お金はゲームでいえばパラメータの1つでしかない──うめ小沢高広さんに聞く 「楽しく、遊んで稼ぐ」新しい時代の感覚(1/3 ページ)
「うめ」の小沢高広さんが今どきの漫画家の仕事について語るインタビュー。引き続き「おかね」について聞いてみました。
クリエーターとおかね 第1回後編
作家の井伏鱒二がお金に困っていた時代、その懐事情を察したあるファンが、ファンレターに同梱して、お金を送ってくれたそうです。
そのファンこそが、まだデビューする前の太宰治だったのですが(広く知られているように、この人の実家はお金持ち)、もし現代であればどうでしょうか。困っている作家は、クリエイター支援のプラットフォームを使ったり、もしかするとクラウドファンディングで小説を書いたりしていたかもしれません。
クリエイターとおかね。その実感を語っていただく企画。マンガ家ユニット「うめ」でシナリオ、演出を担当する小沢高広さんインタビューの後編です。
昔はお金が大きな顔しすぎだった
――小沢さんにとって、ずばり「お金」とは、どんな存在でしょうか?
小沢 実は、去年初めて中国でWeChatPayを使ったんですよ。朝の屋台でQRコードにスマホをかざして決済。すると名前は分からないけれど、肉団子とビーフンの入ったおいしい汁物をくれる。その瞬間、ちょっと脳がはじけたというか。お金って、コインや紙幣は仮の姿で、本来は持ってる信用だということをとても実感しました。
そこから今の日本でのなんちゃらペイの急速な普及。要するに今、お金って、どんどん電子化して、物体が消えていく。それとともに、うっすらと「みんなお金からだんだん自由になってきてるな」という気がします。実際の収入が変わったわけじゃないんですが、でも重さは変わった。
なんというか「お金は、パラメータの1つでしかない」という感じですね。ゲームだと、ヒットポイントとかマジックポイントとか、いろんなパラメータがあって、ルピーとかゴールドはその中の1つでしかないでしょう?
もちろんRPGをやるときにゴールドも重要なのですが、一番、大事なパラメータかというと、そうではない。もちろんお金がないと買えないアイテムもたくさんあるし、どこかで「やべえ、金稼ぎしないと」という瞬間はあります。だけどゲームの目的は、お金が中心じゃないですよね。
現実問題として、貧困とか、老後の2000万円の話とか、そういう問題はあるにせよ、実際の人生におけるお金の位置も、そんな感じになってきている気がするんです。改善すべき点はまだまだあるけれど、次第に「バランスが取れてきているな」と感じてます。
――確かに、実体があると「札束風呂に入りたい」といった形で、お金を集めること自体が自己目的化してしまいますね。しかしパラメータの1つと思うと、人生の目的はあくまで「魔王を倒すこと」であって、お金はその手段の1つでしかなくなる。
小沢 昔はもっと、お金が人生の中心だった。というか、大きな顔しすぎだった。
――しかしフリーランスのクリエイターとしては、お金を持っておかないと、不安なことはないでしょうか?
小沢 不安といえば不安ですけど、経団連のトップの人が「もう終身雇用はできない」という時代ですから、なにをやっても変わらないんだと思います。会社員ならば組織があるからといっても、そこから得られる安心感は、そんなに変わらないものだとは思うので。
もちろん体を壊したりして、いったんレールから外れる瞬間は来るかもしれない。しかし、そうした不安をあまり大きく見積もり過ぎていてもしようがなくて。
うちの場合、子どもが2人いるので、子どもたちが大きくなるまではなんとかしたい。想定している未来は、それくらいですね。倒れるようなことがあっても、とりあえず3年は子どもを学校へ行かせながら、生活できるようには想定して、ストックしておきたい。
ただ、仕事だけしてお金を使わないでいると、正直、たまってしまう瞬間があるんですよ。だからたまに、意識的に使うようにしているところもあります。ゲームの話じゃないですけど、いいじゃないですか。時には一番、高い武器を買ってみたって。
不安を大きく見積もり過ぎるよりも、お金を使って得るメリットをちゃんと意識しておきたいです。ただ、たまに「今年、稼いだお金は今年、使うんだ」みたいな江戸っ子みたいな人もいますけど、僕、そこまでの勇気はないですよ、まだ子どもも小さいし。
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