Aileはなぜプレイ動画に「激怒」したのか? 「徹底交戦」ににじむゲームメーカーの怒り(3/3 ページ)
自社タイトルのプレイ動画が「ニコニコ動画」にアップロードされていたとして、プレイ動画への「徹底交戦」を表明していた、Aile(エール)代表・みやび氏。果たしてプレイ動画は「悪」なのか? 渦中のみやび氏に直接お話をうかがった。
若いユーザーは行間を読めなくなりつつある?
―― 最近では起動時に、動画配信についての警告文が出るタイトルも増えてきましたが、あれを個別のガイドラインとして機能させるというのは?
みやび氏 うーん、でもそうなると、あれだけアニメやゲームが違法アップロードされてるのはなぜ? ってことになりますよ。
―― ああ、アニメなんか作品中にテロップで出ますもんね。
みやび氏 うちのタイトルも、マニュアルやReadmeに「アップロードはダメ」って書いてあります。それでもアップロードされるというのが現状なんです。
―― やはりユーザーのモラルが低下していると。
みやび氏 そもそもデモや体験版の動画アップロードについては黙認していましたけど、なんで体験版の内容を動画で見たがるのか理解しがたいです。だってタダでダウンロードできるし、自分のタイミングでクリックしたり、PC環境のテストにもなるんですよ?
―― ええと、たぶん他の人のコメントと一緒に見たいとか、自分でクリックしなくても進んでいくとか、そういうところに需要があるんだと思います。裏を返せば、それがそのまま動画がアップロードされる理由にもなる。
みやび氏 それも今の若いユーザーが、よくない方向に行ってるってことだと思うんですよね。
―― というと、どういうことですか?
みやび氏 例えば伏線ってあるじゃないですか。今のユーザーの傾向として、伏線を伏線として読み取れないケースが多いんです。あからさま過ぎるくらいでないとダメ。あと物語に隙間があってもいけない。イベントとイベントの間に何があったのか、ちゃんと全部書いてあげないと「話が分からん」って言う人が出てくるんですよ。
―― 行間を読めない?
みやび氏 一を聞いて十を知るということがあまりないんです。僕はよく「想像の翼をはためかす」って言うんですが、それが出来ない。自分で考えようとしないで、何でも「公式」でないとだめなんです。また、同人文化の発展によって、創作ということも人任せにできますからね。
―― ああ、そこでコメントの話につながるわけですか。
みやび氏 だって他人がどう言おうが、自分がいいと思ったらそれはいいゲームなんですよ。みんながいいって言うから買うんじゃなく、俺は面白いと思うから買う。それでいいじゃないですか。
「共存共栄」のためには、ニコニコ動画も変わる必要がある
―― 先ほど、ニコニコ動画自体に肯定的ではないとおっしゃっていましたけど、それはアップロード者が分からないという部分だけですか?
みやび氏 それもありますし、そもそもニコニコ動画全体を見たときに、著作権法に違反していないコンテンツがどれだけあるのか。逆にちゃんと著作権法をクリアしてる動画がどれだけあるか、一度統計をとって欲しいですね。
―― 著作権侵害の温床になっている、という考え方ですか。
みやび氏 以前、著作権侵害コンテンツの多さが問題にされたことがありましたけど、その後も解決できていませんよね。しかもYouTubeと違って、ニコニコの場合「プレミアム会員」という形でお金を取っている。商売にしちゃってるわけです。そこを突かれたら、彼らはちゃんと反論できるのかな、と。
―― 悪く言ってしまうと、著作権侵害コンテンツでお金を取っていると?
みやび氏 だから現状では、もしユーザー側から「アップロードしていい?」って聞かれても、僕はノーとしか言えないんです。アップロードを公式に認めてしまったら、他の違法動画を認めるのと同義になってしまうのではと考えています。
―― 極端な解釈ではありますけど、可能性はあります。
みやび氏 弁護士にも相談したのですが、その気になればニコニコ動画に対する訴訟も起こせるんですよ。ただ、せっかく形成されたニコニコ動画という場を潰すのは本意ではないですし、ちゃんと著作権法を守っているみなさんの楽しみを奪ってしまうのも申し訳ない。またニコニコ動画にチャンネルを持っているメーカーさんも当然いらっしゃるわけで、そちらに迷惑はかけられないな、と。
―― 一応、権利保護のための「ライツコントロールプログラム」というのがありますよね。あらかじめデータを登録しておけば、類似した作品がアップロードされた際に知らせてくれるという。
みやび氏 先ほどの許諾の話に戻りますけど、そういうのがあるなら、メーカーの代わりにニコニコ動画側がチェックするというのも手ですよね。それこそ、動画でお金を得ているわけですから。
―― それならメーカー側がリソースを割く必要がないですね。メーカーは明確なガイドラインを作っておいて、ニコニコ動画がそれに従って判断する。
みやび氏 すごくナイーブな問題ではありますけど、喧嘩するのが目的じゃないんです。お互いにうまく妥協点を見つけて、共存共栄ということになればそれが一番いい。ただそれには、ニコニコ動画自体の有り様も変えていく必要があると思います。「場所は提供します、著作権侵害については自分で対応してください。投稿者の自己責任です、何かあれば警察を通してください」ってそりゃないですよね。しかもそっちはお金儲けてるでしょ、っていう話ですよ(※)。
―― ニコニコ動画側も責任を負う必要があると。
みやび氏 あとはアップロードの際に、個人情報の提出を義務づけること。でないと、現状では刑事事件にするしかない。
―― いきなり刑事裁判となると、ユーザーにとってもリスクが大きいですよね。
今のままでは、削除と再アップロードのいたちごっこ
みやび氏 まずは、当たり前のように動画を上げている人たちに対しての「忠告」が先です。何かあっても削除されるだけだと思っている人に「いやいや、君たち、それは危ないんだよ」ということを、誰かが訴えていかないといけない。いわゆる啓蒙活動ですね。
―― プレイ動画というものを、すごく興味深い文化だと思って見ているんですが、今って、ある意味歪んだ状態で安定してしまっていると思うんです。黙認という灰色の柱に、ユーザーもメーカーも寄りかかってる。そこには悪い面もありますが、良い面もあると思っています。
みやび氏 結局のところ、メーカーの許諾を得るということ以外に、正しい形というのはあり得ないんじゃないですか。もちろんユーザーにも楽しむ権利があるというのは分かります。でも権利を主張するなら、その前にまず義務を果たすべきですよ。税金も納めていないのに権利を主張しても、それは通りません。日本国民の三大義務、覚えていますよね?
―― この場合の義務というのは?
みやび氏 動画をアップロードするなら、ちゃんとメーカーの許諾を得る。それが義務です。でないと権利者側は、いつまでも削除を繰り返すしかないんです。
おわりに
今回はあくまで「メーカー側」の意見をとりあげた形となったが、当然これがすべて正しいというわけではなく、あくまで「提言」であり、「意見のひとつ」であることに留意いただきたい。当然、ユーザーやニコニコ動画側にもそれぞれの考えはあり、どれが正しく、最終的に「どれが正しい」ということはあり得ない。機会があれば、ぜひ別方面からの意見もうかがってみたいと思う。
最後に、念のため筆者のプレイ動画に対するスタンスも述べておこう。インタビュー内でも少し触れたが、筆者はプレイ動画を「ゲームの新しい楽しみ方」として評価している一方で、ほとんどのコンテンツが著作権を侵害している現状については、みやび氏と同様、以前から疑問を感じていた。「こんなに楽しいんだから、もっと堂々と楽しめるようになればいいのに!」とか、「うまく共存できれば、ユーザーにとってもメーカーにとってもプラスになるだろうに!」と言った方が分かりやすいかもしれない。
現在のプレイ動画はメーカーの「黙認」という前提のもと、非常に危うい状態で安定しているというのが現状であり、これを健全な状態へと作り変えようとすれば、根本からの改革が必要となる。
果たして、そこまでして健全な状態に持って行く必要があるのか、それともあえて「黙認」のままにしておいた方がいいのかは、正直よく分からない。しかし、少なくとも今回のみやび氏の行動は、そうした現状について考え直す、ひとつのきっかけにはなったのではないだろうか。これを機に、少しでも多くのユーザーが「著作権」について考え、メーカーとの「共存共栄」の道へと進んでくれることを願いつつ、本稿を終えることとしたい。
みやび氏プロフィール
Aile(エール)代表
本名:渡辺雅宣
法政大学文学部史学科を卒業。ソフトウェアジャパン(当時ネットワーク対戦システムとして「DWANGO」をライセンスしていた流通企業)に入社。その後、大手商社、PC流通、美少女ソフトメーカーなどを経て、2010年にAileを設立。
2011年4月28日に、自身が企画・プロデュース・ディレクションを行ったデビュータイトル「relations sister×sister.」を発売した。幼少期からPCに触れており、その遍歴からしてかなりのヘビーユーザー。MZ-80K、FM-new7、FM-77AV2、PC-8801mkII、PC-8801mkIIMR、PC-9801VM2、PC-9801RX21、PC-9821Xp3、PC-9821Ap3、PC-9821Ls150とマイコン時代まで遡る。今でも一部は現役で稼動し、Ap3にいたってはA〜Jドライブまであるという。
歴史ゲームの影響で、地理歴史の教員免許を取得している。
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