連載

「女の子同士が手をつなぐ」ことから始まったプリキュアが「男の子同士が手をつなぐ」までに至ったことに祝福をサラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)

「ふたりはプリキュア」から15年。当たり前のことが当たり前になる世の中に。

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 9月に入り、「HUGっと!プリキュア」も後半戦に突入しています。そしてその勢いはとどまるどころか加速しています。


第29話では、はなとおばあちゃんの交流が描かれました

 キュアエール(野乃はな)のおばあちゃんが登場した第29話「ここで決めるよ!おばあちゃんの気合のレシピ!」では高齢化問題が、はなが過去と向き合う第31話「時よ、すすめ!メモリアルキュアクロック誕生!」ではいじめ問題が、第32話「これって魔法?ほまれは人魚のプリンセス!」ではキュアエトワール(輝木ほまれ)の恋愛事情が描かれ、それはもう、子育ての枠を超えて幅広く展開しています。


第31話では、はなが過去と対峙(たいじ)しました

第32話、ほまれとハリーの恋愛はどうなる?

 そして2018年9月23日放送の第33話「要注意!クライアス社の採用活動!?」では、ジェンダーレス男子(性自認は男性)の若宮アンリ君を中心にジェンダー要素をたっぷり詰め込んだお話が展開されました。

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第33話、若宮アンリ君をスカウトするクライアス社

 さて、そんな「HUGっと!プリキュア」ですが、「直接的に、強い言葉で」社会問題を表現することに賛同する声が多く寄せられる一方、「プリキュアで、ジェンダーやイジメ問題などを扱う必要があるのか? プリキュアは子ども向けで明るく楽しい話にしてほしい」という意見もチラホラみられるようです(自分の観測範囲内ですが……)。

 プリキュアという女児向けアニメーションで、「直接的な」イジメやジェンダー観について踏み込む必要があるのか? そんなのは大人向けアニメーションでやれば良いのでは? と思う方もいるかもしれません。

 そんなことはありません。プリキュアだからこそ。子ども向けアニメーションだからこそ。これらの表現に踏み込むのが「今の時代のプリキュア」であると僕は思います。

 なぜ、僕がそう思うのか。2018年9月に放送された「HUGっと!プリキュア」のエピソードから見ていきたいと思います。

kasumi プロフィール

プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。

イジメとは向かい合わなくて良い、という考え方


前の学校のクラスメイト、エリちゃんと対峙するはなちゃん

 2018年9月9日放送の第31話「時よ、すすめ!メモリアルキュアクロック誕生!」は、キュアエール(野乃はな)の前の学校のクラスメイトで、チアリーディング部のエリちゃんとのお話でした。

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 かつて部活でいじめられていたエリちゃんを救ったのがはなちゃんでした。しかし、エリちゃんをかばったことにより今度ははなちゃんがイジメに遭い、転校を余儀なくされます。「余計なことをしちゃったかも」と悩んでるはなちゃん、自分を助けてくれたはなちゃんをかばうことができなかったエリちゃんもまた心に傷を負い、お互いに関係がぎくしゃくしていたようです。


孤立するはなちゃんと、かばうことができなかったエリちゃん

 今回のお話では、あくまで「野乃はな」と「エリちゃん」との関係性が描かれ、そこには「かつて2人をイジメていた人物たち」は一切の描写がされず、「イジメっ子との和解」といったお話にはなりませんでした。

 「かつてのイジメっ子が登場し、事件解決の後改心して、仲直りしてよかったね」というのが子ども向けアニメではありがちなストーリーかと思われますが、「HUGっと!プリキュア」では一切イジメっ子を描かない、という選択をとりました。

 これは「過去のイジメっ子などどうでもよく、今、自分がどうありたいのか?」に重点に置いているためだと思われます。イジメっ子が改心しようがしていまいが、そもそも「今、新しい場所で生きている野乃はな」の眼中にないし、「いじめっ子のことなど考える必要はない」というある意味残酷な物語でもあるのです。


エリちゃんを呼び止めるほまれ、さあや

 昭和40年代~50年代(1965年~1984年)、自分が子どものころには「イジメに向かいあう強い心を身に着けよう」といった考えが主流だったように思います(自分も学校で「いじめに負けない強いからだを作ろう」みたいなことを言われていました)。

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 しかし最近、主流になりつつある、「イジメを受けたら逃げ出しても良いし、自分が望む未来のために過去のイジメとは向き合わなくても良い」という考え方。子どもたちと一緒にプリキュアを見ることによって保護者の世代にも、これらの考えを知ることのきっかけになっているのではないでしょうか?


娘と向かい合い、共感する母、スミレさん

 プリキュアというコンテンツは「子どもと一緒に大人が見る可能性が高い」という性質上、そこで提示された思いは、大人の古い考えもアップデートする力がある、と僕は思うのです。

 だからこそ、子ども向けアニメーションできちんと「イジメ」に向かい合うことが必要なのじゃないかと僕は思います。古い知識のまま、子育てをすることは残酷な結果につながる可能性もあるのですから。

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