レビュー

4センチに込められた美と熱意 同人誌『ミニチュアトウシューズのつくり方』が伝える“好きを形にする楽しさ”司書みさきの同人誌レビューノート

継続は力なり。

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 暖かくなったと思っていたら、あっという間に花開いて、桜が舞う頃になりました。今回の同人誌は、ちょうど花びらのひとひらのような、可憐(かれん)な作品について手ほどきするご本です。

今回紹介する同人誌

『ミニチュアトウシューズのつくり方 4cm編』B5 52P 表紙・本文カラー

著者:鑓田友子


靴1つでロマンを感じる姿です

小さな世界、4センチに美を詰め込んで

 細身でやわらかそうで、それでいて特徴的な“つま先で立つ”様子が再現された表紙の写真は、バレエを踊る人が履くトウシューズそのままです。しかしその大きさはなんと4センチ。手のひらどころか指にも乗りそうなサイズだというのですから驚きです。

 こちらのご本では、靴底もリボンもついた精巧なミニチュアのトウシューズの作り方が説明されています。型紙、材料といった情報とともに、うれしいのが制作過程の詳細さです。基本のシューズ部分の工程はなんと77工程に分けられていて、その作業を写真つきでとても丁寧に解説されているのが心強いです。

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トウシューズだけで自立も。木型から作る奮闘の日々

 しかし、冒頭の作業はまず「木型を作る」ことからスタートします。きっと布で作るから準備するのは針と糸と……と想像していたのに、はるか先からの開始でいきなり意表を突かれました。作者さんは削りやすいホオの木を使いますが「木型の耐久性としてはもっと堅い木の方が耐久性などの面で良いと思います」とアドバイスも。


まずは木型から作成開始です

 いよいよ布に型紙を写し、切って縫い合わせる作業に移ると、今度はやっぱりとにかく細かい! 布片を重ねながら縫い進める工程や「4mm幅のサテンリボンで履き口をかがります」などと、さらっと説明されていますが、4mmって50円玉の穴の大きさですよ。なんと繊細な手仕事でしょうか。

 それと同じくしてボンドで貼り付けるような工作的な作業も進められます。特に、つま先で立っているような姿で固定するために靴内にカップを作る作業は、木型をベースに型取りし、エポキシパテで原型を作り、そこから複製を作って本体に仕込む……いやはや美しさは決して短期決戦ではないと読むだけで体感できるほどの工程です。

 この丁寧さに加え、作者さんを悩ませたのはカップに最適な材料の廃盤でした。ベストだと思った材料はもう入手困難だけれど、工程を参考にしてほしい、と製品名や状況を含めて公開されています。

 そうして作られる、美しく小さなトウシューズ。その出来にも感嘆なのですが、この細かい作業をこなしながら一つ一つ撮影し、説明をつけ、レイアウトして同人誌として出されたことそのものが、また一つの驚異(きょうい)だと思います。自分一人でやるならすいすい進む作業を、他の人にも分かりやすいようにマニュアル化する面倒くささを、こんなにもさらりと乗り越えて、こんなにも丁寧に記されていることに拍手せずにはいられません。

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順を追って解説されています。本体は中とじで作られているので、広げて置くことができるのもうれしい

美しさを追う戦術を惜しみなく公開

 作者さんはバレエ経験ゼロでありながら、美しいバレエシューズとは何かを探りつつ、ミニチュアのトウシューズを作り続けてこられたそうです。実はご本のはじめにはこんな言葉がつづられています。

 「何度も作ったら、木型の形をこう変えたらこんなミニチュアトウシューズが作れる。など感覚がわかってくると思います」

 木型から作る工程を何度もなんて、なかなかにヘビーなことが書かれていると一度は思ったものの、ご本を読んでいると、自分で作ってみる楽しさとやりがいが込められた言葉ではと考えが変わってきました。

 自分が感じた美しさを指先を使い現実に出現させてきた、いわば勝利の戦術を惜しみなく公開しつつ、それだけでなく読み手一人一人への創作に手助けになるように。一足が凛と立つだけで、それを履いて踊る姿まで連想できるミニチュア作品を、それぞれに追求していくために……小さなトウシューズと同じように細やかなご本だと感じました。


時々イラストで登場するうさぎのジッピーくんがいい味を出していて励まされます

サークル情報

サークル名:カミエータ

Twitter:@hooo_hokekyo

Instagram:@imoco931

ブログ:http://okomoriya.blog88.fc2.com

入手先:MOUNT ZINE(2021年7月末まで)

今週の余談

 私も少しお人形の服を作ることがあるのですが、“いい感じに薄い布”に出会うとうれしくなります。

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みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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