祝就航! “新”さるびあ丸の「私、見えないところがマジすごいんです」(1/4 ページ)
伊豆諸島へ向かう新造船「(三代目)さるびあ丸」が就航! 船乗りライターが気になる内部や設備を写真たっぷりでチェックします。ユルーい船旅も楽しそうですよ~【写真92枚】
伊豆諸島へ遊びに行こう! と思ったときに利用するのが東海汽船です。高速ジェット船でズバーンと相模湾を一気に駆け抜けるのも爽快ですが、伊豆大島に利島、新島、式根島、そして神津島なら「さるびあ丸」、三宅島に御蔵島、そして八丈島なら「橘丸」といった大型貨客船でユルユルと船旅を楽しむのも一興です。
その「さるびあ丸」に2020年6月25日、新造船が就航します。“三代目”「さるびあ丸」(以下、新さるびあ丸)です。
先代さるびあ丸は1992年デビューで、あれからもう28年。さぞかし変わっただろうな!
……ん?
先代と比べるとカラーリングはだいぶ違いますが、船の大きさや船首の形、前甲板にある門のようなデリックポスト、ブリッジの上にあるメインマスト、船の幅いっぱいにとった上部構造物、一本煙突などなど……。
「えー、あまり変わった感じがしないんですけど」
……と思ってしまいませんでしたか? ちがーう!
それはまあ確かに、斜め前から見たら似ています! でもよくよく見ると、けっこう違うのよ。
そして! 28年間の変化は「外から見えないところ」に詰まっているのです。
というわけで今回は、就航直前できたてホヤホヤの新さるびあ丸に潜入。読後に「あれ、乗ってみたくなったぞ」と思える、「分かりにくいけれどナニコレすごい」ところを紹介しましょう。
すごいところは「水の中」 新さるびあ丸、何が変わった?
「見てすぐ分かる」新さるびあ丸の特徴は、船体に施したカラーリングです。
美術家の野老朝雄氏がデザインしたもので、波のようなラインの下側を藍色(東海汽船は「TOKYOアイランドブルー」と呼んでいる)で染め、さらに船体中央から船尾にかけて四角いパターンをぐるりと配しました。なお、先代さるびあ丸には船首に東海汽船の旗デザインを模したマークを描いていましたが、TOKYOアイランドブルーで統一するというデザイナーの意思を尊重して廃止しています。
細かいところでは、船首にある船名も先代の赤から藍色にそろえました。曲線に見える波のラインも、実は直線をつなぎ合わせて構成しているのです。これは整備の手間を考慮したため。波の形状も船に特有の「錆」が目立たないように、アンカーホール(錨のある部分)などの錆が出やすいところを藍色でカバーするなど、何気に工夫が施されています。
実をいうと、新さるびあ丸の“すごいところ”は「水の中」に隠れているのです。
先代は左右2本のシャフトで2つのスクリューを回していました。2軸推進方式といいます。一方、新しいさるびあ丸では、船尾中央にある1本のシャフトでスクリューを回す(1軸推進方式)他に、さらのその後ろに回転ボット方式縦軸推進器(アジマス推進器)を設置してスクリューを回す「タンデムハイブリッド方式推進システム」を導入しました。
1軸推進方式によってディーゼル機関の数が先代の2基から1基へと減ったことと、効率よく推進力を発揮できるタンデムハイブリッド方式推進システムの導入によって、新さるびあ丸は燃料消費の低減(10~15%)と低騒音低振動が実現(機関室に近い船室内で5~10デシベルの減少)したのです。他にも二酸化炭素や窒素酸化物、硫化化合物の排出量も大きく削減(10~40%)して環境負荷を低減しています。
「水の中」は模型で確認。右(船首側)にあるのがディーゼルエンジンで回すスクリューで、左(船尾側)にあるのがモーターで回すスクリュー。大型船舶も、近年のエコカーと同様にエンジンとモーター、2つの動力によるハイブリッドシステムを備えて効率化している
船体から延びるシャフトで回るスクリューは、羽のピッチ角が変更できる「可変ピッチ翼」を採用しています。
通常、船はエンジンの回転数を変えて推進力を制御するのですが、細かい変更が難しいのです。一方で、スクリューの羽の角度を変えると回転数を変えなくても推進力を細かく変更できます。加えて、アジマス推進器は360度回転できるので、離岸や着岸の操船ではそれを真横に向けることで船を横に進めることが可能です。
可変ピッチ翼のスクリューと360度向きを変えることができるアジマス推進器の搭載で、細かい操船が可能となり、離岸と接岸が難しい伊豆諸島の港でも就航率を向上できることが期待されています。実際、同じ方式を採用した橘丸は離着岸が難しい御蔵島港で就航率が5~10%向上しています。
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