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「本当は孤独ってめちゃくちゃ楽しい」 『ハヤテ』『神のみ』作者がそれでも「結婚漫画」を描く理由(後編)畑健二郎×若木民喜(2/3 ページ)

畑健二郎×若木民喜のスペシャル対談、後編です。

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「当初やりたかったことをあっさり捨てた」プロデューサー気質な仕事術

畑: 『結婚するって』は青年誌になって絵柄もだいぶ変わってません?

若木: サンデーのころに比べると等身が大きくなりましたね。少年誌なら女の子の首をこんなに太くは描かないです。舞台が学校じゃなくて会社だから、子どもみたいに背が低い人も出せないし。全体のバランスの中でリアル等身に近くなりました。

婚約発表でわざつく社内。同僚たちの質問攻めが過ぎ去ったと思いきや、2人には慣れないサプライズが待ち受けていた

畑: 普通はそんな器用に描き分けられませんって。

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若木: 絵的には楽しい事ばかりですよ。ずっとやりたかったロングの構図とか、少年誌では違和感が出ちゃうんですけど、青年誌だからいっぱい描けて気持ちいいです。

畑: そう、人物じゃなくて画面全体でドラマを作ってますよね。「毎週こんなに背景描いてるの!? マジで!? しんどくない?」って思いながら読んでます(笑)。

若木: でも本当に器用なのは畑先生だと思うんですよ。『トニカクカワイイ』は1巻と2巻以降でだいぶ路線が変わってるよね?

畑: そうそう。本当は違うことをやろうとしてたんだけど、いまいちうまくいかなさそうな臭いがしたんで、ばっさり方向性を変えました(笑)。

若木: やっぱりそうなんだ。

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畑: 1巻部分は、司の心理描写が描かれていないんです。要するに「女の子をミステリアスに描こう」ってテーマがあった。でも、それだと読み手に全然伝わらなくて。だから2巻から急に、司の心の声が聞こえるようになってきたんですね。

若木: ナサもね、畑先生ならではのキャラだと思います。だって、女の子に奉仕する主人公って意味で、ハヤテと根っこは同じじゃないですか。漫画家って、長く同じ作品を手掛けていると違うことをやりたくなるんですよ。特にヒットした後って全能感が高まってるから、「俺、もしかしてなんでもできんじゃね?」とか調子にのっちゃう。

 ナサは、前作でヒットしたハヤテのコアを継承しつつ、だけどちゃんと別のキャラになってるんですよね。新鮮なのに安心して読めるという、読者のニーズをちゃんと分かってる。やっぱり畑先生はバランス感覚があるなって感心しています。変えるべき所、変えない方がいい所を判断する、クールな編集者目線を持っている。

畑: 僕、あまり「違うもの描きたい」って思わないかも。「今、自分が何を描きたいか」を自分に問うて、素直に描きたいものを描いているだけなんですよね。

若木: ええ、そうなの? 僕はもうアニメ化なんかした日には手塚治虫気取りですよ。「俺、今なら『火の鳥』描けんじゃね?」って新しいテーマに手を出して「ああ……」ってなっちゃうみたいな。

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畑: そんなんなる?(笑)

若木: 漫画家ってみんなそうだと思ってた(笑)

――畑先生はプロデューサー気質なのかもしれませんね。

若木: 畑先生に最初に出会った頃、「『ハヤテ』ってどういう風に描いたの?」って聞いたんですよ。そしたら「コミケは何十万人って参加者がいるでしょ。あの人たち全員が本を買ってくれたら勝てる。その方法が見えたから描いた」って。そんなん僕も見えるようになりたい。

畑: あの時は見えたけど、今はもう……(笑)

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漫画を描くことで「結婚してよかったな」って自分の中で腹落ちさせたい

──TVアニメ『トニカクカワイイ』、秋からスタートですね。

畑: はい。監督の博史池畠さん、シリーズ構成の兵頭一歩さんは、僕が「この人たち以外に任せられる人はいない」って信頼している人たちです。アニメ化に伴って、原作も大きく話が動き始める……予定です(笑)

(C)畑健二郎・小学館/トニカクカワイイ製作委員会

──『結婚するって、本当ですか』もいよいよ1巻が刊行されますが、意気込みはいかがですか?

若木: この歳になってイチから作品を立ち上げるのは大変でしたけど、その分面白いマンガに仕上がっています。リカもタクヤも自分の分身みたいなものだから、幸せになるところを皆さんに見届けてほしいですね。

畑: 読者にここを見てほしいってところは?

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若木: えーと、「かま」かな。

畑: 猫じゃん! そういや猫の描写うまいなーって感心してるんですけど、猫、飼い始めました?

若木: それが飼ってないんですよ。周りに猫を飼っている友達が多くて、散々聞かされたエピソードが今生きてますね。猫をちょっとでもファンタジーに描くと、猫好きの人にすごいダメ出し食らうんですよ。「猫の手はこんなに大きくないから!」って。

──『トニカクカワイイ』でも飼い猫メインの回がありましたね。

畑: 僕は猫飼ってるので実話がベースです。

若木: 畑先生、猫好きの割にはまぁまぁ空気ですよね、あの子。

畑: 逆に難しいんですって。好きすぎるあまり、気を抜くと話全体が猫に持ってかれちゃって。だから若木先生は上手に猫を漫画に入れるなぁと。

若木: 漫画に描いているうちに、本当に飼おうかなって気持ちになってきましたね。資料でキャリーだけ家にあるんですよ。なんか悲しくないですか?

畑: あはは。

若木: ちょっと真面目な話をするなら、リカとタクヤは自分の分身みたいなものだから、幸せになるのを皆さんに見届けてほしいですね。僕はこのマンガを通して、「結婚してよかったな」って自分の中で腹落ちしたい。僕自身が結婚に消極的な人間だったけど、実際は悪いもんじゃなかったぞと、そんな気持ちがタクヤとリカの二人に投影されているんです。

――ご自身のブログでもおっしゃっていましたね。

若木: 僕がマンガでずっと描いてきた、自分にいまいち自信が持てない人たち。陽キャでも陰キャでもない「曇キャ」(どんきゃ)って新語を勝手に作っているんですけど。今の時代、自己評価が不当に低い人たちがいるじゃないですか。歳を重ねるにつれて、自分の限界も見えてきて、比較したりされたり、どんどん結婚が難しくなる。だけど子どものころって、純粋な気持ちで「結婚したいなー」「結婚するんだろうなー」って考えていた人は多いと思うから。もうちょっと気楽に考えてみてもいいんじゃない? と。

畑: 僕は最初の結婚が26歳なんで、まあ早い方ですかね。

若木: 僕はもう、歳とるにつれて、自分からハードルをすっごく上げちゃってたから。実際はそんなに大層なもんじゃないんですよね。まあ離婚するってなったらまたハードルが高くなるんだろうなあ。

畑: それはハードルとかってレベルじゃないよ!(笑)

若木: 今度は「100日で離婚するカップル」って漫画がいいと思います(笑)

畑: いやいや、100日じゃ無理だから! 結婚よりも離婚の方が、はるかにエネルギー使うんですよ。結婚生活の良い面と悪い面。両方見てきた中で、『トニカクカワイイ』では良い面だけを抽出して、結婚する意義、意味、理由、その全てを理想の形で描いてます。

若木: 『トニカクカワイイ』はそこんとこ明確に提示してるよね。ナサも司も超ハイスペックで。

――ある種ファンタジーというか。

畑: そうとも言い切れなくて、実はナサには現実のモデルがいるんです。日本のとある天才プログラマーなんですけど、若干14歳にしてめちゃくちゃな大金を稼いでる凄腕で、今も某有名企業のアプリを開発してます。「こんな高校生が本当にいるんだ!」と。その人の影響でナサくんのスペックが3倍くらいになりました(笑)。

「星空」と書いて「ナサ(NASA)」と読む名前にコンプレックスを抱き、必死で自分を磨いた超ハイスペック高校生

若木: 『トニカクカワイイ』も『結婚するって、本当ですか』も、メッセージは一緒じゃないですか? 「結婚っていいよね、結婚しようぜ」だと思うんですけど、どうです?

畑: ん~、「人生の選択肢として、結婚というのも悪くないですよ」くらいの温度かな。僕は、一人で生きる幸せもあると思うんですよ。だって「孤独」ってめちゃくちゃ楽しいじゃないですか。

若木: うん。楽しい。時間も空間も、全部が自分のものだから。

畑: そうそう。時間と空間が全部自分のものって幸せと、誰かと共有する幸せ。それぞれに違った幸せのカタチがあるだけだと思います。一人で生きる幸せと、結婚して得られる幸せ。その2つを比較しても、身長と体重を比べるようなもので意味がない。だから『トニカクカワイイ』では「こういう種類の幸せもありますよ」って気持ちで描いています。

若木: どっちを選ぶかって事だよね。

畑: 離婚した時は、もう一生、一人でいいって思いました。でも再婚したってことは、自分にとって二人だからこそ得られる大事なことがあったんじゃないかなーと。『結婚するって』は先の展開まで決まってるんですか?

若木: いや、まだどうなるか分からないです。もう「結婚が当たり前」なんて時代じゃないし、未婚者も既婚者も「結婚ってなんだろう」「結婚はしないといけないのか」って自問しながら、それぞれの理由で人生を選んでいるわけで。そんな時代にタクヤとリカがどんな道を選択するのか、これから描いていきたいですね。

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