もし“壁ドン”恋愛映画の撮影現場で脚本に悪霊が宿ったら―― 映画「ゴーストマスター」が良い意味で悪趣味な大怪作だった(2/2 ページ)
公開中の「ゴーストマスター」が「全ての映画ファン必見じゃないか!?」と思うほどの映画愛に溢れ、かつ“良い意味で悪趣味かつ誠実”な、年末にふさわしい(?)大怪作だった。その魅力をネタバレのない範囲で解説する。
キャスティングは良い意味での意外性を狙いつつ、企画を面白がってくれそうな役者にオファーしたとのことなのだが、プロデューサーが柔道家の篠原信一を提案した時にはさすがのヤング・ポール監督も「狂ってる」と思ったとか。
そんな篠原信一も撮影現場では自分からいろいろと提案する“人間力”を見せており、“ちょっと浮いている”感じがむしろ良い効果を生んだと、監督は感嘆したのだそうだ。浮いているといえば、ベテラン俳優役の麿赤兒も良い意味で浮きすぎて空中浮遊している勢いだが、それもまた“味”になっているのが面白い。
この他、映画オタク役な三浦貴大も、クールな性格でスピーディーなアクションも繰り出す成海璃子も、それ以外の映画スタッフ役の俳優たちも生き生きと輝いていた。劇中での壁ドン映画の撮影現場はブラックそのものだが、実際の撮影現場は俳優たちがノリノリで役に挑んでいた結果というのも、この「ゴーストマスター」という作品の愛すべきポイントだ。
まとめ
「ゴーストマスター」はもともとTSUTAYAクリエイターズプログラム(TCP)という、映像作家が応募する発掘プログラムで2016年の準グランプリに選ばれた企画だ。当初は何百と送られる企画の中で目立つように、分かりやすさを重視した「低予算ホラー映画の撮影現場で超常現象が起きる」というアイデアだった。この時点で、ヤング・ポール監督が実際に経験したブラックな撮影現場の様子も反映されていたらしい。
その後、自身も大の映画ファンである脚本家・楠野一郎の提案により、“壁ドン映画”の要素も加わることとなった。こうして出来上がったのが、少し前であれば「桐島、部活やめるってよ」、今年(2019年)でいえば「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に通ずる、映画愛がダイレクトに伝わる大怪作だ。
人によっては、終盤に提示されるある言説を「めちゃくちゃな内容を言い訳しているだけじゃないか」と不誠実に感じるかもしれない。しかし、筆者としては、脚本の整合性よりも娯楽性重視なB級映画や、そもそもが“ツギハギ(編集)”により作られる映画の素晴らしさを、「ゴーストマスター」という映画そのもので肯定してみせた、これ以上ない愛の回答だと思うのだ。
重ねて言うが、同作は作り手の映画愛を浴びる絶好の機会だ。(グロは平気だという)映画ファンはぜひ見てほしい。とある“奇跡”が起こるクライマックス、そして驚天動地と呼ぶにふさわしいラストシーンには、思いがけない感動もあることだろう。
最後に余談だが、筆者は前々から壁ドンについて、「普通に怖くないか…?」と疑問に思っていた。その壁ドンによるドキドキは恋愛感情とは違う、恐怖によるドキドキじゃないのかと。好きな人には申し訳ないが、やられたら本気でイヤかもしれないぞ、と。この「ゴーストマスター」は、そんな壁ドンについて予想の斜め上の、しかし真理といえる回答をしている……かもしれない。壁ドン映画に懐疑的な感情を持つ人にも(もちろん好きな人にも)見てほしい。
(ヒナタカ)
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