゃと丸め始める)。

紀里谷:ハハハ(笑)。じゃあいいじゃんもう最初っから全部変えれば(笑)

鏡:変えますよ! そうしたらテクニカルな話はいらないかな。ちょっと趣向を変えますね。監督のパッションの話。それも監督のパッションに訴えかけることに成功した話――監督に突き抜けたカナダ人の話にします。

 今回脚本はカナダ人の方のを使ったわけですよね? 彼とは国境も人種も離れている。しかも外人発の「忠臣蔵」(当初脚本家であるマイケル・コニーブスが持ってきたものは典型的な日本の武士の世界を描いた脚本だった。「それをハリウッドでやってもね」「日本には武士道があるが西洋には騎士道があるじゃないか」紀里谷監督自身の手によって世界観自体を変える必要があった)。それなのになぜ彼は紀里谷監督の心に突き抜けることができたのでしょう。

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紀里谷:俺のオフィスにもってきただけだよ。俺のことが好きだったんじゃねえの?

鏡:ものがすごかったってことですか?

紀里谷:それしかない。なぜモーガンがこの仕事を受けてくれたのかなんて、単に脚本が好きだったというだけの話なんだ。

鏡:そうやってクライヴ・オーウェンも納得させた。

紀里谷:だから全てが情緒的なんだよ。

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鏡:感情の話にすぎない。

紀里谷:今日なに食いたいのって話じゃん。カレー食うのか。そば食うのか。どっち食いたい?

鏡:カレー。からいものが食べたい……。

紀里谷:じゃあそれはなんで? なんでカレーにしたんですか? って聞かれても……

鏡:わかんないですよね。その場の感情にすぎないし。

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紀里谷:それが正しいんだよ。それは単純に食いたかったからだろう。だから結局そういうことなんだ。俺が何か変な人間みたいな感じに一般ではなってるけど、そもそもそんな程度のものなのではないだろうか、人間は。

 このフェーズにまで議論を落としこんでいけば、いまのいろいろな国際問題は解決すると俺は思う。「なぜ私たちはこんな内戦をやっているんだろう」「なぜ僕らはこんな戦争をやっているんだろう」「なぜ僕は黒人の膝を散弾銃で砕くのか」物事をロジカルに考えれば結局は全てが情緒的なところにたどり着く。その情緒的なところの相互理解があればと思うんだよ。

V Conflict:想像でつくりあげた葛藤

鏡:その相互理解の話で、これだけたくさんの人を絡めるわけじゃないですか。

 紀里谷監督の映像は2000年の最初の頃から知っています。ミュージック・ビデオの頃から知っている。監督の映像は一瞬で違いがわかる。わかるのに違いがわかる。だからきっと根本的につくりが違う。

 ウェルメイドなもの、つまり方程式に沿ったそこそこのものをつくるのと、新しいものをつくるのって、まったく別のものだと思うんです。だから現場でも葛藤があったと思うんですね。そうした葛藤を監督はどうやって乗り越えてきたんでしょうか。

紀里谷:そんな葛藤なんて想像でつくりあげてるだけの話じゃないか。じゃあそこの部分をどうクリアするのかって話なんだよ。それはきっちり話あわなきゃいけないし、やっぱり自分が見せていかなければいけないし、自分がどう思うかを言い続けていかなければいけない。

 それは極めて情緒的な部分に対して忠実でなければいけないわけですよ。それはマーケティングとは違うものになっていくと思う。

 でもその情緒的なものが強ければ強いほど人はついてくるんじゃないかな。

 これはね、信仰に近いものがあると思う。宗教的なものがあると思う。それはどっかの宗教とかそういうことじゃないよ。自分の作品。自分の衝動。それに対して、どれだけ忠義を尽くすのかみたいな話なんじゃねえのかな。

鏡:……。

紀里谷:俺がいいたいのは、俺がつくったものがいいと言ってくれる。それに対して、リアクションが起こっている。ということは、きみのなかにも同じ景色が見えてないと、そもそも合致しないんだよ。

鏡:(うなずく)

紀里谷:ということは多くの人たちに同じイメージが存在しているんだよ。あとは、それを具現化するのか。しないのか。という、その一点で、あるわけ。よく「どうやったらそんなインスピレーションがくるんですか」とか、よく「どうやってそんなことできるんですか」とかいった質問が来るけど、みんな同じようなものを持ってるんだよ。

 それを一つの炎としよう。みんな同じような炎を持ってるんだよ。それを必死になって具現化するのか、しないのか?

 それは極めてロジカルなパートだよね。情緒的には同じなんだよ。

 誰だってお花見たらきれいだなって思うし。夕焼けみたら美しいと思うし。おんなじじゃん。

鏡:その……つまんない話かもしれないですが、

紀里谷:何をきみは恐れてるんだ?

鏡:……。

紀里谷:そこに行き着くんだよ。きみが何かをこわがってるんだよ。

鏡:僕は……。

紀里谷:踏み出すことにこわがってるんだよ。

(鏡、黙り込んでしまう)

(助太刀するように須田が話を続ける)

須田:でも、必ず人って誰かから評価されるわけじゃないですか。例えば映画監督をやっていらっしゃって、もちろん自分のつくるべきもの、つくりたいものをつくるっていう思いでつくってらっしゃるんじゃないかとは思いますけど、でも、これはこういう映画であるとか、こういうところがよくないとか、あるいはこのこの監督はここがいいみたいなこととかって、必ず誰かから評価されて。

紀里谷:もちろん。

須田:視聴者がいないと映画って成り立たないですよね?

紀里谷:もちろん。でもそのロジックでいったら、みんなヒットしてるよね。

須田:ああ(溜息)。どの映画もってことですか?

紀里谷:そうだよ。だってその価値基準でやったらヒットするということでしょ。何でヒットしないのかってことだよ、問題は。

 商品だって同じこと。いろんなオリンパスのカメラでも何でもいい。いろんなカメラをつくってる。みなさん優秀で、ユーザーからいわれたことをとりいれてやろうとする。マーケットリサーチもしっかりとやっている。人の評価を気にしてつくってるだろう。じゃあなぜ、なぜ100パーセント売れないのかって話だろう。なぜだろう?

須田:……自信がないから?

紀里谷:自分が好きなものつくってないからだよ。

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