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ノベルゲーム×カートゥーンという新境地 オタクが驚がくした「マルコと銀河竜」は「ソーシャルゲームへの対抗心」から生まれたゲームだった

発売元であるTOKYOTOONの木村裕之社長と、企画・脚本を務めた“はと”氏に取材しました。

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 TOKYOTOONから2月28日に発売される、PC用美少女アドベンチャーゲームマルコと銀河竜。アニメ化もされた「ノラと皇女と野良猫ハート」のスタッフが送る最新作ですが、2019年10月にタイトルが正式発表されると、そのオフィシャルサイトのクオリティーに、筆者である僕を含めたオタクたちは驚がく。

 特に「マルコと銀河竜」が、これまでのノベルゲームファンを驚かせたのは、なんとPVやキャラクターデザインにカートゥーンアニメが使われていること。こんな変化球を全力投球してくるとは。

 海外アニメの新作かと見紛うほどに豪華なカートゥーンアニメのPVは、またたく間に海外で注目を集め、体験版のダウンロードが始まった際には、あまりのテンポの良さやカートゥーンアニメーションの新鮮さに、SNSでも人気が爆発。

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 これは絶対にノベルゲーム史に名を残す作品になると直感した僕は、体験版を終えた瞬間に、TOKYOTOON代表取締役・木村裕之氏と企画・脚本を務める「はと」氏へインタビューのお願いを連絡。実は両氏へのインタビューは「ノラと皇女と野良猫ハート」のときに続いて2度目ですが、この2年でさらに進化した、木村氏とはと氏のノベルゲームへの拘りと情熱を感じてください。

「マルコと銀河竜」ストーリー

記憶喪失の孤児・マルコと
銀河を統べるドラゴン・アルコが
宇宙で宝探し!?
旅の途中、マルコは自身の
母親の手がかりを得る。
向かう先は、生まれ故郷の地球だった!

(取材・文 にゃるら

モチベーションは「ソーシャルゲームへの対抗心」

にゃるら:「マルコと銀河竜」体験版、遊ばせていただきました。まず体験版の時点でものすごいボリュームだなとびっくりしました(笑)。

木村:ありがとうございます! そうですね、本編は映画だと4.5本、アニメだと1.5クール分くらいはあります。

にゃるら:すごい……。遊んでいてビックリしたのがCGの多さです。ほとんど立ち絵を使っていなくて、常に画面が変化し続けていく。

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木村:「立ち絵を排そう」って考えて作ったんでしたっけ?

はと:いえ。そういうわけではなくて、「ノラとと」の時にナレーションを駆使してゲームのテンポを突き詰めていくということをしていたんですけど、次の段階で何をやろうか考えた結果が「絵で情報量を増やして文章を少なく伝える」に。

にゃるら:なるほど。面白さのテンポを重視した結果、自然とCGがたくさんになっていったんですね。

はと:もちろん、文章のテンポを凝縮して詰めて詰めて――ってやっていくと、止め絵なんですけど少しづつ映像に近づいていく。それを2年間引きこもってやっていた(笑)。

木村:前作「ノラと皇女と野良猫ハート2」を出してから2年間、ずっとさらに面白い物を作るにはどうしたらいいのかと山籠りして考えていった感じです。

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にゃるら:2017年に「ノラと皇女と野良猫ハート2」で恐らくPC用ノベルゲームの年間売上1位を取った後も、ひたすら「ノベルゲームの面白さや表現」を試行錯誤していったわけですね。

木村:そうですね。みんなソーシャルゲームの方に移っていったんで、逆にこちらは「ノベルゲームに全力を注いでやるぞ!」と。ノベルゲームって、まだまだ表現できる手法がたくさんあると思っていて、自分たちはそれに挑戦し続けていくぞと。「われわれはノベルゲーム業界のバーサーカーだ!」と思いながら(笑)。

全員:(笑)。

にゃるら:ソーシャルゲームへの対抗心が根底にあったんですね。

木村:ソシャゲがウケた理由として「5秒で面白い」といわれるようになって、そういう部分でノベルゲームが負けているんじゃないかといわれていたんですけど、じゃあノベルゲームも「5秒で面白い」と思わせるような作品を作ってやる! って気持ちが昔からあって。

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はと:それで今作は、今までのノベルゲーム以上に文章のテンポを早められたかなって感じています。

にゃるら:自分も遊んでいて、そのように感じました。細かい部分はCGや動きで伝えて、会話の面白さに全力を注いでいるなと。途中でカートゥーンアニメも入りますし。

とにかく最速のテンポと面白さを追求したらこうなった

にゃるら:カートゥーンアニメ部分はどういった過程で生まれたのでしょうか?

はと:もともとすごくカートゥーンアニメが好きで、前からカートゥーンやりたいなと考えていたんですけど、そこから日本でカートゥーン的なアニメを作ってくださるアニメ会社さんを探したら意外となくて。そこで探しているうちに、製作集団としてカートゥーンアニメを作っている人たちがいたので、ちょうど作りたいものがマッチングして、そちらにお願いしました。

にゃるら:ちなみに、はとさんたちが特に好きなカートゥーンアニメって、どの作品でしょう?

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はと:一番好きなのは、シンプソンズです。

木村:自分もそうですね。ただ、「マルコと銀河竜」では意識していないですけど。

にゃるら:なるほど。

木村:「アドベンチャー・タイム」とか、ディズニーのカートゥーン作品とかが、日本の深夜アニメのテイストを取り入れるようになって、そういうのを逆にこちらが取り入れていこうと参考にしましたね。

にゃるら:PVも、ちゃんと海外のカートゥーン好きにウケていましたね。まずノベルゲーム的な美少女とカートゥーンを融合させる発想にビックリしました。

はと:これだけエンタメがあふれている国で、美少女調とカートゥーン調のタッチの差で「同じキャラと認識してもらえない」ということはないと思っていまして、導線さえ引いてあげれば、そこは大丈夫かなと思いました。

木村:実際、海外では美少女系の絵とカートゥーンの絵が並んでいることは違和感がないらしくて。海外の反応も、カートゥーンのクオリティーが高いこともあってニュースサイトからは「新しいシリーズが始まるのか?」と書かれたり、他にも「こんな表現はやはり日本からしか出ないのか!」という書き込みもありました。

にゃるら:確かに違和感は自分も感じませんでしたね。カートゥーンアニメだと「おかしなガムボール」などで、日本の美少女アニメパロなどもありましたし、これだけ表現が豊かになったのですから、すんなり受け入れられている。

木村:世界レベルで面白いと言ってもらえるものを作るぞ! という気合は海外のファンにも伝わっていると手応えを感じていますね。

にゃるら:本編内でカートゥーンアニメを挿入しているシーンの狙いはなんでしょうか?

はと:「説明が必要だけど面白くない部分」「止め絵で表現できない部分」などを、優先的にカートゥーンにして楽しく伝えたいと考えていました。

木村:他にも急にカートゥーンにすることで、リアリティーレベルを意図して変えるというのは狙っていましたね。そういうリアリティーレベルの差が許されるのってノベルゲームだからだと思っていまして。例えば、気合の入ったゲームタイトルだとものすごい3DCGで表現するところを、ガコガコっとしたリアリティーレベルの低い表現ってできないし。だけどノベルゲームでクリックしながら進めると許される。

にゃるら:ノベルゲームの自由性が発揮されている。

はと:そう、自由なんです。

にゃるら:リアリティーレベルを下げて絵で表現することで、ギャグのテンポを上げられるのも利点ですよね。

はと:そうですね。ボケてツッコんでというやりとりを、絵でドンと出すことでさらに短縮したテンポにできるんです。

にゃるら:カートゥーンアニメを取り入れたこともそうですが、ノベルゲームで恋愛要素を排して女主人公にしたことも、かなり冒険したなとうれしくなりました。

はと:確かにそうですよね(笑)。ノベルゲームって、まだまだやれることが山ほどあると思っているので、それを追っているうちにいつの間にか恋愛要素も消えてしまって。

主人公のマルコ
カートゥーン調だとこんな感じに

木村:今回はルートもなければエロもなくて、自分たちにとっての最速のテンポを追求していったら自然にこうなってしまったんです。これはもろ刃の剣だとは分かっているんですけど、ノベルゲーム業界のバーサーカーとして、一番強い攻撃力を出すにはコレしかないと。

にゃるら:すごい。とにかく最速のテンポと面白さを追求していったら、自然と既存のノベルゲームの常識が消えていったんですね。バーサーカーだ(笑)。

全員:(笑)。

お前がジョブズになるんだよ!

にゃるら:カートゥーンアニメ要素もすごいですが、今作は冒頭で話したように、そもそもCGの枚数が半端ないですよね。

木村:「マルコと銀河竜」ではCG1000枚超えてます。音楽も70曲くらい。

にゃるら:1000!?

木村:さらにアニメも入っているので、「予算的に大丈夫か?」とよく言われます。でも、海外から先にカートゥーンアニメを使ったノベルゲームとか出されたら悔しいじゃないですか。

にゃるら:もし海外から先に出れば、すぐ「日本ではもうこういうのは作れないんだ」と言う人が出るのは想像がつきますね。

木村:よく「日本にはジョブズがなぜ生まれないのか」と言う人がいるけど、お前がジョブズになるんだよ! という気持ちです。全く新しい体験を作って、それを一番に楽しんでもらいたい。

はと:CGが多ければ良いというわけではなくて、「ノラとと2」でも製品版ではかなり削っていったし、今回も適切に削った上で1000枚超えました。表記も「1000枚級」から「1000枚超え」に変えました。

尋常でない枚数のCGが並ぶ、公式サイトのギャラリーコーナー

にゃるら:恐ろしいほどのこだわりを感じる……。BGM数も相当ですよね。

はと:テンポを詰めていった上での自分の中の発見なんですけど、めちゃくちゃ音が大事なことに気付いて。速さ優先にすると「ここ音がないと伝わらないな」と。恐らく映像に近づいていくからそうなるんでしょうね。だからBGMやSEはかなり気合い入れて。

にゃるら:YouTuberの動画みたいですね。

全員:確かに(笑)。

木村:地の文やセリフを入れなくても、音の力で「ここはこういうシーンだ」と伝えられるのは強いですね。そういう上で、枚数も曲数も必然的に「要るな」と判断しました。

にゃるら:なるほど。

「ノベルゲームをやらなくなった言い訳」全部つぶす

木村:にゃるらさんは、今でもノベルゲームを遊んでいると思いますが、ノベルゲームだからこその良さってどこに感じていますか?

にゃるら:小説やアニメと違って、絵と音とテキスト全てを使った唯一の感動ができる媒体だと感じています。だから、ノベルゲームでの感動って、ノベルゲームでしか味わえないと。

はと:あぁ~、なるほど! その3つが必ずセットとなると、どの媒体でもありそうでないですよね。テキストがしっかり画面に表示されているのって、他にはあまりない。

にゃるら:あとは、自分のクリックによって、自分が進めている感も独特だなと。

はと:そうですね。「食べさせられている」より「食べている」感が強いかなと。要するにクリックで能動的に進めるからこそ、他のメディアに負けない没入感がある。

木村:「ゲーム性(ゲームのメカニクス)」の部分ではない、ノベルゲームならではの強みですよね。

はと:ただ「ノベルゲームの型」みたいなものは出尽くしたのかなと、ノラとと2を作った時から思っていて、恐らくユーザーも少し触ったら「この型か」というのが分かる状態だなと。だったら、山籠りなりバーサーカーになるなりで、新しいジャンルを作っていかないと、と。

木村:そう!

はと:ノベルゲーム業界に「アニメやラノベがうらやましい」っていうコンプレックスがあると思うんですけど、そうでなくて他のメディアにはない魅力があるステキで素晴らしいメディアだよっていうのを、コンプレックスでないところで、語れたりとか作れたりとかする土壌があればなっと思って作りました。

にゃるら:コンプレックス……確かに。

はと:2年前から、ノベルゲームというジャンルで海外が表現豊かになっていて、日本国内でのネタ切れの可能性って全然あるぞって思ったんです。例えばDreamDaddyというゲームがあって。

Dream Daddy: A Dad Dating Simulator(Steam

木村:これは、バツイチで娘を持っているダディが主人公なんですよ。それで、他の街のダディと恋愛をするんです。これが、めちゃくちゃ売れていて。

はと:そういう面白くて新しいモノが出てきたときに、こちらもルールを破ったモノを作らねばなるまいと。

にゃるら:そういった意味では大成功ですよね。カートゥーンアニメと美少女の融合や、女性主人公で恋愛要素を排した意欲作ですし。海外ではDoki Doki Literature Club!なども大ヒットですね。

木村:なんだかんだ世界中のオタクが「ノベルゲーム」というジャンルやシステムは知っているわけですよね。それで「Doki Doki Literature Club!」が超バズったわけです。海外のYouTuberが紹介すると日本と桁が違うんですよ。

にゃるら:海外のインフルエンサーは、日本の比じゃないんですね。

木村:そうですね。ノベルゲームをさらに広げるためには、その力を借りるしかない。日本のオタクもソシャゲやラノベで、ノベルゲームの概念は知っているんですよ。でも、みんなやっていない(笑)。

はと:それは「怠いから」とか「スマホじゃない」からとかです。

木村:じゃあ、分かったよ! と。ならわれわれバーサーカーとしては、怠いと思わせないほどテンポを上げるし、スマホ版も出してやる! と。ちゃんと、すぐ面白いと思わせるゲームを作ってやるぞと。

はと:そういう気持ちで2年間修行していましたね。

にゃるら:ノベルゲームをやらなくなった言い訳を全てつぶしていくわけですね。

木村:そうです(笑)。

にゃるら:そこでさらに認知を広げるために、海外進出もしていく……。

はと:日本でも海外でも「ノベルゲームは知っているがプレイしていない」人に、カートゥーンアニメも入っている「マルコと銀河竜」をプレイしてもらえて、新しいユーザーが増えたらとてもうれしいですね。

木村:海外進出にあたって、海外出身でノベルゲームをやったことない人に何度もテストプレイしてもらって意見を聞いたりしました。

にゃるら:そろそろお時間ですね、最後に伝えたいことをお願いします。

はと:まとめると、僕らが新しい表現を追求し続けてたどり着いた「マルコと銀河竜」という生き物を、国内外含めて多くの人に見ていただけることが自分としては一番の望みです。そこで、その人たちが新しい生き物に対して感じたことが、自分たちが知りたいことです。

木村:自分たちが「これが気持ち良いはずだ」と考えてきたことを、ユーザーも「気持ち良いな」と感じてもらえたらうれしいです。

はと:このテンポと音楽と絵なら、みんな想像力が補われて付いていけると思いますし、さらにユーザーの想像力を豊かにできていけたらなと思っています。

にゃるら:すばらしい考えだと思います。僕も「マルコと銀河竜」製品版の発売を心から楽しみにしています! 海外での反応も楽しみですね。それでは、お二人ともありがとうございました。

はと木村:ありがとうございました。

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