手塚治虫AIついに筆を執る 2030年の東京が舞台の新作『ぱいどん』が講談社『モーニング』に掲載決定(2/2 ページ)
どんな話になるのでしょうか。
手塚眞さん(手塚プロダクション取締役)
「TEZUKA2020」は、「アトム ザ・ビギニング」(2015年)の際にAI技術の先生方とご一緒したことがきっかけで、昨年、キオクシア社と出会い、スタートしました。AI技術とクリエイティブという全く異分野のコラボレーションで新しいことにチャレンジすることは、「大変」の一言に尽きます。ただし、これはどんな分野においても同様で、「初めての取組み」をステップに、技術が確立されていくのだと思います。今回のプロジェクトでもいくつもの困難な局面を乗り越えた結果、手塚治虫作品を学習したAI技術が生成したプロット構成要素や、キャラクター画像には「手塚治虫らしさ」が確かに存在していました。さらなる研究と検証が必要にはなりますが、AI技術は私たちクリエイターにとって心強いパートナーになり得るのではないかと期待を寄せています。こうしたテクノロジーは人間の使い方ひとつによって、結果が大きく変わります。結局はテクノロジーの面においても、クリエイティブの面においても、もっともっと努力し、創造の可能性を広げ、正しい使い方を探求していくことが人間に求められているのではないでしょうか。
私は、多くの人に「未来に夢を持って欲しい」と思っています。私たちは手塚治虫作品からその点を学んできたはずで、「ぱいどん」からもこうした想いが伝わることを願っています。
栗原聡さん(慶應義塾大学理工学部教授)
AI技術は日々進化していますが、多くの人がイメージする“人工知能”の万能ロボットの域にはまだ到達していません。漫画(白黒の線画)の顔を、「顔」として認識しないAIにとって、手塚治虫作品は非常にハードルが高く、とても苦心しました。だからこそ、今回のAI技術と人間によるコラボレーションは、今後のAI技術と人間がどう向かい合い、付き合っていくかを模索する、非常に価値ある取組みとなりました。AI研究者の立場からすると、「ぱいどん」はAIから最も遠いところにある“哲学”がテーマというのも非常に面白いところです。現代を予言していた手塚治虫先生に感服するとともに、AI技術による生成データを読み取り、作品として仕上げていくクリエイター陣の熱意や発想力に、人間の魅力、可能性の大きさを改めて感じています。
三浦敏宏さん(『モーニング』編集長)
「AI手塚治虫」。とても夢のある企画です。それでも、現状ではまだまだAIが描く漫画と呼べるものではないでしょう。ですがプロジェクトメンバーである栗原教授の、AIによる創作を研究する程にヒトが如何に高遠なのかをむしろ思い知る、というお話に心が動きました。なぜならそれは、アトムを作った時の天馬博士と同じ苦悩なのです。手塚先生なら、きっとこの企画を面白がったのではないか、その時そう思えました。何年後かはわかりませんが、将来本当に「AI作家」が出現する時代への、壮大な「予告編」として今回モーニング編集部は協力させていただくことにします。
長崎尚志さん(作家)
AI で手塚治虫作品を創造する……かつて手塚先生の担当だったわたしは、話を聞いただけでわくわくした。でも、それは実現可能なのか?あの複雑な伏線、独特のヒューマニズム、苦さの残るハッピーエンド……そして独創的な画とキャラクター、世界一うまいコマ割り……それらを機械が理解し、表現できるのだろうか?正直、ちょっと懐疑的な思いもある。確かアトムの電子頭脳は、事実を正確に理解し語れたが、ウソをつけないだけに、物語を創作するのは苦手だったはず。はたして AIは、アトムを超えられるのか?やっぱり前向きに期待しよう。甦った手塚氏の新作を、一日も早く読んでみたいものだ。
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