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「FGO」の新シナリオが『魔界転生』のパクリ? → いやいやちょっと落ち着こう、という話モバクソ畑でつかまえて

パクリ? それともオマージュ?

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 スマートフォン用ゲームFate/Grand Order(FGO)に先日実装された新シナリオ「英霊剣豪七番勝負」が一部で物議をかもしています。山田風太郎『魔界転生』と設定や展開がそっくりなことから、遊んだユーザーから「パクリじゃねーか」「いや、これはオマージュだよ」「そもそも『Fate』自体が『魔界転生』から着想を得てるのに何をいまさら」――など、さまざまな意見が噴出。ついには東映や日本文藝家協会に問い合わせる人も現れ、ちょっとした騒動に発展しつつあります。

「FGO パクリ」のリアルタイム検索結果(Yahoo!リアルタイム検索より)

 ただ「パクリかオマージュか」というのは、ネットでもしばしば議論になる難しい問題。そもそも「英霊剣豪七番勝負」とはどういう物語で、どのように『魔界転生』と似ているのか? 両作品を知っているファンはどう見ているのか? ここでは、モバクソゲーサークル「それいゆ」発起人であり、山田風太郎作品と「FGO」にも精通する「怪しい隣人」@BlackHandMaiden)さんに、今回の騒動について解説してもらいました。

山田風太郎「魔界転生(上・下)」(講談社文庫版)

ライター:怪しい隣人

出来の良くないソーシャルゲームを勝手に「モバクソゲー」と名付けて収集、記録、紹介しています。モバクソ死亡リストは500件を超えました。年々ソーシャルゲームが複雑になり、ダメさを判定するのに時間がかかるのが最近の悩みです。本業はインフラエンジニア。そのためソーシャルゲームの臨時メンテは祭り半分胃痛半分な気分です。

「英霊剣豪七番勝負」はどれくらい『魔界転生」なのか

 モバクソといいつつも今日は日本でトップセールス上位をひたすら走っているゲームのお話をしたいと思います。私だって墓穴に片足突っ込んでるゲームばかり集めているわけではなく、人並みに石を溶かしたりはするのです。

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 そのゲームの名前は「Fate/Grand Order」。先週10月14日に最新のシナリオ「英霊剣豪七番勝負」が配信されたところです。

 私も当シナリオは大変楽しく読ませていただいたのですが、配信されてから後、ネットでは「これは『魔界転生』のパクリではないか」という話題がじわじわと広がっていました。後述しますがシナリオの内容は「いやこれをパクリと言われましても……」という感じであり、いわゆるまとめサイトのたぐいが扇情的に話題にしているだけかと思っていたのですが、18日~19日あたりに「日本文藝家協会に問い合わせた」という方がTwitterに現れ、さらにその発言を受けて自分でも問い合わせる人が増え……という形でパクリという話だけがどんどん膨らんでいるような状況です。ではその「英霊剣豪七番勝負」とパクリ元であるといわれている『魔界転生』とは、それぞれどういうお話なのでしょうか。

10月14日に実装されたシナリオ「英霊剣豪七番勝負」(「Fate/Grand Order」公式サイトより)

 まずは「英霊剣豪七番勝負」ですが、この世界では女性として描かれる剣豪・宮本武蔵をメインキャラクターに据えて、その世界へ意識を飛ばされてしまった主人公が、武蔵とともに似たようで異なる江戸時代の日本で、その世界を混乱と破滅に陥れようとする悪の首魁と彼が率いる七騎の悪鬼羅刹と化した「英霊剣豪」との戦いを描くというものです。

 一方『魔界転生』ですが、大まかなストーリーは、悪の首魁が死にひんした、あるいは老いた剣豪たちを忍法魔界転生を使って全盛期以上の存在へと復活させ、彼らを率いて幕府転覆をたくらむというもの。それを阻止しようとするのが、彼もまた転生対象として選ばれたものの、それを否定し敵にまわった柳生十兵衛です。ただ、この『魔界転生』という作品、山田風太郎氏の原作を元として、深作欣二監督の映画、石川賢氏の漫画とさまざまな形にアレンジされていたりします。

石川賢版『魔界転生』と、深作欣二版「魔界転生」

 読んで分かる通り、今回の「英霊剣豪七番勝負」もいろいろな『魔界転生』やそれに限らず山田風太郎作品からいろいろとネタを引っ張ってきています。英霊剣豪となった存在には異形の力が埋め込まれ不死性を得るという設定は漫画から、クライマックスの舞台やそこでの戦い、そしてキーになる武器の存在は映画から、あのお姫様がなぜ選ばれたかは原作で転生衆の1人が戦う場所が道成寺だから、脇役のキャラの名前が原作にもいるお縫お玉から取られているなどなど。また個人的には最後の戦いの「このふたりが出会ってしまったからには戦わずにはいられない」という展開は小説『柳生十兵衛死す』のラストを強く感じさせるものでした。

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おぬい(左)とおたま(右)
道成寺な人

 なお『魔界転生』からの影響という話になると、そもそも「Fate/Stay Night」自体、高校時代に奈須きのこ氏が石川賢版『魔界転生』に影響されて書いていた文章が元になっているというお話もありますし、現在アニメ放映中の「Fate/Apocrypha」で天草四郎が登場するのも「Fate/Stay Nightの根底に魔界転生があるのなら、天草四郎がボスになるというのはどうか」という着想があってのことなのだそうです。

 また「FGO」自体においても、第二特異点「永続狂気帝国 セプテム」では「皇帝ネロ支配下のローマを侵略しようとする連合帝国、そのメンバーは死んだはずの歴代皇帝たち、そして最後に立ちはだかるのは最強の剣士・文明を滅ぼすもの」というこれまた似たようなお話もあったりします。

作品を斜めから見る前にまずその作品を楽しもう

 いろいろ書きましたがプレイした感想を一言でまとめると「ものすごく魔界転生でした」となります。もちろんこれは否定的なものではなく、細かなところにまでマニア心をくすぐる仕掛けが施されており、山田風太郎ファンで石川賢ファンであり映画も大好きな私としては大変楽しめるものだったと申し添えておきます。

 なので「これをパクリと言われましても」という気分になるのが正直なところなのです。ここでパクリとオマージュの違い、みたいな話になりますが、Twitterでちょっと前に見た「元ネタがバレて困るのがパクリ、バレなきゃ始まらないのがパロディー、分かる人にだけ分かればいいのがオマージュ」みたいな話を思い出しました。

 ただ、作り手がこう思っていても、受け手がどう思うかという話になります。ネットでの反応を見ていると「見る人が悪意を持って受け取ればパクリ、好意的に受け取ればオマージュ」みたいな感じにも見えてしまうのではないかな、というのが私の考えです。

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 なお今回パクられたとされている山田風太郎氏当人でありますが、この人もご自身の作品でいろいろとやっておられます。特にものすごいのは「伊賀の散歩者」(収録:剣鬼喇嘛仏)という作品で、伊賀の殿様の側室に選ばれた娘、おらんとその弟平井歩左衛門のお話です。

 お「らん」「歩」左衛門、そして平井と言うのは(江戸川)乱歩の本名・平井太郎から――ということなのですが、この作品、短編でありながらその中に10本ほどの乱歩の短編ネタと乱歩のお稚児さん趣味をブチ込み、途中の一文で「――それがどんなものであったかは、ここに語る余白がないので、諸君よ、乞う、江戸川乱歩の名作『パノラマ島奇譚』を読まれて、それから想像いただきたい」とか書いちゃうような愉快なお話。英霊剣豪七番勝負で例えるならば「ついに現れた妖術師の居城! その上階で武蔵を待つ英霊剣豪が1人、セイバー・エンピレオ! その正体は! ここでは書ききれないのでぜひ映画『魔界転生』を見てほしい!」みたいなことが書いてあるわけですよ。

セイバー・エンピレオ、その正体は……

 乱歩と山田風太郎は師弟関係にあったからこそという作品ではあるのですが、これ以外にも山田風太郎は『南総里見八犬伝』をモチーフに忍法八犬伝を書いた後、更に八犬伝を自分流に語りつつ、かつ作者である滝沢馬琴の壮絶な人生を描いた『八犬伝』という小説もものしています。

 こんな形で、ある作品を礎にした名作というのはたくさんあるものだと思います。まず作品を斜めから見る前に、その作品を楽しもう、そんなことを考えさせられた今回の話題でした。

「英霊剣豪七番勝負」をもっと楽しみたい人に

 最後になりますが、「英霊剣豪七番勝負」をより楽しむための作品紹介を。

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小説:魔界転生 上 山田風太郎忍法帖(6)

漫画:魔界転生 上 十兵衛地獄変

映画:魔界転生(1981年)

 どれも微妙に違う、それでいて傑作ぞろいの魔界転生物語。小説に忠実でありながら、その画力でインパクトあるビジュアルにしているせがわまさき氏の『十 ~忍法魔界転生~』もおすすめです。三つ編みの宝蔵院胤舜とツインテで投げキッスもしちゃう柳生宗矩にときめいてみましょう。

せがわまさき「十 ~忍法魔界転生~」(4巻28~29ページ)

 また、パロディーとかリスペクトとかオマージュとかパクリとかそう言ったことがバカバカしくなる作家の1人として、荒山徹氏をご紹介しておきます。数々の柳生ネタ作品をものしておられる方ですが、今回は最近電子書籍で出版された『大東亜忍法帖』をおすすめ。死した幕末の剣士たちをよみがえらせ明治政府を狙う謎の男山田一風斎、というここまで書いただけでお腹いっぱいな作品ですが、この作品自体も諸事情から上巻のみで発行中断、今回電子書籍でようやく完全版になったという、『魔界転生』を元ネタにしつつ小説そのものが魔界転生してしまった作品だったりします。ただしこちらは『魔界転生』を読んだ後読まれることをオススメいたします。

 これを機会に皆さんがどんどん元ネタにハマっていけば、それが今回のシナリオを書いた方も本望なのかなと思いつつ、私も同じ思いであることを最後に述べさせていただければと思います。

怪しい隣人

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