「“正解の音”を初めて知った」 駅の音や放送を可視化する「エキマトペ」、耳の聞こえない当事者の体験描く漫画が話題 作者に話を聞いた(1/3 ページ)
作者のうさささんに詳しい話を聞きました。
駅に流れる環境音やアナウンスを可視化する装置「エキマトペ」のおかげで、聞こえてくる音の正体を初めて認識できた――。耳が聞こえない漫画家であるうささ(@usasa21)さんが、自身の体験を描いた漫画がTwitterで12万いいねを獲得し、「すてきな話」と話題を呼んでいます。
うさささんは普段、補聴器を通して周囲の音を聞いていますが、それが何の音でどこから来ているのか、何と言っているのかまでは認識できません。相手が人であれば、口の動きや状況から「あいさつかな?」などと予測できますが、環境音や施設のアナウンスとなると、それが何を意味するのか全く分からないのだそうです。
だからオノマトペについての認識は、漫画などから得た「車はブロロロロと走るもの」といった情報のみ。駅などに行くと、聞こえてくる音が何に起因するもののか、「“正解”を知らない」とつづります。
そんなある日、うさささんはエキマトペに出会いました。これは富士通とJR東日本、大日本印刷の共同プロジェクトで、上野駅の1・2番線(京浜東北線と山手線)にて12月14日まで実証実験が行われている装置。ホームに流れるアナウンスや電車の発着音、ドアの開閉音などをリアルタイムに文字や手話へ変換し、専用のディスプレーに表示する仕組みです。
「ビュウウウウウ」「まもなく1番線に快速の電車がまいります」――次々と現れる音の情報に、うさささんは「そんなこと言っていたの?」と驚くばかり。「この音『ヒューン』だったのか」「ホームでも『ご乗車ありがとうございます』と言ってくれていたのか」などと、初めて知った“正解の音”に感激します。
「あぁ私は、聴者にとても近い形で、今ここに立っているのだな」と、感慨にふけるうさささん。聞こえなくても全ての音をその場で知ることができる――そんな日がいつかやってくるかもしれないと、未来への期待を抱いて帰路につくのでした。
この漫画には、「音が聞こえる幸せに気付いた」「誰かのためにこんな技術を作れる研究者になりたいと思った」「これが当たり前の世界になるとよいですね」など、感銘を受ける声が多数寄せられました。エキマトペの開発に携わった人も、「お役に立てていてうれしい」と反応しています。
編集部はうさささんに詳しい話を聞きました。
―― あらためて、エキマトペに出会ったときの気持ちをお聞かせください
うさささん 音に関するもの全て、予測して判断するしかない世界で生きている私にとって、“正しい音”を知るってとても大事なことなんです。正しい音をエキマトペが教えてくれて、ホームでの世界が一気に変わりました。予測しなくともよく、ごく自然な形でホームにあふれる音を知ることができる――私は聴者にとても近い形であの場に立てたんだと感動しました。
―― エキマトペのような取り組みが、ほかの駅や業態でも普及してほしいと思いますか?
うさささん 導入費用や、余計な音を拾う可能性、緊急時の案内ができるかどうか……と、いろいろと課題はあると思うのですが、もしもいろんな所でそのような装置が見られるようになったらとてもすばらしいことだと思います。この装置は聴覚障害者だけでなく、聴覚過敏の方や外国人にも優しく寄り添ってくれると思うんです。
―― 漫画で駅のアナウンスの音を知ったとありますが、ほかの場面でもそういったことはありますか?
うさささん 音を知る手段としては音声認識アプリもありますが、音源地に近い上に騒がしくない環境でないと、正確に音を拾うことができませんし、オノマトペを拾うこともありません。テレビの字幕でも、オノマトペの箇所は「(怯える音)」「(騒がしい音)」と表示されるので、正しい描写を知る機会は漫画しかないかと思います。
―― 最後に、漫画への反響についてご感想をお願いします
うさささん 「エキマトペは必要なのかな? と思っていた。でもこの漫画を読んで考え方が変わった」「補聴器を着けていれば聴者と同じように聞こえると思っていた」「自分も人を助けるものを開発したい・障壁なく楽しませるものを考えたい」という旨の意見が多く寄せられました。自分が描いた漫画が皆さんの考え方を変えるきっかけになり、何よりもうれしく思っています。今後も聴覚障害に関する漫画を描き、いろんな人の気付きにつながるものをどんどん発信していけたらと思っています。
うさささんは、この漫画の他にも、自身の「聞こえないこと」に関する漫画を執筆し、Twitterや各種サイトで公開しています。
作品提供:うささ(@usasa21)さん
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