キルギスでキリギリス探してみた:できるかな?(1/3 ページ)
すべては冗談から始まった……。「キルギスってどんな国?」「キリギリスっぽいよね」「じゃあ探して来て」。……いるよね?
「キルギスといえば……キリギリス、とか?」
勢いで口にした瞬間、自分の愚かさに顔が赤くなった。30代も半ばを過ぎた成人男子が口にするにはためらうべき発言であった。昼下がりの編集部。テーブルを挟む形でお互いパソコンのキーボードをパチパチ叩きながら、編集長と打ち合わせをしていた。「今度キルギスへ行くんですけど」僕が言うと、旅好きの編集長は「じゃあ、せっかくなので何か書いてよ」と目を輝かせた。書くのはいいとしても、何かフックが欲しい。いい切り口がないか思案した結果出たのが冒頭の発言というわけだ。
仮にも仕事の打ち合わせである。我ながら、お寒いダジャレだと思う。ところが、僕が自分の失言に猛省しかけた刹那、編集長のキーボードを叩く手が止まった。続いて返ってきた編集長の台詞に、僕は耳を疑ったのだった。
「それ、いいんじゃない」
――えっ、いいの? うーん、ノリが良すぎるぞ。自ら提案しておきながら僕は狼狽えてしまった。そんなこちらの気も知らずか、「キルギスにもキリギリスはいるのかなあ?」などと編集長が遠い目をしている。いるのだろうか。実に素朴な疑問である。「探してきましょうか?」僕はおそるおそる言った。「探してきてよ」と編集長は表情を変えず即答した。かくして、キルギスでキリギリスを探すという暴挙に挑むことになったのであった。
キルギスへ行く、そう友人・知人に告げると、「キ、キルギス?」とみな一様に微妙な反応だった。「どこにあるんだっけ?」と質問で返してくれるケースはまだマシな方で、中には困惑した様子を見せる人もいたほどだ。これがハワイや香港であれば、彼らの食いつき具合もまた違ったものになるのだろう。想像も付かない場所だけに、話のとっかかりが見つからないのだと思う。かくいう僕自身も、いざ訪れることが決まるまでは、まるでイメージが湧かない国だった。
まず簡単に予習してみた。キルギスはかつて旧ソ連を構成していた国の1つで、エリアとしては中央アジアに位置する。国境の南東部を中国と接しているほか、同じく旧ソ連から独立したカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンといった国々に囲まれている。中央アジアの国々は「〜スタン」と付く名前が多く、個人的には密かに「スタン系」などと親しみを込めて呼んでいるのだが、キルギスも以前は「キルギスタン」と称していたのだそうだ。
外務省のサイトによると、面積は19万8500平方キロで日本の約2分の1、人口はわずか540万人となっている。中央アジア自体、他の地域と比べるとただでさえ情報が少ないのに加え、キルギスとなるとさらに情報が限られる。例えばグーグルで「ウズベキスタン」を検索した結果が約695万件なのに対し、「キルギス」だと約39万7000件しかヒットしない。おおよそ17分の1である。旅行で訪れる人も少ないのだろう。唯一とも言える日本語のガイドブック「地球の歩き方 中央アジア」においても、キルギスに割かれたページ数は寂しい限りだ。
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ともかく、一言でいえば「謎の国」なのであった。正直、キリギリスどころではない。何があるのか、サッパリ分からないのだ。実はたまたま義父が、仕事で首都ビシュケクに駐在していたのが今回の訪問の直接のきっかけであった。事前にメールをやり取りする中で、「ところで、キリギリスはいますか?」と書こうとしたが、思いとどまった。義父は冗談の通じるタイプだが、さすがに久々に会う娘の旦那の発言としては不適切すぎるだろうと、ぎりぎりのところで理性が働いたのだった。
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