岳南電車は「全ての駅から富士山が見える」のは本当か? 全駅に降りて確かめてきた:月刊乗り鉄話題(2018年4月版)(1/3 ページ)
「行ったり来たり作戦」で全駅を巡る。【夜景列車秘蔵フォトも14点】
東海道新幹線の旅のお楽しみといえば「車窓からの富士山」です。旅行でも出張でも、富士山がきれいに見えればうまくいきそうです。では、新幹線の富士山が見える区間の下を走るローカル鉄道路線があるのはご存じでしょうか。岳南電車です。岳南の岳は富士山という意味。つまり富士山の南側に作られた路線です。全長9.2キロで駅は10カ所。この小さな私鉄には、日本で「ここだけの特長」があります。それは……。
「全ての駅から富士山が見える」
すごくないですか?
距離も短いし、駅も少ないという、小さな鉄道ならではの特長です。でも、本当に見えるのでしょうか。新しい建物ができて遮られたり、広告看板ができちゃったり。景色って変わりますよね。今回は本当に全ての駅から富士山が見えるのか、そしてどの駅の富士山がきれいに見えるのかを確かめに行きました。
岳南電車は本当に全駅で富士山が見えるのか?
岳南電車は静岡県の富士市内を走ります。起点は東海道本線の吉原駅。東京からは東海道新幹線のこだま号に乗り、三島駅で東海道本線の各駅停車に乗り継いで5つ目の駅です。ちなみに東海道本線の各駅停車からも富士山がよく見えます。東海道新幹線の車窓よりも高く、大きく見えるような気がします。吉原から岳南電車の終点、岳南江尾駅までの所要時間は約20分です。
吉原駅で岳南電車の1日乗車券を買いましょう。700円で乗り降り自由です。ちなみに終点の岳南江尾まで片道360円、往復720円。往復するだけでも1日乗車券のほうがおトクです。
まずは起点の「吉原駅」。民家の屋根の上、工場のタンクの隙間から富士山が見えました。分かりやすい位置ですね。静岡県富士市は工業が盛んです。主要産業の製紙をはじめ、自動車部品、コーンスターチなどの工場もあります。
それでは電車に乗りましょう。岳南電車は、車体の両側に運転台がある1両、または2両連結の電車が走ります。車両はかつて、東京・渋谷と吉祥寺を結ぶ「京王井の頭線」で使われていました。懐かしいですね。電車は発車後に右へ曲がり、東海道新幹線の高架下を通り抜けます。
2つ目の駅は「ジヤトコ前駅」。自動車の変速機を作る会社が駅名になっています。ジヤトコ前駅には芝桜の花壇があります。この花壇はジヤトコの社員と岳南電車沿線市民のボランティアが整備しているそうです。さて、富士山は……ありました。でも、工場の建物に半分隠れています。ちょっと残念。
ジヤトコ前を発車した電車は右へ大きくカーブします。富士山は車窓の右手から左手に移ります。
3つ目は「吉原本町駅」。プラットホームの正面が民家の壁ですが、見えるのかな。改札口に向かいつつ、ふと足元を見ると「富士山ビュースポット」のマークがあります。そこから見上げると、おお、富士山だ。裾野が広がった立派な姿が見えました。意外な出現に気分が上がります。ちなみに吉原本町はB級グルメ「つけナポリタン」発祥の地です。街をお散歩してランチにしましょうか。
4つ目は「本吉原駅」。吉原本町駅から300メートルの距離にあります。近! 東海道新幹線の16両編成より短いのですよ。本吉原には岳南電車の本社があります。ちなみに岳南電車は通称のようで正式名称です。岳南鉄道の鉄道部門を子会社として分離し、岳南電車となりました。この駅も富士山がよく見えます。プラットホームにあったビュースポットマークの場所だけではなく、出入り口からの眺めもオススメです。
5つ目は「岳南原田駅」。富士山はプラットホームの屋根のある場所から見えます。この駅は富士山だけではなく、工場の風景も有名です。次の比奈駅との間に大きな製紙工場「日本製紙富士工場」があり、工場に挟まれた場所を突っ切る区間があります。そして、鉄道と工場夜景の組み合わせは夜景ファンに人気。岳南鉄道は日本夜景遺産に認定されており、毎月2回、土曜日に夜景電車が走ります。2両編成の後部1両の車内灯を消し、夜景鑑定士の資格を取った乗務員さんが解説してくれます。
その工場群をくぐり抜けて着いたのは6つ目の「比奈駅」。ここからの富士山は……うーん、半分くらい建物に隠れてしまっています。これは残念。
でも比奈駅は鉄道ファンには楽しい駅です。比奈駅の駅舎には「フジドリームスタジオ501」という鉄道模型工房があります。レンタルレイアウトもあります。ご主人が飼っているワンコ「サラちゃん」も人なつこくてかわいいですよ。
7つ目の「岳南富士岡駅」も鉄道ファンにうれしい駅。岳南鉄道で活躍した機関車と貨車が留置されています。かつて岳南鉄道は貨物列車を運行していました。前述した製紙工場から製品を出荷するためです。懐かしい形の古い電気機関車と青い貨車、その隙間から富士山が見えます。
8つ目の「須津駅」は難読駅名です。「すど」と読みます。住宅の屋根の向こうに富士山が顔を出しています。でも、電線の黄色いカバーが残念。ちなみにこの駅では新幹線も眺められます。新幹線は富士山の反対側、茶畑の向こうを通ります。ドクターイエローが見えたらかなりラッキーですよ。
9つ目の「神谷駅」ではプラットホームの屋根のないところへ移りましょう。空を広く感じられる場所で富士山を眺められます。電線はちょっとジャマですが……。でしたら、駅を離れてもっと富士山がよく見える場所を探してみるのはいかがでしょう。趣旨から外れてしまいますが、これも鉄旅の楽しみ方の1つ。夜中に月が出ていると、暗い夜空に富士山のシルエットが見える場所があります。電線も気にならず、それは幻想的な眺め。探してみてくださいね。
再び新幹線の高架を潜って、終点の「岳南江尾駅」に着きました。10キロに満たない路線で新幹線と2回も交差します。これも岳南電車の面白さ。岳南江尾駅の富士山は新幹線高架の向こうに頭を出します。背伸びをしないと見えにくいかも。
いかがでしょうか。見え方はいろいろですが、確かに全駅から富士山が見えました。
はい。……まだ終わりませんよ。
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