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実写「リトル・マーメイド」「ブレット・トレイン」……物議をかもす配役のリアルな事情とは? ハリウッドのキャスティングディレクターにも聞いてみた(2/2 ページ)

どの意見にも、それぞれのファンの真実がある。

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「ブレット・トレイン」はホワイトウォッシングなのか?

 一方で、白人以外の役に白人俳優を配役するホワイトウォッシングも、根強くキャスティング議論の対象となっています。8月に公開されたアクション映画「ブレット・トレイン」は、日本の作家・伊坂幸太郎さんの小説『マリアビートル』が原作、新幹線の車内が舞台という設定ながら、日本人俳優の出演が少ないことで、「またしてもホワイトウォッシングなのか?」という議論が米メディアで持ち上がりました。

「ブレット・トレイン」予告編

「ブレット・トレイン」主演のブラッド・ピット(画像はSony Pictures Entertainment YouTubeから)

 問題提起派は、ブラッド・ピット率いる主要キャストの多くが白人であるだけでなく、車内の静寂を守りたい女性客、チャニング・テイタム演じる一般客など、印象的な登場シーンがある数少ない脇役キャスト、新幹線(高速列車)の乗客の多くが白人であることを特に問題視しています。「米国以外の国が舞台なのであれば、製作陣は、その住人に忠実なキャスティングを行うべきで、同作の場合は、日本人や日系アメリカ人をキャスティングすべき」。

 また近年では「クレイジー・リッチ!」「パラサイト」「Everything Everywhere All At Once」(2023年3月公開予定)など、オールアジア人キャストの作品が一定の成功を収めていることもあり、「興収を稼ぐためには白人スターを起用すべきという考えは、時代に逆行している」との見方もあります。

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「Everything Everywhere All At Once」予告編

「アジア系」というくくりにも変化が

 一方、容認派の意見としては、「主要キャストが日本人、白人、黒人、ラテン系、女子という、実はインクルーシブな構成になっている」「ブラッド・ピットのスターパワーで作品に光が当たることにより、原作者・伊坂の著書がさらに映画化されることにつながればうれしい」「原作で伊坂は、各キャラクターの身体的特徴を読者の想像に任せている。日本人名だってニックネームかもしれない。原作の少年が少女に変わっていたり、クリエイティブな脚色が楽しい」といった声があります。原作者の伊坂さん自身も米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、「登場人物は現実の人物ではなく、日本人ですらないかもしれない」とコメントしています。


「ブレット・トレイン」の主役陣(画像はソニー・ピクチャーズ公式YouTubeから)

 今回、日本人キャラクターと思われる主要キャストに名を連ねたのは、真田広之アンドリュー・小路。ともに、同作の核となる存在として評価を得ていますが、小路は日系イギリス人俳優です。ホワイトウォッシングの議論が出るたびに、米国では“アジア人俳優”とひとくくりで語られることも多いですが、一口に「アジア系」といっても、各国のアジア人、日本人、日系人でそれぞれのアイデンディティや魅力があることも事実。キャスティングを巡る議論は、これからさらに多様化していくのでしょう。


「ブレット・トレイン」で核となる役を演じる真田広之(画像はソニー・ピクチャーズ公式YouTubeから)

米国のキャスティング・ディレクターの声 「悔しい思いもあります」

 米ロサンゼルスでNetflixなどの主要プラットフォームやスタジオ作品に関わる、業界歴20年の日本人・日系キャスティング・ディレクターは、「ブレット・トレイン」のような日本舞台の作品におけるキャスティングのジレンマについて、こう語ります。

 「米国では日本人や日系人俳優向けのオーディション数が少なく、言葉の壁もあります。そうしたなか、せっかく日本が舞台の作品なら、小さな役でもできるだけ日本人俳優を起用してもらえれば、彼らはレジュメ(経歴書)に作品名を書くことができ、その後のチャンスが広がります。だから、日本人俳優が少ないというのは悔しい思いもあります」

 「同時に、キャスティングにおいて大切なのは『作品の可能性を広げること』。映画をよくするためには、原作のキャラクターと同じ人種でなくても、全体的な雰囲気や周りとのバランスが、よりキャラクターに近い俳優を起用することはよくあります」

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 「また、作品を作るためには、製作費がつく俳優を選ぶことになるので、(今回、ピットのような知名度の高い俳優が主役に起用されるのは)悔しいけれど仕方がない。ただ最近は多様性のある俳優が求められているので、これからさらに日本人・日系人俳優のチャンスが広がることを期待しています」

「ホワイトウォッシング」「文化の盗用」と「オマージュ」の境界線

 過去にホワイトウォッシングが問題となった例としては、「ゴースト・イン・ザ・シェル」のスカーレット・ヨハンソン、「ドクター・ストレンジ」のティルダ・スウィントン、「ウォンテッド」のアンジェリーナ・ジョリー、「エクソダス:神と王」のジョエル・エドガートンクリスチャン・ベイルなどがあります。人種だけでなく、キャスティングにおけるジェンダー問題も重要で、新作のトランスジェンダー役に抜てきされたヨハンソンやハル・ベリーが、「トランスジェンダー役はトランスジェンダー俳優が演じるべき」という議論を受けて降板したこともあります。


米実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」で主役を演じたスカーレット・ヨハンソン(画像はパラマウント・ピクチャーズ公式YouTubeから)

 さらにホワイトウォッシングへの批判と似たものに「文化の盗用」という概念もあります。2018年には、ウェス・アンダーソン監督が日本を舞台に描いたアニメーション映画「犬ヶ島」が、違和感の残る描写や日本人以外が占めたキャストの顔ぶれなどを理由に「文化の盗用」と批判されたこともありました。ただこのときは、作品ごとにいろいろな国の文化を“取り入れ、アレンジする”アンダーソン流の世界観(違和感も含めて)、日本愛から生まれた作品であることが感じられたため、擁護派も多くいました。

「犬ヶ島」予告編

 米エンタテインメント系メディア「デン・オブ・ギーク」の記者ジーン・チン氏は、「ホワイトウォッシングと異国の物語のアダプテーション(脚色、または脚色された作品)の違いを明確にすべき」という論調で、「『七人の侍』と『荒野の七人』、パク・チャヌク監督版『オールドボーイ』(原作は日本の漫画)とスパイク・リー版『オールドボーイ』など、名作映画とそれを脚色した名作リメイクの例を挙げ、「異国の物語のアダプテーションは、そこにリスペクトがある限り、文化の盗用ではなく、敬意あるオマージュといえる」とつづっています。

 人種や文化、ファンの思いなど、さまざまな要素が絡み合うキャスティング議論。関わる人すべてへのリスペクトがあれば、作品にとってポジティブな議論になると信じて、今後も参加していきたいですね。

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