「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は子どもも見られるマッドマックスだった(2/3 ページ)
ピーチ姫が強いことにも必然性がある。
ピーチ姫が強い!カッコいい!
本作のさらなる重要ポイント、それはピーチ(姫)がただクッパにとらわれマリオを待つだけの存在ではなく、自身も率先して戦う「強い女性」になっていることだ。
今回のピーチは異世界にやってきた初対面のマリオに「修行をさせる」立場でもあり、王国の未来のために他国との交渉に自ら赴こうとする、主体的かつ積極的なキャラクターとして描かれる。
国民(キノピオたち)のためを第一に思う為政者の姿としてもカッコいいし、本人が体術や魔法で戦ってもめちゃくちゃ強い。これに対して、過剰なポリティカル・コレクトネス的な要素であるなどの批判もあるが、個人的には大好きだ。
そもそも、ピーチが強いゲームも存在している。「スーパーマリオUSA」ではジャンプ中に長く移動できる機動力を持ち、「スーパーマリオRPG」では強力な回復技を持ちフライパンでも戦う高性能なキャラでもあった。こうした強さを武器に、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズでも常連ファイターとなっていたが、今回の映画ではこうした側面を前面に押し出したともいえるだろう。
余談だが、女性が物理的な意味で強く、対して男性がいわゆるマッチョなタイプではないものの良きパートナーであることは、「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」にも通ずる。同作は現在はごくわずかな劇場で上映が辛うじて継続中だが、SNSでは絶賛の口コミや愛にあふれたファンアートが多数投稿されている。こうした女性が強い! カッコいい! チームで困難に立ち向かえばもっと強くてカッコいい! な映画が続々と生まれる現状も実に喜ばしいではないか。
何度も何度もプレイして成功するゲームの素晴らしさ
本作は前述したように突如として迷い込んだ異世界での冒険が描かれる、いわば「異世界転生(転移)もの」的なあらすじともいえる。だが、すぐに特別な力に目覚めたり、あっさりとパワーアップアイテムをとってクリアーなどの「俺TUEEEE」にはならない、という点も重要だ。例えば、劇中のマリオはピーチが用意した修行を繰り返して、ボロボロ&ヘロヘロになっていったりするのだから。
実は、監督であるアーロン・ホーヴァスとマイケル・ジェレニックのコンビは、この映画の最も重要なテーマについて「忍耐」であるとも語っている。なるほど、ゲームをプレイし続ければ操作がうまくなり、いつかはクッパを倒せる。そんな、何度も何度もプレイして、やっとクリアーできるゲームの面白みや達成感を、修行シーンや全体的な物語に込めており、それを持って忍耐力を養えるゲームの意義や素晴らしさを問い直しているともいえるのだ。
ちなみに、監督たちは本作の準備のために初代「スーパーマリオブラザーズ」を初めさまざまなマリオのゲームをプレイしていたそうだ。その中でも特に遊んだのは「スーパーマリオ3Dワールド」で、そこから映画のデザインのインスピレーションをたくさん得ていたのだという。実際に、「スーパーマリオ3Dワールド」を遊んだ人にはうれしいサプライズも待っているので、楽しみにしてほしい。
そして、ネタバレになるので詳しくは秘密にしておくが、クライマックスはマリオへのリスペクトに溢れながらも、やっぱりイルミネーション印のクレイジーさもフルスロットルだった。かつてないほどに情報が詰め込まれた映像の快楽と、マリオへの溢れんばかりの愛情と、思いの外ちゃんと伏線を回収した物語が組み合わさり、もはや笑いながら泣ける唯一無二の感動が待ち受けていた。その体験は大スクリーンで見てこそでもあるので、是が非でも劇場で見逃さないでほしい。
(ヒナタカ)
関連記事
「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」レビュー 挑戦的なテーマの確かな意義、だが危うさが付きまとう理由
作り手のプレッシャーと原作リスペクトが大いに感じられた。製作期間30年! 「グロい」「ヤバい」「頭おかしい」三拍子そろった地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー
「狂っている」は褒め言葉。ペルシャ人と名乗ってしまったユダヤ人vsナチ将校! ウソのペルシャ語を教え続けなければ処刑されてしまうサスペンス映画「ペルシャン・レッスン」レビュー
創ることよりも覚えることに必死。医療漫画『K2』、全話無料公開で悶絶するひと多発 今もっとも結婚してほしい身長差カップル(※付き合っていない)について語らせてほしい
「ギュッ」や「入ったら死ぬ風呂」でも話題。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.